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【映画】「少年と犬(1975)」 マッド・マックス2の元ネタ




おすすめ度 ★★★

 
題名 少年と犬(原題:A Boy and His Dog
監督 L.Q.ジョーンズ
脚本 L.Q.ジョーンズ
原作 ハーラン・エリスン 「少年と犬」(1969)
出演 ドン・ジョンソン、スザンヌ・ベントン、ジェイソン・ロバーツ、アルヴィ・ムーア、ヘレン・ウィンストン
上映時間 90分
制作年 1975年
制作国 アメリカ
ジャンル SF、ディストピア、砂漠
 

 

 
****** あらすじ ******
第4次世界大戦はたった4日間で終結。人類は核で滅びかけ、食料も女も何もかもを力づくで奪う弱肉強食の世界と化していた。主人公ヴィックは、テレパシーや千里眼的な能力を持ったインテリ犬ブラッドを相棒に、ヴィックは女を、ブラッドは食料を求めて砂漠をさまよう。

ある日、若い女ジューンを襲おうとしたヴィックは、彼女から地下に楽園があると聞かされる。「これは罠だ」と反対するブラッドを振り切り、彼女が落としていった地下へのカードキーを手に入口へ向かう。地下深くの町トピーカに着いたヴィックはさっそく確保され、無理やり風呂に入れられる。長年の地下生活が原因で町の男は生殖能力がなくなっており、ヴィックは種馬としてジューンにおびき出されたのだった。大勢の女とやれると知って最初は喜ぶヴィックだったが、すぐに現実を知って逃げ出すことにする。
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映画「マッド・マックス2」(1981)に大いに影響を与えたと言われる作品。「世界の中心で愛を叫んだけもの」でおなじみハーラン・エリスンの原作で、核戦争で滅びかけた近未来が舞台。

喋る犬と共に生きる少年が、地下にある豊かなソサエティに潜り込み、幻滅し、荒廃した地上に戻っていく話。


ホント私の好きな「マッドマックス2」そのもので、犬とコンビなのも一緒なのだった。さらにそこに生きる人々の暮らし。「町」と呼ばれる小さな小さな集落の感じも「マッドマックス2」そのもの。この映画が「マッドマックス2」に多大な影響を与えたことは間違いないでしょう。「少年と犬」の方がややちゃちいといえばちゃっちいけど、その荒廃した世界観は見る価値十分。

個人的に大好きな砂漠ものでもある。砂漠が好きなんです(行きたいわけではない)。サハラ砂漠みたいな砂がさらさらした砂漠も好きだけど、それよりもメキシコとか南米のサボテンが似合うような砂漠が好き。この映画の砂漠ぶりはドンピシャ。だからこの作品も景色がいい。(砂漠ぶりってなんだ)






そんな砂漠の中、生き延びた人々はたぶんそれぞれバラけて生き抜いているんだけれど、砂漠の中にバラックの、町というほどではない集落みたいなのがあって、そこに人々は集まってきてわずかに残ったポルノ・フィルムを見たり、ポップコーンを食べたりしている。

この崩壊した感じがすごくいいんですよ。

なぜこういう壊れた感じが好きなのか分からないけど、たぶん管理されていない自由な感じが好きなのだと思う。ルールが崩壊した感じが。私、管理されるのきらい。
 
主人公のヴィックも、喋る犬を相棒にして、野生の荒野の中で生き抜いている。

 



そんなヴィックの前に、ジューンというちょっと男好きする生意気な感じの女が裸で現れる。

このジューンが曲者で、えらい権力欲の塊なの。


ジューンは、地下にある町トピーカの委員会(小さな政府みたいな感じ)に入れてもらおうと、大人たちの言う通りヴィックを騙してトピーカにおびき出す。

でもずる賢いトピーカの大人たちが約束を守るはずもなく、ジューンは自分がいいように利用されたことに気が付いて、改めてヴィックを利用し直して委員会から権力を奪おうと画策する逞しさ。

そして大人たちだけでなくヴィックも思い通りにならないと分かると、一転「愛してるわ」とすがりついて媚を売る浅ましさ。

どこまでも強欲。ギラギラしてて、自分の欲望に迷いがなくて、猪突猛進。彼女は最後まで自分勝手な強欲さを貫くのだ。




そんなジューンが住み、ヴィックがおびき出されたのが、偽の理想郷「地下の町トピーカ」。

アメリカ南部のイメージなのかな。オーバーオールとか、英国風トラッド・ファッションとか、フリルとリボンのついたワンピースとか、そういう清潔そうな服を着て、マーチングバンドなんか演奏してて、人々は善良感一杯で、いかにも腐敗していそう(笑)。きらい。
 
反抗したりすると「農場行き」になるらしいが、その「農場」とやらは出てこない。「農場行き」が決まったジューンがやたらと怯えまくって、「地上に連れて行って、今すぐ」とすごいブスになってヴィックに哀願するから「どんな強制収容所やねん」と思って見ていると、どうやら「農場行き」と決まるとロボット男のマイケルだったかな?に首の骨を折られて殺されるらしい。そりゃあブスにもなるわ(笑)。

こういうさ、表面的には清潔にキレイにしてて、実は恐怖政治ってほんと怖い。

そして迎える、この映画の名物「衝撃のラスト」。相当ブラックな結末ですが、あっけらかんと笑いながら終わる。ジューンに対して無言で怒っているドン・ジョンソンがいい。


 

👆 原作はこの短編集の中。


ハーラン・エリスンの原作と比較すると、ストーリーは原作を大きく外れることはないけれど、設定を随分いじっている感じ。原作ではビルなんかもある荒廃した都市部が舞台だし、クイラ・ジューンも野心家と言うよりもただの女の子って感じ。ヴィックが種馬的におびき出されるのは同じだが、精子だけを貰おうと機械につながれるわけではない。


でも衝撃のラストは同じといえば同じ。
 
だけど、特にクイラ・ジューンの設定の違いがラストシーンの印象を大きく変えていると思う。
 
映画の方は、クイラ・ジューンのなりふり構わない程度の低い悪女ぶりがムカつくからヴィックに見捨てられたっていう印象だけど、原作の方はジューンが悪女だからではなくて、「女の持つ、本質的な身勝手さと面倒くささ」が原因だから、ヴィックは女といつでもやれる利便性より自由を選択したんだな、という感じがする。


どちらも残酷な結末ではあるけど、どちらをより残酷だと思うかというのは個人差が出てくると思う。
 
私は、衝撃度では、各設定を増幅してエンターテインメントであることを強く意識した映画の方に軍配が上がると思ったけど、

残酷さでは、原作の方から漂う「自由を選ぶ男は強くて自立してて格好いい」という「幻想」・・・と言って悪ければ「男のロマン」みたいなのは、男の人の本音のひとつなんだろうなと思って、女としては原作の方が現実的で残酷だと思った。
 
好き嫌いで言えば、私はどっちの終わり方もそれぞれ味の違いでいいと思う。


しかしトピーカの人々の化粧はなんなんでしょうね。みんな白塗り、真っ赤な頬紅という。「おてもやん」的な。なんか日本がモチーフになってるんでしょうか。 

ぜひ見てみて。安っぽくて笑えるから。




👇 原作はこの中。