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古い映画を中心に、本、仕事・・・etc. 驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「マジック・ボーイ(1982)」 ~80年代の隠れた佳作~

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題名 マジック・ボーイ(The Escape Artist)
監督 キャレブ・デシャネル
制作総指揮 フランシス・フォード・コッポラ
出演 グリフィン・オニール、ラウル・ジュリア、テリー・ガー
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
上映時間 94分
制作年 1982年
制作会社 アメリカン・ゾエロトープ
制作国 アメリカ
ジャンル ドラマ、青春、マジック

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 「自信を失ったときは、黙って反対の方角を指さすのだ」

 奇術師ハリー・ブラックストン


****** あらすじ *******
天才マジシャンを父に持つ少年ダニー。父は自分の力を過信して犯罪に手を染め、投獄された留置所からの脱走に失敗し警官に射殺されていた。母親にも捨てられたダニーは祖母の家を抜け出して、やはりマジシャンをしている叔母夫婦の元に身を寄せる。叔父は平凡なマジシャンだが、叔母には近い未来が見える霊感があった。ダニーは二人に自分のマジシャンとしての才能をひけらかすが、二人はダニーに父親と同じ傲慢さを感じ、真っ当に生きることを諭す。しかしマジシャンとして父親越えの野心を燃やすダニーの耳には届かない。ある日ダニーはひょんなことから市長の息子ステュと出会う。ステュは市長にとってアキレス腱ともいうべきダメ息子だった。ダニーは、汚職まみれの父親の鼻を明かしてやりたいステュと結託し、父が失敗した同じ留置所からの脱出劇を企てる。
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青春ドラマの隠れた佳作。私、この映画がほんとうに好きで好きで。「個人的超絶お気に入り10本」に入れると思う。
 
だけどネットで検索しても詳細はあまりよく出てこないところを見ると、たぶんヒットしなかったんだろうと思われる。でもDVDになっているところをみると、観た人の郷愁を誘う作品なのかもしれない。私は公開からだいぶ後にTVで放映されているのをたまたま見て、非常に気に入ったものの題名を覚えておらず、スター俳優も出ていないことから探すこともできず、一部の記憶だけを頼りに延々と探し続け、10年くらい前にDVDを店頭で見て「こ、これでは!」と喜び勇んで購入したという思い出の作品。
 
10代とか20代とか若い頃に見て、薄い記憶だけで「あの映画すごく面白かったなあ」と思う映画って、大人になってから見ると大したことない場合も多いが、この作品に関しては改めて「ああ、やっぱり好きだ」と思った。
 
制作には「地獄の黙示録(1979)」や「ゴッド・ファーザー(1972)」のフランシス・フォード・コッポラ監督が関わっていて、スタジオはコッポラがジョージ・ルーカスと一緒に作ったアメリカン・ゾエロトープだし、主演のグリフィン・オニールはライアン・オニールの息子で、テイタム・オニールの弟なので、脇のネーム・バリューが結構すごい。
 
まあ、コッポラが制作に関わっていたと言っても監督でも制作でもなんでもなく、ただの「製作総指揮」だけど、80年代と言えば「製作総指揮スティーブン・スピルバーグ!」「製作総指揮ジョージ・ルーカス!」とかばっかりで、私なんて「スピルバーグの新作映画なんだ!」と思ってた(幸せだったな)。スピルバーグのような子供向け娯楽監督では全くないにしても、コッポラだって超大監督なんだから「あの『地獄の黙示録』『ゴッド・ファーザー』のコッポラが贈る感動作!」みたいにしても良かったと思うんだけどね(もちろんそうしたけどヒットしなかったんだろうが)。
 
コッポラ監督といえば70年代のみならず、80年代も超有名監督で、監督する作品は話題作ばかりだった。「ランブル・フィッシュ(1983)」「アウトサイダー(1983)」は当時映画も観たし、スーザン・E・ヒントンの原作まで読んでいる。あのころマット・ディロンが私のアイドルだった。
 
でも実際はコッポラが輝きを失っていく時期でもあった。翌年の「コットンクラブ(1984)」はリチャード・ギアやダイアン・レインなどといった当時の若手スターが出ていて作品も宣伝も派手だったけど、立派にコケていた印象だった。大作を次々モノにしてきたコッポラにとって、「ランブルフィッシュ」や「アウト・サイダー」は小品といった作品だし、そういう作風は向いていないのではないかと書かれていた。そんなコッポラにとって「コットンクラブ」の失敗は、私からみても「コッポラ、オワタ感」があった。
 
コッポラなあ・・・「地獄の黙示録」で大作は疲れたのかなあ。急速に小品化していったなあ。借金まみれになって、映画にお金をかけられなくなっていたのかなあ。何度も会社をつぶしてるし。だけど「え、また倒産?」と思わせながら、何度も復活もしてくるお方でもあった。
 
今作「マジック・ボーイ」はそういった風にコッポラが勢いを失っていくちょうどその入口の作品でもある(製作総指揮なんだけど)。

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しかし今作は、静謐かつ哀愁のある、せつない気持ちにさせられる良作に仕上がっている。ハリウッド映画という感じは全くなく、ヨーロッパの映画みたい。監督のデシャネルがフランス人だからかもしれない。
 
映画に娯楽性はなく、ひたすらダニーの孤独が静かに感じられる。家庭的な愛情に恵まれず、しかし父親はダニーにとっては偉大なあこがれの存在だから、そんな父親を憎むことも出来ない。ただひたむきに亡き父親の背中を追いかける。同世代の友人や仲間はおらず、常に大人たちを相手にして、自分を一人前の大人と認めさせようと背伸びをするダニー。しかも頭が切れて優秀だから、たいがいの大人は言い負かしてしまうあたりも益々孤独感が深まる。ダニーの、自分の生い立ちや境遇、世の中や大人たちに対してちっとも恨みがましくない自立っぷりもせつない。
 
彼はラストで一人で歩いて立ち去るが、きっと一人で逞しく生きていくんだろうな。格好いい男になってもらいたいもんだ。「誰から見ても幸せになる」ことが人生の最大の成功のような価値観が今の世の中は占めているが、ダニーが「誰から見ても幸せ」になるか私には分からない。彼は絵に描いた様な小市民的な幸せになんか、ならなくてもいいのかもしれない。私はダニーにはそんなものよりも、自分の足で、納得のいく人生を歩んでもらいたいと、彼の後姿を見てつくづく思う。
 
始まりから終わりまですべてのシーンが好きだけど、中でも特に ①ダニーの父親越えの演出 ②ラストのダニーが立ち去っていく演出、この2点が本当にせつなくて美しくてすばらしい。だからデシャネルの映画を他にも見てみたいと思うのだが、彼は主に撮影監督として活躍したようで監督作は少なく、監督としては大成しなかった様子。しかし「マジック・ボーイ」を見ると今作に抜擢されたきっかけも彼の映像美にあったと思われ、その後は撮影監督として「ライトスタッフ(1983)」「ナチュラル(1984)」や「ナショナル・トレジャー(2004)」などの娯楽作も撮影しているらしい。

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そして主役ダニーを演じたグリフィン・オニール。個人的に80年代はどんぴしゃなので、映画雑誌など結構読み漁っていたが、グリフィン・オニールの記憶は全くない。繰り返しになるが、ライアン・オニールの息子で、テイタム・オニールの弟とあれば少しは話題になっていても良さそうなのだが、私の記憶には全くない。そしてその後も大成することなく終わってしまったようだ。
 
今作でしか見たことはないが、グリフィンはハンサムではないにしろ、そばかすだらけで生意気そうで、いい顔してる。背伸びしている感じも可愛い。手品もちゃんと自分でやっていて、それが板についているので、後半の脱出劇や金庫破りのシーンなどに説得力を持たせている。グリフィンはダニーにぴったりの配役だった。
 
グリフィンは、暴れん坊ライアン・オニールとの関係もうまく行っていなかったし、子供時代からジャンキーでアル中という、ハリウッドの子役の王道みたいな人生を歩んでしまった。その後はグリフィンのゴシップというよりはライアンのゴシップで名前を見るだけになってしまう。残念なことだ。この映画のあとグリフィンは「処刑ライダー(1986)」に出ていたらしい。ほんと。観たことあるけど、出てたのか。見直すことは・・・ないかも(笑)
 
結局、この作品に出ていた俳優で出世株だったのは、元々ブロードウェイで経験を積んでいた実力者、ラウル・ジュリアだけだったかも(バカ息子役)。彼はあの「アダムス・ファミリー」の当主ゴメス役で最高にいい味出しているので、未見の方はぜひに。超面白いです(クリスチーナ・リッチも最高です)。
 

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追記:私はこの映画は音楽も好きで好きで。映画の出だしから「ああ、いいな」と思うし、その後も「来てほしい時に来る」感じが気持ちいい。曲が流れる度に涙が出そうになる。音楽がこれじゃなかったら、映画の印象もだいぶ違ってしまうだろうと思う。作曲家はジョルジュ・ドルリュー。映画音楽の大作曲家です。