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古い映画を中心に、本、仕事・・・etc. 驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「ショック集団(1963)」~サミュエル・フラーの心理スリラー~

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題名 ショック集団
監督 サミュエル・フラー
制作 サミュエル・フラー
脚本 サミュエル・フラー
出演 ピーター・ブレック、コンスタンス・タワーズ、ジェームズ・ベスト、ハリー・ローデス、ジーン・エヴァンス、ラリー・タッカー
上映時間 101分
制作年 1963年
制作国 アメリカ
ジャンル 60's、心理学/精神分析、社会


とある精神病院に入所している ”黒人男性”が、突然立ち上がってこう叫ぶ。

「神がわが町を訪れたら憤慨なさるでしょう。まさに黒人の温床です。学校、バス、喫茶店、トイレ。私はアメリカ主義者、白人至上主義だ! 聞け、同胞よ! アメリカは白人のものだ! 石を投げ、爆弾を投げつけるのだ! 黒人の外国人どもを吹き飛ばせ!(中略)白人市民会議とKKKを出動せよ!アフリカ人を追い払え! 黒人の母親や子供を葬り去れ! アメリカは白人のもの! 学校を守れ! 旧教徒め! ユダヤめ! 黒人め! 黒人を殺せ!いたぞ! 娘に手を出す前に捕まえろ!  ハレルヤ!」

・・・あなたも黒人ですよ。

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このように、精神が崩壊した人たちが入所するのが精神病棟。

今作でも、夜になるとオペラのアリアを大声で歌う男、壁に向かってずっと立っている男、常に右腕を水平にして硬直している男、いつも楽しそうにひとりで笑っている男などが出てくる。

ひとりで笑ってる人って普通に良く見かけるよね。精神病とは思わないけど、孤独なんだろうなあと思う。話し相手がいないんだろう。わかるなあ、あのラインなら条件が整えば、わりとスッと行ってしまうかもしれない (私、大丈夫か?)。

それに壁に向かって立つ男と言えば、むかーし昔、25年くらい前に新宿で働いていたとき、西口の地下道でそういう男性をよく見かけた。あそこの壁って、今はどうだか分からないんだけど、人一人分くらいの幅で一定間隔に窪みがあって、その男性は壁がわを向いてそこにスポッと嵌まって、じっーと立っていた。人間って、いつ心を病むか、わからないなあと思っていた。

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それはさておき、この映画は精神病院で起こった殺人事件の真相を暴くべく、記者が潜入取材をしてピューリッツア賞をものにしようと目論む話。スローンという男が殺されるが犯人は不明で、精神病院の入所者のなかに目撃者が3人いる。3人とも狂人だが、彼らに接触して記事にしようというわけ。

それで優秀な精神科医をだますために、主人公は1年かけて狂人のふりをする訓練を受ける。妻の協力も得て潜入した彼は狂人たちと生活を共にし、色情狂の女性患者らに襲われたりしながらも、3人の目撃者を見つけて話を聞き出すことに成功する。

自分を南北戦争の英雄だと信じているステュアート、自分も黒人なのに黒人に強い憎しみをたぎらせる南部黒人学生トレント、精神年齢が6歳に後退したノーベル賞物理学者ボーデンに次々と接触、ようやく真犯人の名前を聞き出すことに成功するが、その頃には主人公の精神も蝕まれ、最後は廃人になってしまう、という話。

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この映画を初めて見たのは20年以上前、TVの深夜枠だった。偶然チャンネルを合わせ、映画の途中から見て衝撃を受け、しかし題名も覚えておらず、「いつかまた見たい、いつかもう一度見たい」と思っていた映画。

あのころはなかなか探しようがなかった。他の映画は結構足で探して見つけられたものも多いんだけど、今作は足では見つけられなかった。

でも現在は「検索」なんていうことが出来るからね! 私が覚えているのは「モノクロ映画であること」と「黒人差別に駆られた若者が取りつかれたように自分の思想を主人公に向かって喋りまくる中で、ふとあるグループ名を思いつき、『クー・クラックス・クラン!これだ!』みたいに興奮に駆られるが、その若者自身が黒人である、というシーンだけ。これが当時衝撃だったなー。「ふあああああ」みたいな。

で、数年前にこの情報だけを頼りに検索した結果、この「ショック集団」を引き当てた、と。インターネット万歳!しかしもう絶版系みたいで、中古でやや高め(6000円くらいだったかな)。数年前はお金が無くて躊躇したけど、でももう大人だから買うぞ。で、正解! まさにこれでした。

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20年ぶりに見た感想は、まあ、さすがに初見当時のインパクトはなかった。残念。脳内で上位変換してたかも。

主題はやはり、「正常な人間が、徐々に精神を蝕まれていく恐怖」ということになるのだろうと思うが、いまひとつわが身に迫ってくるほどの恐怖を感じなかった。自分の身に置き換えるとか、主人公に感情移入するとか、そういうことが出来なくて、私には難しい映画だったな。

むしろ以前取り上げた「バニーレークは行方不明」の方が怖いと思う。



「自分のアイデンティティを疑われた場合、はたして私は自分のことを証明できるだろうか」という、実存が疑われる系の方が「精神が崩壊するだろうな」とリアルに思う。「バニーレーク」は自分ではなく娘の存在が疑われるのだが、私だったら「何言ってるの、いるでしょ。いた・・・よね。いたでしょう。え、いないの? いなかったの?いや、だって、ずっと一緒にいたし、みんなも知ってるでしょう。え、いないの(泣)え、でも、でも、そんなはずない。だってだって・・・」という感じで、どんどん自分の正気を疑っていくと思う。

「みんなの方がおかしいということはありえない。だから自分がおかしいんだろう」と。ああ怖い。頭がおかしくなっていく過程が想像できる。

でも今作は「我がことのように恐怖する」という感じには、なれなかった。

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まず今作は、主人公の狂人設定が「妹を抱きたい欲望にかられて妹を襲いかけた」というものだったのだが、これで精神病棟へ入れられてしまうものなのだろうか。それほど酷い暴行をしている感じでもないし、だいたい妹役をやっている妻が「この計画に乗り気じゃないし、彼にべた惚れ」だからイマイチ歯切れの悪い証言しかしてないし・・・

さらに演出が結構大袈裟にバタバタしてて、かなり激しい感情的な演技だったし、それに追い打ちをかけるように「ジャジャーン!」って大袈裟な音楽を当てて補強する、アングルもあおりで撮って不安感や狂気を補完する、みたいな感じで、ちょっとB級感が・・・(B級映画自体は好きなんだけども・・・)。

妻役の女優も安い感じで、私は好きじゃなかった。主人公の夢の中に出てくる特撮映像も安っぽくて、品が無い感じも嫌だったし、やっぱりB級感がここでも・・・(悲)

妻はいなくても成立する映画だと思うから・・・いらない。もっと言えば色情狂女集団もいらない。女がらみの部分はことごとくいらなかったと思う。これがなければもう少しクールで格好いい映画になったんじゃないかな。

まあ、そもそも監督のサミュエル・フラーは低予算映画で有名な、いわゆるB級映画監督として知られる監督だし、今作もかなり限定されたセットで撮影された低予算映画とお見受けした。

するとB級だからこそ、お約束的に扇情的なシーンも必要だった・・・ということなのかもしれないな。しょうがないか。