おすすめ度 ★★★★
題名 キング・ソロモン(King Solomon's Mines)
監督 コンプトン・ベネット、アンドリュー・マートン
脚本 ヘレン・ドイチュ
原作 ヘンリー・ライダー・ハガード 「ソロモン王の洞窟」 (1885年)
出演 デボラ・カー、スチュアート・グレンジャー、リチャード・カールソン
上映時間 103分
制作年 1950年
制作会社 MGM
制作国 アメリカ
ジャンル スペクタクル、冒険、アンドリュー・マートン、BGMなし系
キング・ソロモンの秘宝とやらが出てくるが、それを探す冒険映画というよりは、エリザベスの旦那を探すことが目的だから宝には目もくれない。
そして宝探し人探しでアフリカの秘境を行く割には、「息もつかせぬハラハラドキドキ!」といったアトラクション・ムービーでもなく、紀行映画みたいなリアリティ重視の、地に足が着いた大人っぽい娯楽作になってる。
そういうところも、他のあちがちな「財宝探し映画」とは一線を画しているのが特徴的。
1937年の『キングソロモン』のリメイク作品でもある。
あらすじ
1897年、アフリカ。金持ちの白人相手にガイド業を営むアランは、客を喜ばせるために動物を撃ち殺すのに飽き飽きして息子が待つ英国に帰るか思案中。そこへ、行方不明になった夫を探しに英国から兄妹がやってくる。妹エリザベスの夫カーティスは1年半前、「キング・ソロモンの秘宝」を求めてアランの元へやってきたが、アランが協力を拒んだ後そのまま行方不明になっていたらしい。カーティス向かった先はカロワナと呼ばれる場所のさらに奥地で、現地の者すらも入らない人類未踏の地だ。
危険を冒す価値を感じないアランは全く気が進まない。しかし兄のジョンに説得され、エリザベスからは一生かかっても稼げないような大金を積まれ、アランはカーティス探しのガイドを引き受ける。アランは、死んだ可能性の高い夫を、しかも自分の命も失う危険をおかしてまでなぜ探すのかとエリザベスを詮索し、エリザベスの方もアランの本心を見抜いて応酬し、二人の関係は緊張したスタートを切る。
こうして、勝ち気な上流階級の若き夫人と、物わかりの良い優しい兄、野性味あふれる男ら一行の、サバンナを行く冒険の旅がはじまる。
音楽がないことについて
嘘ついたかも。音楽はある。
アフリカが舞台だから、そこで流れる民族音楽のような土地の音楽は流れる。
でも取ってつけたようなサントラBGMはない。「泣かせよう」とか「笑わせよう」とか「怖がらせよう」とか、登場人物の感情をドラマチックに演出して観客に押し付けたり、ハラハラドキドキさせようと音楽が強引に盛り上げて観客をごまかす、そういう目的の音楽は一切ない。ただただアフリカの大地の生きた音楽がある、という感じ。
だからエリザベスとアランの関係も、BGMでゴリゴリ押し付けて説明してこないから、ふたりの感情の変化を静かに見守ることが出来て良かった。
音楽がない映画っていいね。
エリザベスとアラン、夫のカーティスの関係
ま、たぶんこの映画は「人間を深く描く」とかいう文学作品ではなく、あくまでも娯楽作だからだろうと思う。
最初アランは、エリザベスが命がけで夫の生死を確かめようとするのは、夫の死亡が確認できないと財産を相続出来ないからではないかと勘繰っていたけれど、エリザベスはカーティスと結婚したから金持ちになったのではなく、財産はもともと自分の物なのだと言っていた。するとアランからすると尚の事エリザベスの冒険の意味がますます分からないわけで、エリザベスは「夫を愛しているから」と言うが、アランはそれも理解できない。
で、実際エリザベスは夫をちっとも愛していなくて、良い妻ではなかったらしいことがエリザベスと兄貴の会話から分かってくる。どうやらカーティスはエリザベスにないがしろにされていて、それでいっちょひと山あてて妻を見返してやろうと「キング・ソロモンの財宝」に目をつけ冒険して行方不明になってしまったようで、エリザベスはその罪悪感から悪夢を見てうなされるようになったらしい。
というわけで、命がけで夫を探す理由は「罪悪感」「罪滅ぼし」ということだった。
映画を観ながら、「エリザベスが命がけで夫を探す真相はいつ語られるんだろう」と思っていた私にとっては、やや肩透かし感があった。もっとドラマチックな展開かと思ったもんで。
でも、旅をしながら徐々に自分に対して素直になっていくエリザベスが、最初は「夫を追い詰めてしまった罪悪感」で悪夢を見て、そしてアランに惹かれている今は「もし夫が生きていたらどうしよう」という別の悪夢をみるようになるという、そういう展開と描かれ方は良かった。
自分が夫を愛していなかったことが原因でこういう事態になったことを素直に認められるようになって、「悪い妻だったわ」って思えるようになって、でも今は目の前に逞しく頼りがいのある魅力的なアランがいて、お互い恋も芽生えているし、この状況で夫に「生きてました」と出てこられても困る。
まあ身勝手な話ではあるが、リアルだなあと思った。アフリカでの冒険ではないだけで、こういうケースはままあることだろうと思うので、エリザベスが悪い女とも別に思わない。アランとはお似合いだし、できればこのままアフリカで、冒険しながらキラキラと生きて欲しいなあと思った。
アフリカはすべてが美しい
まず野生動物の一連の映像が見ごたえ抜群。特に山火事で野生動物の群れが一団となって逃げ惑うシーンは迫力満点。言葉ではとても表現できない。
一体どうやって撮影しているんだろう・・・と思いきや、あの『ベン・ハー(1959)』の、あの戦車シーンを監督したアンドリュー・マートンがメガホンを取っているのだった。さすが納得。アンドリュー・マートン恐るべし。彼だけでひとジャンル築いてもいい才能である。
そしてアフリカの「何族」なのかは全然分からないが、アフリカに多数存在する民族がたくさんでてくるのだが、彼らのファッションやメイク、佇まいが格好いいし美しい。
旅の途中で出会った部族の若き長らしい男の頭飾り! どこかのパンクロッカーなんかが被りたがりそう。パンクだよ。いやサイバー・パンクとも良く合いそう。格好良くないですか? 彼。
またその彼がエリザベスにお肉を手渡すところが可愛くて萌えるw 淡々と表情もなく、巨大な肉の塊をすーっと渡すんだよね。それをエリザベスが苦笑いで受け取って、食べたくないから隣のお兄ちゃんにそのまま渡そうとすると、手だけがにゅっと出てきてそれを阻止したりしてw お兄ちゃんとパンク兄ちゃんの両方に「いやいや、お前食べなよ」みたいに阻止されて、自分の顔くらいの大きさの肉を食らうエリザベスも可愛い。
特筆すべきは最後に訪れた、エリザベスの夫カーティスの最期の地(あとで触れるサンボカの生まれ故郷)で見る、原住民の躍動美あふれるダンス。「生命の喜び」とか「大地の息吹」というか、ちょっと日本人では決して真似できない、地面から湧き上がってくる音楽とダンス。
これぞアフリカって感じ。私たちが見たいアフリカがこの映画にはある。
デボラ・カーの美しさ
アフリカの方が性に合ってるんじゃないの。自分らしく生きるのが一番だもん。
お気に入りの登場人物はキバとサンボカ
キバ、ちょっと出っ歯ですきっ歯で可愛い。彼、左耳の耳たぶにすごーーーーく巨大な穴をあけていて、そこにちいちゃな樽みたいなのを差しているのだが、これがソーイング・セットなの。
耳たぶから大きな樽をはずして、中から針と糸を出して繕い物するの。かわいい。
耳たぶに樽がついていてね、それが、、、って、もういいか。
それもそのはず、彼はある部族の王なのだった! 従兄妹に王位を奪われて国を追われていたが、今、王位を取り戻しに国へ戻ろうとアランたちの一行に加わっていたのだった。
彼には確かにその風格がある。最初アランに「お高くとまっている」と悪く言われていたが、お高くとまっているのではなく、生まれながらにお高いのだった。
たとえ100人200人程度のどんなに小さな国であっても、一国の王の家系として生まれたからには「崇高な威厳」みたいなのは身につくだろうし、身についていてもらいたい。
「かわいい」と身近に感じるキバとは全然違う風格があるのですよ。
二人ともすばらしいキャスティングだった。
機会があればぜひ見てもらいたい映画です。
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