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古い映画を中心に、本、仕事・・・etc. 驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「喰いついたら放すな(1960)」 ~出世しない男の出世しない理由がよくわかる映画~

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ことわざ「虚仮の一念岩をも通す」がぴったりな作品。結構苦い映画だった。

主人公のリチャード・トッドはカーク船長似、嫁のキャロル・ホワイトは整形したマイケル・ジャクソン似。

そしてピンク・パンサー・シリーズで有名なピーター・セラーズが車泥棒の親玉をやっているけど、コメディ要素は微塵もない。


ダメ男のセールスマン、ジョニーは売り上げを伸ばそうと無理して車を購入するが、一週間足らずで盗まれてしまう。車が無ければ成果をあげられないと、妻の反対も押し切って執拗に車の行方を探し続ける。その一念が、車を盗んだ街のチンピラや、車泥棒の親玉の愛人、果ては親玉のメドウズをじわじわと追い詰めていく、という話。

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イギリス映画なんだから当たり前だけど、やっぱりハリウッド映画とはだいぶ違うなと思った。一見して、もっと娯楽性の高い作品にすることもできるのに、そうしない当たりがハリウッドじゃない感じがする。ハリウッド映画なら主人公ジョニーがもっとヒーロー化して、超人的な推理力や運動能力を発揮し、車を盗んだ黒幕を暴力的に追い詰めて、最後は悪人をとっちめて車をとり返して大団円みたいな、えらくポジティブな作品になりそう。

でもこの映画は全然そうじゃない。結構現実的な、苦い映画だった。

ジョニーはいたって普通の、ごく身近にいそうな平凡さだし、正直言ってかなりの負け犬だ。結構いい歳をしていそうなのに自分がまるで分っていなくて、まだ自分が成功者になれると思っている。

彼は大して売り上げを上げられない様子の、うだつの上がらないセールスマン。隣の机の同僚からは、妙に目を付けられてバカにされている。だけと彼は統計学とかマーケティングみたいなことを勉強していて、成績も優秀だ。ジョニーは彼から「君も勉強してみたら?」みたいなことを言われているが、「僕には必要ない」とか言って、全然興味を示さない。

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なぜか。

それはたぶん車を買ったからw 車を持てば、もっと効率よく顧客を回れて、成績が上がると思ってるみたい。

だけどその希望の車が盗まれちゃって計画が狂う。それで執拗に車にこだわって、狭視眼的に車を盗んだ黒幕を追っていく。

いやあ、ジョニーさん、あなたはまるで車が無いからセールスが上手くいかないように思い込んでいるけど、実は車なんか関係なくて、仕事のやり方や考え方が全くなっていないから、仕事が上手くいかないんだよ・・・。

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車が無くなっても、顧客とのアポイントメントに遅刻しちゃあいけません。ついこの前まで車はなかったんだから、ちゃんと行けるでしょ。車がないならないなりに間に合うように行かなきゃいけないし、仕事に差し支えないように捜査をしなくちゃいけませんぜ。

なのに一時間も遅刻して現れて、秘書的な中年女性にむげに断られたからと言ってキレる始末。断られて当たり前。キレてる場合じゃあない。

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それに、ケチらず保険には入っておきましょうね。マメに伊達メガネなんかかけても賢くはなれません。社長が言っている「迅速」の意味は移動速度ではありません(この後の社長の顔。ダメだなこいつ、みたいな絶妙な顔してた)。


奥さんはジョニーの器を見抜いているし、これ以上危険なことをしてほしくないから、「あなたは、あなたがかけている伊達メガネみたいな男だ」と言って目を覚まさせようとする。奥さんに「あなたがこれ以上車にこだわるんなら、家族に危険が及ぶ前に家を出ていくわ」と最後通牒のようなことを告げるんだけど、ジョニーはそれを振り切って命がけで車をとり返しに行く。

ジョニーにしては出来すぎの、いい奥さんなんだけどね・・・母性も強そうで、ジョニーに対して多くを望んでいなさそうだし。ジョニーも妻を大切にしている感じが強調されているから、貧しくても慎ましく生活すれば幸せになれそうなのに。

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なんかジョニーは、自分の今までのダメさ加減に自分で嫌気がさして、そんな自分を変えるきっかけとして、今回の車盗難事件にこだわっている感じもある。「これにこだわらないとオレはダメなんだ! これしかないんだ!」みたいな。

正直、私はこの時は「行け!ジョニー! 男なんだから、たとえ命をなくすかもしれなくても、家族を不幸にするかもしれなくても、最後までやり通せ!」とか思っちゃいましたけど(笑)

でも映画の最後を見ると、たぶんジョニーはあんまり変わらなさそう。車もとり返せたけど、スカッと「よかったね!」みたいな終わり方じゃあない。奥さんは結局、家を出て行ってはなかったけど、傷だらけになって帰ってきた旦那を見る目は悲しそう。「ダメな人ね・・・しょうがない、見捨てずに見守っていくか・・・(ため息)」そして抱きしめる、みたいに見える。この奥さんは幸せになれるのでしょうか。

 

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ところで俳優陣ですが、「ピンク・パンサー」シリーズのクルーゾー警部役のピーター・セラーズが出ている。今作でのピーター・セラーズは、ニコリともしない小悪党で、横暴で残忍。カメを踏みつぶすシーンは見ていてキツかった。ひどすぎる(ていうか、本物を踏みつぶしてないよね?)。つまんない若い小娘を囲っていて、裏切られてましたな。

個人的にはその愛人の女の子と良い仲になっちゃってる、街の不良少年役の男の子がかわいかった。あんまり賢そうじゃあなくて、今はとんと見かけなくなった、古き良き懐かしき不良少年っていう感じ。

で、結局こっちのカップルも女の方が母性が強くて「ダメな男を見守る系」になってましたなあ。今回のことはこたえたみたいだし、見逃してもらえるといいね。

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題名 喰いついたら放すな
監督 ジョン・ギラーミン
脚本 デニス・キャナン
出演 リチャード・トッド、ピーター・セラーズ、エリザベス・セラーズ、ジョン・ベイリー、キャロル・ホワイト、アダム・フェイス
上映時間 88分
制作年 1960年
制作国 イギリス
ジャンル モノクロ、犯罪、60's