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古い映画感想ブログです。驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「ノートルダムのせむし男(1923)」 ~傑作~ ロン・チェイニー版カジモド 詳しいあらすじ付き

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題名 ノートルダムのせむし男
監督 ウォーレス・ワースリー
原作 ヴィクトル・ユーゴー「ノートルダム・ド・パリ」1831年
出演 ロン・チェイニー、パッシイ・ルース・ミラー、ノーマン・ケリー、ブランドン・ハースト
上映時間 100分
制作年 1923年
制作国 アメリカ
ジャンル サイレント、モノクロ、ドラマ


何度も映画化されてディズニー版もつくられた、ヴィクトル・ユゴー原作「ノートルダム・ド・パリ」の初映画化作品。ストーリーもさることながら、登場人物たちが生き生きキラキラしていて映画を引っ張る。

せむし男の名前は一般に「カジモド」だけど、この映画では「クアシモド」と表記されてる。


原作ではエスメラルダは死んでしまうが、この映画では死なない。一種のハッピーエンドなのかな。

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****** あらすじ (長め)******
ルイ11世の治世。愚人祭。祭りのさなか、盗賊の首領の娘エスメラルダは騎士フォーブスと出会い、瞬く間に恋に落ちる。前からエスメラルダを狙っていたクロウド大司祭の弟ジハンは、ノートルダム寺院に住む醜い男クアシモドを利用してエスメラルダを自分のものにしようと画策する。

夜、寂しい道を帰宅するエスメラルダを、ジハンはクアシモドにさらわせようとする。ところが偶然通りかかった騎士フォーブスに阻止され、ジハンの計画は失敗。フォーブスとエスメラルダの仲はますます進展してしまう。クアシモドは捕らえられ、誘拐の罪でむち打ち20回の刑となる。民衆にあざ笑われるクアシモドにエスメラルダは優しく水を与え、クアシモドは醜い自分に優しくしてくれたエスメラルダに恋をする。

フォーブスとエスメラルダの仲が深まる中、ジハンはエスメラルダの育ての父クロパンに、自分とエスメラルダの結婚を許せば莫大な財産が入ると誘惑するが、クロパンは心が揺らぎながらも「まだ機は熟していない」と一旦は退ける。

逢い引きするフォーブスとエスメラルダを目撃したジハンは、自ら行動を起こす。背後から近づきフォーブスを刺して逃げるが、その罪は一緒にいたエスメラルダにかかってしまう。エスメラルダは裁判にかけられ、ジハンの証言で魔女として絞首刑が確定する。さらにジハンは療養していたフォーブスの元を訪れ、エスメラルダが絞首刑に処せられることを告げる。フォーブスはショックで床に臥せてしまう。

次にジハンは、囚われのエスメラルダの元へ行き、「フォーブスは死んだ。お前を助けると彼と約束した」と嘘をつく。そしてひざまずき愛を告白するが、エスメラルダは「人殺し!」と拒絶する。ジハンは「では絞首刑になるがいい」と言って去る。

クアジモドはエスメラルダのためであるとは知らずに弔いの鐘をつく。エスメラルダは処刑場へ運ばれる。自分がついた鐘がエスメラルダのためのものであったと知ったクアジモドは激高してエスメラルダをさらい、クロウド大司教はノートルダム寺院にエスメラルダをかくまう。エスメラルダ救出に成功したクアシモドは喜びの鐘をつく。

ジハンはクロパンにエスメラルダ処刑の段取りを伝える。「機は熟した」と悟ったクロパンは、仲間と共にエスメラルダ奪還を決行する。吟遊詩人グリンゴアもフォーブスの元を訪ね、クロパンがエスメラルダ奪還のために決起したことを告げる。フォーブスも、エスメラルダ救出のため馬を走らせる。

クアシモドはエスメラルダを救出しに来たクロパンたちを迎え撃つ。戦闘に夢中のクアシモドがふと気がつくと、そばにいたエスメラルダの姿がない。執拗なジハンに襲われているエスメラルダを救おうと、クアシモドはジハンをノートルダム寺院から突き落とす。しかしクアシモドもジハンのナイフで深手を負ってしまう。そこへフォーブスが現れる。エスメラルダの目にクアシモドの姿はもう入らない。抱き合う2人を見たクアシモドは、痛手を負った体で最後の鐘をつき、その場で息絶える。
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ストーリー自体は本来、シリアスなものなのだろうと思う。圧政に苦しむ民衆とか、生まれつき奇形に生まれてしまった男の報われない愛とか、テーマは割と重くなりがちな気がするけど映画はそうなっていないのは、登場人物たちの演出と演技が大きい。


中でも私がお気に入りだったのは、吟遊詩人のグリンゴア。かわいい。

なんにも悪いことはしていなさそうなのに、盗賊たちに捕まって、彼らの「絞首刑ごっこ」に付き合わされて首をつられそうになったところをエスメラルダに救出される。服とか身ぐるみはがれちゃって、下着姿でかわいいの。

そしてフォーブスの家にエスメラルダの手紙とやらを届けに行く場面の食事のシーン。テーブルに乗った料理が気になって仕方がなくて、おあずけをくらった犬みたいに我慢してる。で、許可が出た途端に食べようとするんだけど、夢見心地のフォーブスにことごとく邪魔される(笑)

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そしてそのフォーブス! 貴族の娘と婚約しているのにエスメラルダにも粉をかける不実な騎士なのだけれど、ぜんぜん憎めない。婚約者と一緒にいるのにエスメラルダに魅了されて、「なんて美しい!」って、隣に彼女いるよ! ぜんっぜん気にしないのね。

登場からしてこの姿勢。笑う。

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のっけから これ

終始にやけてるし、エスメラルダを家まで送り届ける道すがら飲み屋に誘って、もう服脱がしてるし!

でも、エスメラルダの生い立ちを聞くと服を元に戻して「家まで送りましょう」とか言って急に真摯になったり、エスメラルダ救出劇が行われると知れば駆けつけたりして、とりあえず「恋のためなら命がけ」の、よくある「戦闘よりも恋に生きるロマンチストな騎士」の典型って感じ。

エスメラルダが捕まって絞首刑になると知れば絶望して絶叫し、死んだと思って傷心して床に臥せて自分をいたわっちゃったり、とにかく「人生は恋が全て」といった具合で忙しい。近衛兵の隊長に任命されてるけど、ちゃんとできるんでしょうか。

最後ふたりは抱き合って「よかったね、めだたしめでたし」みたいになってたけど、熱しやすく冷めやすいってこと、ない? 大丈夫? エスメラルダ。


とはいえそのエスメラルダさん。私あんまり好きじゃなかったなあ。登場シーンの明るく奔放な感じは魅力的ってことなんだろうけど、私は貴族の娘のリス令嬢の方が可愛かったと思うし・・・

それにちょっと調子に乗りやすい「お調子者」感が・・・ フォーブスが婚約者のリス令嬢宅で行われるパーティに、なんとエスメラルダを連れて行くんだけど、「着る服がないわ」「用意してあるよ」というありがちな流れで、服を着替えて登場するんだけど、その時の顔。

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この顔である

ムリ。私ムリ。仲良くなれない。「エジプト王家の娘なのです」みたいな設定に乗っかってる姿もきらい。リス令嬢の方が、貴族の娘らしくやや勝ち気な表情ながらも控えめな感じで、私はリス令嬢のほうが好きです。

まあ、どうやらエスメラルダも実際は良いとこの娘みたいだけど、その設定はあんまり生かされていなかった。


そして卑怯の塊ジハン。まー、卑劣なの。あの手この手でエスメラルダを手に入れようとするけど、このやり方で手に入れても愛がないことは明らかじゃん。まあ女を「所有できればいい」と考えるタイプなのかもしれないけどー。女を不幸にする典型。

しかし、このジハン役の俳優の「ほくそ笑む顔」がすごい。ここまでほくそ笑めるもんかね。うまいなあ。

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ほくそえむジハン

そしてクアシモドと、それを演じるロン・チェイニー。

ロン・チェイニーはこの作品の後「オペラ座の怪人(1925)」でファントム(エリック)役をやって、「メイクアップ俳優」として映画界に大きく影響を与える事になるんだけど、どんなにメイキャップをしてもクアシモドの心の動きや思ってることが手に取るように伝わってくる表現力がすごい。

そしてそのサイレント時代特有の、やや大げさな表情や身振り手振りがユーモラスでかわいくすらあって、登場シーンに「いいなあと思っているクアシモド」とか「悪態をつくクアシモド」とか「怒られてすんませんなクアシモド」「エスメラルダはーん!なクアシモド」「二人の逢い引きに図らずも出くわしてしまって気まずいクシモド」とか、いちいちキャプションをつけたくなるw

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二人の逢い引きに図らずも出くわしてしまって気まずいクアシモドの図

ところでクアシモドはどういう人間性なんだろう。


出だしは誰からも愛されない醜い男で、民衆からもバカにされ嘲られ、友達もなくかなり孤独な感じ。そのうっぷんを晴らそうと、祭りで浮かれる民衆に向かって何やら「ばーか、ばーか」みたいな悪態をついて、結構ひねくれてしまっている様子もある。

でもすぐにエスメラルダを巡ってのクアシモドは、ピュアでイノセントな、心根の優しそうな人物として描かれていく。

これは元々「不幸な生まれと生い立ちにも関わらず奇跡的に純粋な心を保つことができていたクアシモドが、祭りで浮かれる人々にちょっと一時的に悪態をついてしまっただけ」なのか、それとも「不幸な生まれと生い立ちで人間性も歪んでしまった憎悪に満ちたクアシモドが、エスメラルダの優しさに触れ恋をしたことで俄然ピュアな心が芽生えてきた」のか、ロン・チェイニーの出だしからちょっとユーモラスな可愛らしい演技のせいで、映画だけだとちょっと分からなかった(後者なんでしょうけど)。

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いずれにしてもロン・チェイニー繋がりとしては、クアシモドとファントムは、「醜く生まれて人並みの愛情を知ることができない男の一途な愛」といった共通点があるものの、クアシモドの「見返りを求めない献身的な愛」に対して、ファントムは「自分の満足の為にクリスティーンを地下にさらって、自分の不幸に付き合わせようとする身勝手な愛」という点で大きく違う。その点でファントムはジハンとなんら変わるところは無い。

にもかかわらず、私はクアシモドよりもファントムの方が好きなのだけれど、いったいなぜだろう。音楽の力なのかなー。