おすすめ度 ★★★★
題名 雨に唄えば(Singin' in the Rain)
監督 ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン
制作 アーサー・フリード
出演 ジーン・ケリー、デビー・レイノルズ、ドナルド・オコナー、ジーン・ヘイゲン
上映時間 103分
制作年 1952年
制作会社 MGM
制作国 アメリカ
ジャンル ミュージカル、コメディ、映画音楽
のっけから笑わせてくれる、MGMミュージカルの名作コメディ。
映画がサイレントからトーキーへと移り変わるはざまの騒動を描いた作品というだけでも期待できるが、それをジーン・ケーリーやジーン・ヘイゲン、ドナルド・オコナーら芸達者な出演陣が、畳み掛けるように笑わせてくる大傑作。
主題歌「雨に唄えば」も有名だし、ジーン・ケリーが雨の中、傘を差して唄いながら踊るシーンも有名。恋をするってこういう気持になることなんだなって分かる。
雨が降っていても、自分に好きな女の子がいて、その子も自分を好きだとわかったら、雨が降ってたってこういう気持ちになるんだって思う。そういうのがすごく良く伝わってくる(このシーンが好きかと言われれば、別にそうでもないんだけどw)。
あらすじ
時は、サイレント映画時代のハリウッド。ドンとリナは世紀のカップル的にもてはやされる大スターで、特にドンの周りにはいつもファンが群がり、気絶する女の子もいるほどの人気ぶり。10作もの映画でコンビを組んでいる人気女優のリナとは結婚が噂される公認のカップルだけど、実際は事実無根。話題作りにスタジオが噂を流しているだけだった。なのにどういうわけかリナはゴシップ誌に載っている記事を信じ込み、自分たちは婚約する熱い仲だと思い込んでいる。
そんななか偶然出会った売れない女優キャシーに、「あなたの映画なんて1本みたらあとは全部同じよ。それに役者は実際に喋らなきゃ。サイレントなんて大げさな身振り手振りだけで、役者とは言えないわ」とボロクソに言われたドンは、そんな彼女が気になって仕方がない。
いよいよドンの主演作にもトーキーの波が押し寄せてくる。しかし慣れないトーキーに制作は難航。その上相棒のリナは、育ちが悪く教養のないしゃべり方で、しかも声は素っ頓狂、とても映画でしゃべれる代物ではないのだった。そのうえ鈍感な彼女は、自分のしゃべりがトーキー向きではない自覚がまったくない。そして迎えた試写会は、あまりの出来の悪さに笑いが起こるほど、惨憺たる結果だった。
頭を抱えたドンらは、キャシーにリナの声のアテレコをさせることを思いつく。
De Metro Goldwyn Mayer - ebaycard, Dominio público, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=47884749
時代状況
リナじゃないけど、実際に当時この映画ばりにトーキーの波に乗れずに消えていったスターが沢山いたらしい。
たとえどんなに声が悪かろうと、田舎っぺ丸出しでなまりがきつかろうと、サイレント映画なら声が収録されないから顔さえ良ければなんとかなる。ファンはみんな、自分の都合の良いように、好みの声を勝手にあててくれる。小説や漫画みたいなもんだ。
ところがトーキーになると、声の良さやしゃべり方だけでなく、演技力までがばれてしまう・・・ITだのAIだのと、大きな変化の波に洗われている私たちも他人事じゃない。テクノロジーの進化は残酷です。
とはいえ、本作は別にそういう時代の変化による問題点を、生真面目一本に重たく描く”ドラマ” ではぜんぜんありません。爆笑して笑い飛ばす、そんな映画。
ジーン・ケリーらしい、明るくって楽しくって、映画制作の舞台裏をみせながら時代の変わり目を軽快に見せてくれる、優れたミュージカル・コメディに仕上がっています。
ジーン・ケリーらしい、明るくって楽しくって、映画制作の舞台裏をみせながら時代の変わり目を軽快に見せてくれる、優れたミュージカル・コメディに仕上がっています。
ジーン・ケリー自体が笑いどころ
で、そういった設定やストーリーも面白いんだけど、とにかくなにが面白いって、もうジーン・ケリー自体が面白い。映画が始まって、登場した途端に笑わせにくる。
映画開始早々、ドンとリナの新作映画のプレミア・イベントで、レッドカーペットに現れるスターたちのお姿から爆笑できる。
絶対バカにしてるよね。大げさに笑顔を振りまいて歩くスターとか、自意識過剰のミステリアス演出やりすぎの意識高すぎ系スターとか。「いるよね、こういうスター。っていうかスターってこういう人たちだよね」っていうデフォルメが面白い。
そこへ満を持して登場するジーン・ケリーが、また輪をかけてわざとらしいというね(笑) インタビュー中、これ見よがしに「ニカッ」と笑ってカメラ目線になり、真面目な話はわざとらしく真面目な顔でカメラ目線で語り、すぐさま観客に笑顔をふりまくといった塩梅。くるくる表情がかわって、営業感丸出し。
ジーン・ケリーのいいところは、こういうおバカなことを嬉々と楽しそーにやるところ。そこがミュージカル・スターの双璧をなすフレッド・アステアとは全く違う(私はもちろんどっちも好き)。
漫画ですよ、彼は。
昔、彼が主演した『錨を上げて(194)』で、「トムとジェリー」のジェリーとの共演を見た時、「あ、この人アニメなんだな」と思ったものです。それくらいアニメーションの動きとマッチして溶け込んでいた。
他にも、私は演じていない時のトム・クルーズをみると「なんか現代のジーン・ケリーみたいだなあ」と思いつつ、反面「全く違う」とも思うのだが、その最たる違いは、トムは自分のことを劇画的にはとらえてないと思うところ。彼はただの二枚目だから。で、素で変な人に、変なスターになっちゃった。
でもジーン・ケリーは違う。自分で自分をカリカチュアライズしてる。すべてわかってて、計算でやってる。なんてクレバーなんだろう。
人を楽しませたくって仕方ないんだろうなあ。すごいなあ。好きだなあ。
👇 ジーン・ケリーBy Metro-Goldwyn-Mayer - http://27.media.tumblr.com/tumblr_lhrwoq29Ol1qzm4v7o1_500.jpg, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=17253988
私はいつか本当の意味で素のジーン・ケリーを見てみたいと、思っている。
他の共演者も良い
この映画は友人役のドナルド・オコナーも見どころ。
序盤過ぎに彼ひとりで見せ場がたっぷりあるけれど、そのシンジランナイ動きもさることながら、顔が・・・顔が・・・っていうか鼻が曲がるんですよ! あんなことある?
後半の顔芸もすごい。『雨に唄えば』の「顔の人」として、見たら一生忘れないと思う。
彼はヴォードヴィル芸人一家に生まれ、1歳から舞台に立って芸を磨いたあとハリウッド入り。沢山の映画に出ているけれど、この『雨に唄えば』を経て、マリリン・モンローとも共演した『ショウほど素敵な商売はない(1954)』をピークに、ミュージカル映画の衰退とともにTV界に軸足をうつして生涯活躍したらしい。
👇 ドナルド・オコナー
By NBC Television - eBay itemphoto frontphoto back, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=19478795
そして特筆すべきは素っ頓狂なリナを演じたジーン・ヘイゲン。
彼女ぜんぜん美人じゃないし、この役ほんとバカなんだけど、見てるとだんだん愛おしく思えてくる。すばらしい存在感だった。好き。
とはいえ実際のジーン・ヘイゲンは全然素っ頓狂な声でもなんでもなくて、わずかなシーンだけどちゃんと地声も披露してる。ドンとリナが撮影している劇中映画「闘う騎士」がミュージカル化して「歌う騎士」になってからの試写会で、少しだけリナが台詞を喋るシーンがあって、そこは彼女の地声だそう。
ジーン・ヘイゲンはこの映画でアカデミー助演女優賞にノミネートされている。
サイコー。
👇 ジーン・ヘイゲン
By Trailer screenshot - Singin' in the Rain trailer, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1707831
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