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古い映画感想ブログです。驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「失われた航海(1979)」~事実に基づいて作られた群像劇タイタニック~

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題名 失われた航海
監督 ビリー・ヘール
脚本 ジェームズ・コスティガン
出演 デヴィッド・ジャンセン、ハリー・アンドリュース、クロリス・リーチマン、ヘレン・ミレン
上映時間 98分
制作年 1979年
制作国 イギリス・アメリカ合作
ジャンル ドラマ、パニック、歴史


本作は1979年の英米合作のTV映画。タイタニックが主題の映画では初のカラー作品で、制作費は500万ドル。日本では劇場公開もされているらしい。


DVDのパッケージを見ると「セミ・ドキュメンタリー」として制作されたとある。映画冒頭で「事実と関係者の談話に基づいて作られた」と断りが入っている。


今まで私が見たタイタニックが主題の作品は、ジェームズ・キャメロン版『タイタニック(1997)』、『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密(2003)』、『タイタニックの最期(1953)』の三本。

ジェームズ・キャメロン版『タイタニック(1997)』と『タイタニックの最期(1953)』は、前者はジャックとローズの、後者は上流階級のスタージェス一家という架空の人物のドラマを中心に添え、周囲に事実を散りばめてタイタニック号の沈没を描き出す手法だった(2003年の作品は実際に海中に沈没しているタイタニックを取材した完全ドキュメンタリーだから比較しない)。 

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すると本作は、大勢の実在の人物を描く群像劇となっているのでだいぶ趣が違う。特にキャメロン版タイタニックはかなりエンターテインメントに寄せていたので、「迫力!」みたいな、特撮などの技術的な部分に期待が大きいと本作は物足りないかもしれない。

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面白いなと思ったのは、他の作品は「一等客室」と「三等客室」の乗客の待遇の違いをクローズアップしているのに対して、本作は「二等客室」の乗客にスポットをあてていて、「一等」「二等」「三等」の乗客に公平にスポットをあてている点だ。

以下は断りがない場合は実在の人物。


まず「一等客室」だが、ここは全乗客の中で最も裕福だったジョン・ジェイコブ・アスター四世とその後妻で幼な妻のマデリン(映画ではマドレーヌ)夫妻と、「不沈のモリー」とあだ名された成金モリー・ブラウン(本名はマーガレット・ブラウン)を中心に描かれている。

友人が自分のこととして、そして「共通の悩みでしょ」的に口にする、「若い妻が自分を愛してくれているのか、それとも地位や財産目当てなのか自問自答しているよ」の言葉を聞いている時のジョン・アスター四世の表情は印象的。

妻を救命ボートに乗せる際、「妻が身重なので自分も一緒に乗っていいか」と聞いて断られているが、その辺も実際のエピソードらしい。


そしてモリー・ブラウン。かなりの有名人で私が見たタイタニック映画には全部出てくる。もしかすると本当に全てのタイタニック作品に出てくるのかもw この作品でも自分が乗った救命ボートを、生存者救出のために戻らせようとしていた。

とにかく強い印象を与える、行動力のある女性だったっぽい。成金で、いかにも成金といった教養のなさと、上流階級にはない率直かつ正直な人柄、人間味、そしてリーダシップを持った魅力的な人物として、つねに描かれている。興味深い女性だなあ。

でも今作でのモリー・ブラウンをやった女優さんはあまり好きになれず、イメージとも違うし、ちょっと残念。

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次に「二等客室」だが、ここでは教師のローレンス・ビーズレーと、架空の女性教師リー・グッドウィンを中心に描かれている。

二人は二等客室の乗客だけが使用することを許されたデッキで、下に三等客船の乗客を、上に一等客船の乗客を眺めながら、「一等、二等、三等と別れていて互いに行き来出来ないのは、階級社会であるイギリス社会の縮図なのか、それとも持っている金の多さで人間の格が決まるアメリカ社会の縮図か」を議論するという、意識高い系のふたりだ。

映画では出てこないが、実際のビーズレーは日記をつけていて、そこに唯一乗っていた日本人、細野正文を侮辱する内容が含まれていたというエピソードがあるらしい。「他人を押しのけて救命ボート(13号ボート)に乗った嫌な日本人がいた」と書いていたとのことで、細野氏は帰国後いろいろ非難されて大変だったのだとか(余談だが、細野正文氏はあのYMOの細野晴臣のおじいちゃんらしい)。

しかしビーズレーが日本人だと思ったのは勘違いで、実は中国人であることが発覚し、細野氏は名誉を回復したんだとか。えええ。細野氏は良かったけど、どっちにしろアジア人差別は変わらないのね。ビーズレー氏にとっての不名誉は変わらず、と。でも当時の白人にっては今以上に人種差別は普通のことだったわけだから、ビーズレー氏が特別な人種差別主義者というわけではない。

とはいえビーズレー氏の日記には日本人にせよ中国人にせよ、そのような差別的な記述は見当たらず、細野氏を非難していたのはむしろ日本人だったという話もある。1997年のキャメロン版タイタニックの宣伝に利用された説もあるみたい。


まあよく分からない話なのだが、ちょっと「おや」と思ったのは、細野氏が実際ボートに乗り込んだ経緯と、映画でビーズレーがボートに乗り込む経緯がすごく似ている、ということ。

細野正文氏は当時、このように語っている。

「ふと舷側を見ると今や最後のボート卸ろされるところで中には45人分の女子供が乗って居たが、スルスルと1ヤードか2ヤード程卸した。ところが何か滑車に故障があったと見えてピタリと止まった。ふと聞くともなしに聞くと『何にまだまだ3人位ゆっくり乗れるじゃないか』と船員同士の話声がした。私は立ち止った。すると私の側に居った一人の船員がヒラリとばかりにボートに飛び下りた。見るとボートは元の儘、舳のところが空いて誰も居ない。これなら飛込んでも誰れにも危害を与えまいと思ったので、いきなり飛び下りた。 」 Wikipedia「細野正文」より引用

とのこと。

すごく似てない? 因縁を感じさせる演出になってますけど。

でも、映画の制作サイドが、唯一の日本人乗客だった細野正文氏が当時日本で非難されていたエピソードを知っていて、そのきっかけを作ったと言われているビーズレー氏がボートに乗り込む際の描写にあえて使ったとは、私にはちょっと考えられない。

うーん。偶然にしてはちょっと出来すぎな話ではあるのだが。

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そして「三等客室」は、タイタニック号出航2日目にボートで乗り込んでくる、大勢のアイルランド移民を中心に語られる。特にアイルランドの若者マーティン・ギャラガーと、彼の恋人になる名前のない美少女が中心だが、彼らが実在かどうかを確かめることはできなかった。

なんか捨て駒っていうか、タイタニックの三等客室の様子を描くために用意されただけの感じで、描かれるストーリーも「ただの若者の恋愛模様」でしかなくて、特に思うことはない。

一等は初老の貴族と身分違いの幼な妻を、二等は意識高い系の大人のめんどくさい恋のさや当てを、三等は若者と美少女の合コンの模様を、といった感じで住み分けられてるし、中でも一番内容のない若者の合コンが三等に振り分けられたよ、という感じ。


ひっかかったのは、美少女登場シーン。彼女、二等のデッキにいる教師ビーズレーを意味ありげに見上げていて、何かあるのかな?と思わせて何もない、という結末。あれ、なんだったの。私には分からなかった。

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他の定番の登場人物たち。

まずスミス船長。彼は進行方向に氷山があることを知りながら問題視せず、高速で突破すれば大丈夫と判断する船長として描かれていた。そして最後、社長のイズメイがボートに乗り込むのを「お前乗るの」的に眺めていた。

実際は船と共に沈んだと考えられているが、遺体が発見されていないことと、救命胴衣を着たスミスが海中をただよっていたとの目撃情報もあって、生存説もあるらしい。


そして設計主任のトーマス・アンドリュース。彼は一番高潔な感じに描かれていたように思う。責任感が強く、最期は静かに船と運命を共にする。彼が最後に目撃された情報によると、一等客室の喫煙室で、壁に描かれた絵画「プリマス港」をじっと見つめていたとのことで、映画ではまさにそのまま描かれていた。


さらにタイタニックの管理をしていたホワイト・スター・ライン社の社長イズメイ。彼は最後ボートに乗って生還したことから、帰国後大変な非難を浴びて退職したらしい。映画では、ボートを降ろす乗組員に口やかましく指図して、「何も分からないくせに指図するな!あんた何様だ!」と問われ、自分可愛さに名乗ることが出来なかったが、これはほぼ事実らしい。

そしてタイタニックが沈むことが信じられない様子でぽかんと上空を見つめていたとの目撃証言も。

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映画を観ての感想は、ほかのタイタニック映画のように「一等」「三等」の対比だけでなく「二等」も追加されている群像劇であること、TV俳優たちに馴染みがなく顔と役割を覚えにくかったこと、群像劇として大勢の登場人物にまんべんなくスポットがあてられていることから、一回見ただけでは登場人物たちの相関関係などを追うことが出来ず、ピンとこなかった。

そこで少し登場人物を整理してもう一度見てみた次第。

最近は映画スターも消え去り、映画だろうがTVだろうがネット配信ドラマだろうが、大スターはもう過去の遺物と化してしまったが、やはり映画スターとTV俳優との格の違いを見た作品だった。あまり魅力的な、印象的な俳優が出ていない。


そんななか、『クイーン(2006)』や『コックと泥棒、その妻と愛人(1989)』などの名女優ヘレン・ミレンがメイド役で出ていたのは収穫だった。さすがにまだこの頃30代。「若いっていうことは美しいことなのだな」と思った。かわいい。そして魅力的。

ちょっとした役だけど、冒頭ではアスター四世の幼な妻マデリンから服をもらう約束をしたり、沈没騒ぎのさなか救命胴衣を着ないで乗客優先に動いているような、控えめかつ常識的な女性として登場し、設計士トーマス・アンドリュースとの淡い恋というのか、心の通い合いみたいなものが芽生えかけていて、そして彼の最期の姿を目撃する役割を与えられていた。

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ところで、このDVDは98分作品なのだけど、元は二晩かけてTV放映された150分くらいある作品で、劇場公開時に100分程度に編集されたのだということ。残念。50分もカットしたら、全然別作品になっちゃうんじゃないの。

あの美少女が教師ビーズレーを意味ありげに見上げていたシーンなんかも、フルで観るとなんかあるんでしょうか。生徒だったりとか?

タイタニックから救難信号を受け、救出に向かうカルパチア号目線のシーンが描かれていたことも新鮮だったし、「短縮版ではなくフルで観たかったなあ、残念だなあ」と思う、地味ながらも決して悪くはない作品だった。



⤵ DVDは中古でしか手に入らずでした。