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【映画】「さらばベルリンの灯(1966)」 いぶし銀のスパイ映画。リアルな演出がじわじわと沁みる。



おすすめ度 ★★★★★

題名 さらばベルリンの灯(The Quiller Memorandum
監督 マイケル・アンダーソン
脚本 ハロルド・ピンター
原作 アダム・ホール(エルストン・トレヴァー)「不死鳥を倒せ」1965年
出演 ジョージ・シーガル、アレック・ギネス、マックス・フォン・シドー、センタ・バーガー、ギュンター・マイスナー
音楽 ジョン・バリー
上映時間 107分
制作年 1966年
制作国 イギリス
ジャンル スパイ、ドイツ
 
 
戦勝国であるアメリカ・イギリス・フランス・ソ連に、敗戦国ドイツが分割統治されていた時代。ソ連管轄地域の真ん中に、離れ小島のように存在したベルリンを東西にわける壁(ベルリンの壁)ができて5年後の作品。

この映画を監督したのはマイケル・アンダーソン。彼の作品は『2300年未来への旅(1976)』『八十日間世界一周(1956)』と紹介してきた。まだ紹介していないけど『1984(1956)』もDVDを持っている。

前者はSF、後者は冒険、そしてこの作品はスパイ物、ということで、いろいろなジャンルの映画をモノにしている。今までマイケル・アンダーソン監督の名前を全く意識せずにDVDを買ってきたのに、現状4本も持っていたことになるのだから、これはもう”ファン”と言ってもいいのかもしれない。

 
 
あらすじ

戦勝国であるアメリカ・イギリス・フランス・ソ連の4か国は、ドイツの非軍事化、非ナチ化、民主化を進めていた。しかしナチの残党は根強く残り「ネオナチ」として地下活動を続けている。しかも彼らは市民の中に紛れ込んで活動しており、彼らを見分けるのは容易ではない。英国はそんなネオナチの動向を探り壊滅するため、ふたりのスパイを送り込んでいたが次々と殺害されてしまう。そして3人目として白羽の矢が立ったのが、中東専門に動いていたスパイ、クィラーだった。

前任者が護衛を断り、脊椎を狙撃されて命を落としたにもかかわらず、クィラーは「一人の方が動きやすい」と護衛を拒否。単独で任務に当たり始める。

調査を開始したクィラーは、若く美しい学校教師インゲと出会う。その帰り、何者かに拉致されたクィラーはネオナチのアジトに連れ込まれ彼らのリーダー、オクトーバーと接触する。オクトーバーは自白剤を用いてクィラーから情報を得ようとするが失敗。クィラーを殺害するように命令するが、なぜか投薬された薬品は致死量に至っておらず、クィラーは正気を取り戻す。

インゲと連絡をとったクィラーは、彼女と一晩を共にし、彼女の父親の友人が昔ネオナチの一味であったことを知る。今ではネオナチから足を洗っていたその友人と接触を試み、彼らのアジトを突き止める。

クィラーがアジトに潜入すると、そこにはインゲの姿があった。

 
 
クィラーの悲しみが伝わってくる

情報源の女教師は美人だし、お約束的に彼女と寝てはいたが、いわゆる劇画的な007シリーズとは一味違う、かなり現実的なスパイ映画。

実際、ジョージ・シーガル演ずるスパイ、クィラーは、全然楽しそうじゃない。表情は伏し目がちな上目使い、眉毛をいつも八の字にした困ったような顔つきで全くさえないし、足取りも重く、猫背でもそもそと動いていて、全然乗り気じゃない感じ。おっくうそう。

必要なときは人懐っこい笑顔も作るし、襲われたりすればもちろん敏捷に動くのだが、ジェームズ・ボンドのような「スパイが天職、特権も楽しんでるぜ」っていう感じでは、全くない。仕事だし、能力も高いし、簡単には足も洗えないから嫌々やっている感じすらある。

実際、まるで中間管理職のように上司からは監視され、現場でも他の諜報員の監視付き。上司は部下の事なんてただのコマとしか考えてないふしもあるし、実際休暇中にベルリンまで呼びつけられて仕事につかされている。

それにたとえ味方の人間であっても、だれも信用できないし、信用しないという、なんとも言えない世知辛さが滲み出ている。

そこにジョン・バリーのせつないメロディが流れて、さらに物悲しさが強調される。
 
 
 
 
結局インゲや学校の先生なんかもネオナチだったんでしょう?

クィラーも前任者のジョーンズと同じ轍を踏み、あやうく結末まで同じ結果になるところだった。

映画ではさらっと描かれているが、でてくる登場人物、すれ違う人まで、みんな敵。しかも見た感じはいたって善良そうな、ごく普通の人達。得体が知れない恐怖。

こういう静かにしなやかな人たちの中で、優生学的なナチズムが息づいているのだとすると、なんかすごく怖いなあ、と思わせる。静かに静かに狂気が沁み込んでいる感じ。

 
 
感想

あんまり親切に説明してくれる映画じゃないし、実際淡々としていて派手さはないし、「あー面白かった」という映画では、全然ない。

だけどなにかこう、あとから少しずつ少しずつ、皮膚からなにかが、悲しみみたいなものが沁み込んでくるような、そんな大人の映画。

要所要所でかかるジョン・バリーのテーマ曲がすべてを現しているような、やけに物悲しい後味の映画で、私はかなり ”好き” な映画なのだった。

 


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