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古い映画感想ブログです。驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「現金に体を張れ(1956)」~スタンリー・キューブリックのハリウッド・デビュー作~

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題名 現金に体を張れ
監督 スタンリー・キューブリック
脚本 スタンリー・キューブリック
出演 スターリング・ヘイドン、ヴィンセント・エドワーズ、エリシャ・クック、マリー・ウィンザー、ジェイ・C・フリッペン、テッド・デ・コルシア、コーラ・クワリアーニ
上映時間 85分
制作年 1956年
制作国 アメリカ
ジャンル 犯罪、フィルム・ノワール、50's、モノクロ



写真家から映画監督に転向して、自主制作映画のような低予算映画を数本撮ったあと、スタンリー・キューブリックにとってハリウッド映画監督デビュー作となったのが今作『現金に体を張れ』。”現金”と書いて”げんなま”と読む。

ドライな演出が光る作品。後半に行くにしたがってグイグイとスリルを上げていく。派手なアクションは無く、プロットと演出で緊張感を出すタイプの映画。

登場人物の誰にも感情移入していかない冷徹な目線が、キューブリックは最初からキューブリックだなと思わせる。

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物語を簡単に言えば、「5年間の刑務所暮らしから出所してきたジョニーは、競馬場の売上200万ドルを強奪する計画を立て、仲間を募る。しかしその中の一人、ジョージの妻が計画を聞き出し、愛人を使って横取りしようと画策。計画にほころびが出始める。それでもジョニーは予定通り計画を実行し、うまく200万ドルの強奪に成功したのだが・・・」という話。


焦点となる第7レースの出場馬レッド・ライトニングの射殺の時間に向けて行動する登場人物たちそれぞれの行動を描くため、何度も何度も同じ時間帯が繰り返されるのが特徴。

ただ、それがスリルを演出する目的として効果的なのかどうかは、私には分からなかった。普通に時間の流れ通りに描いてもスリリングなのではないかと思っちゃったけど・・・どうでしょうか。その証拠に、後半時間軸が一本になってからも十分スリリングだったと思うけど。

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登場人物はそう多くはないが、見慣れない俳優ばかりが出ているので覚書として記録しておく(すぐ忘れちゃうのね)。

【登場人物】
ジョニー・クレイ・・・主人公。5年間ムショにいて、出所してきてすぐに次の計画を練り始める。
フェイ・・・ジョニーの女。幼馴染っぽい。
マーヴィン・・・ジョニーの計画へ資金援助をしてくれる。
ランディ・・・借金まみれの警官。
マイク・・・競馬場のバーテン。病気の妻の面倒をみている。
ジョージ・・・競馬場の窓口係。性悪な女シェリーを妻にしている。妻にぞっこん惚れていて、計画を妻に漏らしてしまう。
シェリー・・・ジョージの妻。強欲で自己中心的な性格。うだつの上がらないジョージを見下している。もちろんジョージを愛しておらず、バルという愛人がおり、ジョージから聞き出した情報をバルに話して、ジョージの取り分を横取りしようとする。
バル・・・垂れ目の女たらし。シェリーの愛人。シェリーから計画を聞いたバルは、ジョージの取り分だけでなく、丸ごと横取りしようとする。
モーリス・・・チェス好きのプロレスラー。競馬場で暴れて警官を引きつける役をジョニーから依頼される。
ニッキー・・・ライフルで馬を撃つ役でジョニーに雇われる。

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とにかく目立つのは、割と堅実そうで面白みのない主人公ジョニーよりも、冴えない男ジョージとその妻シェリー。欠点しかない夫婦ww

ジョージは競馬場の窓口係。絶対に成功なんてしなさそうなパッとしない小男で小心、妻のシェリーにベタ惚れで完全に牛耳られている。どうやら彼女を口説く際、「俺はBIGになる。良い家に住まわせて贅沢させてやる」みたいなことを言って結婚に同意させた経緯があるみたい。でも競馬場の切符売りだから、もちろん贅沢には程遠い。

妻のシェリーは強欲で残酷。完全にジョージには見切りをつけているが、それでも一応一緒にいて下男のように見下して、残酷な言葉で傷つけて楽しんでいる。ジョージが話しかけても目も合わさず、食事も作らず、悪びれず、そろそろ見切りをつけて愛人に乗り換えようかというところ。

でもこのシェリーって女、嘘をつく気もないみたい。愛している素振りなんて全然みせないし、金目当て贅沢目当てなことを隠そうともしない。とにかく「私を愛してるなら証拠(お金)を見せて。約束を守って」ということらしい。

途中でジョニーに「お前は性悪で頭のいい女だ。金を横取りして、奴には葉巻くらいしか与えないんだろう」みたいなことを言われた彼女は、「あなた私のことが分かってないわ。葉巻一本だって使わせないわよ」と言っていた。気持ちのいいくらいな悪女ぶり。

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ところがどういうわけか、そのうだつの上がらないジョージが大金を手に入れるチャンスを掴んだらしい。だからシェリーはその金を愛人と共に横取りしてしまおうと考える。

で、その愛人のバルというのがイタリア系っぽい垂れ目の、いかにも女にモテそうなチンピラで、恋愛をゲームのように楽しむようなタイプの男。バルはジョージの取り分だけでなく200万ドル全部を横取りしようと言い出す。頭は悪そうだから必ずどこかで失敗するだろうけど、ジョージと違って野心と実行力はあるみたい。要するに男らしい。

バルはシェリーを本気で相手してはいないと思うけど、シェリーにとってはバルの方がお似合いなんだよね。なんでジョージみたいな男とくっついちゃったかな。

シェリーじゃなくても、女はジョージみたいな「私にベタ惚れで、私の為ならなんでもしてくれる男」なんて絶対にそのうち見下すよね。だけどバルの方は「私のためにではなく、自分の欲望の為になんでもする男」だから、うっかりすると捨てられちゃう。それが頼りがいがあるように見えるし、捨てられたくなければ媚びる必要もでてくる。

バルが相手だったら、まあ幸せにはならないと思うけど(破たんするから)、でも毎日は楽しいよね、シェリーにとっては。だって一緒に悪事を企めるし、ジョージよりは長めに夢を見せてくれるかもしれないし。

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バルに対してはなんの感想もないけれど、ダメ男ジョージと悪女シェリーの最期のシーンは結構見せ場だった。

私はシェリーに同情した。傷だらけで家に帰ってきたジョージを「あなたってどこまでバカなの。撃たれるなんて。歩けるうちに出てった方がいいわ」と言い、救急車を呼んでほしいと言うジョージに「車を拾ってよ」と言うシェリーの、悲しげな表情。

5年間一緒に暮らした男が死にゆくとなれば、多少の同情心はでてくるけど、悪女に徹したその態度に「美学」みたいなものを感じて感動した。「悪は悪に徹する」 そうでなくちゃね。

このシェリー役の人、マリー・ウィンザーっていう女優さんみたいだけど、ほんと見せ場だったよ。いい演技してた。


ところでこのダメ男ジョージ役、どっかで見たことがある・・・しかも最近・・・・は!( ゚Д゚) 『幻の女』の、ドラマーだ!!

全く知らない俳優ばかりが出ている中、ひとりでも知ってる顔があるだけで、俄然見やすくなった。安心感かしら。

 

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最終的には「仲間選びは慎重に」ということと(マーヴィンもちょっとヤバかったよ)、「トランクはケチらず、もう少しマシなものを買いましょう」ということかな。

じゃねー。