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古い映画感想ブログです。驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「ブラック・サンデー(1977)」 ハンニバル・レクター・シリーズの原作者トマス・ハリスのデビュー作

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題名 ブラック・サンデー
監督 ジョン・フランケンハイマー
制作 ロバート・エヴァンス
脚本 アーネスト・レーマン
原作 トマス・ハリス 「ブラック・サンデー」 1975年
出演 ロバート・ショウ、ブルース・ダーン、マルト・ケラー、フリッツ・ウィーヴァー
音楽 ジョン・ウィリアムズ
上映時間 143分
制作年 1977年 
制作国 アメリカ
ジャンル 犯罪、テロリズム、ベトナム帰還兵

 

小説家トマス・ハリスといえば、1988年に出版されてジョディ・フォスター主演で映画化もされて大ヒットした『羊たちの沈黙』が非常に有名で、その後レクター博士初登場作である『レッド・ドラゴン』(1981年出版)も映画化されたし、後日譚である『ハンニバル』(1999年出版)も映画化されたし、レクター博士のエピソード・ゼロ的な少年時代を描いた『ハンニバル・ライジング』(2006年出版)も映画化された。

もともと『レッド・ドラゴン』では脇役だったレクター博士を『羊たちの沈黙』で主役級として再登場させたところ、人食い(ハンニバル)レクターと呼ばれるサイコな凶悪犯でありながら、その天才的な頭脳で安楽椅子型の探偵も務めてしまうという強烈な個性が人気を博し大ヒットとなった。

その後はレクターものばかりを書いているという印象。

でも、実は彼のデビュー作はレクター博士とは全然関係ない、PTSD(心的外傷後ストレス障害)をいよいよこじらせたベトナム帰還兵が、テロリストと手を組んでアメリカ人を大量殺戮しようと計画するという、割とありがちな(でも見ごたえのある)娯楽小説なのだった。

彼はこの『ブラック・サンデー』を含んで5作品しか小説を出していない寡作な作家でもあるけれど、そのすべての作品が映画化されているという作家でもある。

日本だとやたらと本を出さないと生活できないから毎年のように出版して質が落ちていくイメージがあるけど、海外には人気作家なのに寡作な作家って結構いる。トマス・ハリスは5~6年とか10年とか平気で沈黙しているし、生涯で7作品しか出版していないアイラ・レヴィン(この作家もほとんどの作品が映画化されている)とか、ジャンルは違うけどJ.D.サリンジャーとか。考え方によっては、全作品読破がしやすい作家ともいえるかな。

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****** あらすじ ******
ベトナム戦争に従軍し数々の勲章をもらった海軍の英雄マイケル・ランダーは、ベトナムで捕虜になる屈辱の日々を経て帰国するが、そこで待っていたのは更なる屈辱的な扱いだった。妻はすでに男ができていて離婚され、PTSDの診断を受けて定期的に面接を受ける日々。仕事はTV局の飛行船のパイロットをして生計を立てていた。

ランダーは妻が自分の元を去ったのは、自分が捕虜になっている期間中政府の役人が妻の元を訪れて、もしランダーが生還しても普通の生活を送れない可能性があることを再三示唆し、不安を与えたことが原因だと思い込んでいた。

ランダーは、本来であれば英雄であるはずの自分がこんな屈辱的な目にあっているのは世の中のせいであると考え、復讐を計画する。その計画とは、アメリカ最大のお祭りであるアメリカン・フットボールの最高峰スーパーボウルで、中継を担当する飛行船に積んだ爆薬を空中で爆発させ、22万本もの特殊なダーツの矢(ライフルダーツ)を放射線状に発射し、8万人の観客を皆殺しにするというものだった。単独では実現不可能な計画なため、ランダーはパレスチナのテロ組織「黒い九月」に協力を得、プラスチック爆弾を入手し計画をすすめていく。

その計画を察知したイスラエルの諜報員カバコフ少佐が捜査を開始し、アメリカへ乗り込み計画阻止に奔走する。
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1975年にベトナム戦争が終結した後、ベトナム帰還兵を題材にした映画がたくさん作られるようになった。主人公がベトナム帰還兵であるという設定を借りた非現実的な娯楽作の代表が『ランボー(1982)』だとしたら、『タクシードライバー(1976)』はリアリティ重視の代表作。今作は、その中間みたいな作品だと思う。


PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、戦争に限らず、事故や災害など、平常では起こりえない異常な体験をすることで、精神的不安感、不眠、フラッシュバックなどの精神的なダメージを受けて、日常生活を送ることが難しくなってしまう症状のことらしい。

でも当時は「トラウマ」という言葉すらまだなくて、日常的に「子供の頃のトラウマがさあ」みたいに使われるようになったのも80年代後半とかだったのではないかと記憶している。ましてやPTSDという言葉や症状が話題になることはなく、主にベトナム帰還兵を題材にした映画などを通して「戦争のトラウマ」みたいな捕え方だったと思うし、当時私などは「戦争は過去にもたくさんあるのに、なぜベトナム戦争の帰還兵ばかりが特別に取り上げられるのだろう」とずいぶん疑問に思っていた(が、特に勉強してはいない)。


でも「なぜベトナム帰還兵ばかりがそれほどまでに精神的ダメージを受けてしまったのか」という疑問は私だけでなく社会全体であって、その理由もはっきりとは分からないのだった(メンタル系は決定打を打つのが難しい)。

とはいえ推測はたくさんされていて、その中で個人的に「ありそうだな」と思うのは次のような理由。

まず前提として、そもそも(今の北朝鮮と韓国のように)南北に分かれていたベトナムの、ソ連が応援していた北ベトナムとアメリカが応援していた南ベトナム(当時はベトナム共和国)の戦争で、アメリカ政府にとっては重要な戦争だったかもしれないが、市民にとっては「なぜベトナムのために命を懸けて戦わなくちゃいけないのか分からない」戦争だった。

でもまあ例によって「すぐ終わる」と思って、「ベトナムなんてちょろい」と思って他国までわざわざ出かけて行って戦争をしたのに、北ベトナム軍やベトコンに全く歯が立たずに泥沼化し、あらゆる(非人道的な)手段を使ったにもかかわらず結局は撤退して帰ってくるという体たらくで終わってしまい、今まで戦争に負けたことがなかったアメリカが初めて負けた戦争となってしまい、相当プライドが傷ついた、というもの。

うん、ありそう。アメリカ史始まって以来の、初の敗北が当時後進国だったベトナム。陰にソ連がいたとはいえ、ソ連に負けたというよりも、べトコンのゲリラ戦法にいいようにやられたというイメージが強い。

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私はすでにアメリカなんか嫌いだから。「民主主義がどうの」「正義がどうの」「世界の警察」とか、散々聞き飽きたからさあ、「思いあがって他国を蹂躙して、結局は自分んとこの正義でしかないくせに何言ってんだ」って思ってるからさ、勝手にで出かけて行ってベトナムをめちゃくちゃにして、奇形児とかいっぱい作って、それでも「正義」とか、もうそういうのほんとウンザリしてるからさ、「ぼくちゃん傷ついたよおお、って言われてもねえ、知らん」とか思うけど、でも・・・政府と個人は、また別だとも思う。

もちろん、個人が集まって政府があるわけだから、個人に責任があるのは当たり前。当たり前だけど、個人っていうくらいだから、本当に私個人だけではなんにも出来ないのも事実。私=日本政府ではないから。だからアメリカ政府がやったことなんだから、アメリカ人が傷ついたって当たり前、知らん、というわけにもいかない。

ランダーみたいな考え方になってしまうその理由にも、少しは思いを馳せないといけない。


というわけで日本に置き換えて考えてみれば、やっぱり自分の国の戦争なら負けても納得がいくというもんだろうと思う(太平洋戦争みたいに)。歴史だし政治だから色々な事情があるとはいえ、それでも私たちは「一億玉砕!」って言って戦った。本音は早く終わって欲しかったかもしれないけど、それは「勝って早く終わって欲しかった」だけだろうし、かなりの割合で本気でみんな死んでも戦おうと思って、風船爆弾を作り、竹やりをかまえていたんだと思う。陛下が悪いんでも、東条英機が悪いんでもなんでもない。みんなが一人一人、自分から進んで騙されていったんだと思う。そうじゃなかったら、竹やりで爆撃機を撃ちおとそうなんて茶番、できる? まともなら出来ないよ。だけど私たちは出来た。やっぱり自分から進んで「そう思い込もうとした」んだろうと思う。そしてそこまでやって負けたら、もう誰のせいでもない。誰のせいにもできない。だから日本人は原爆を二つも落とされて、あれだけの惨劇の中敗北しても、なんか変にすっきりしちゃって、戦後を明るく成長してしまったんだろうと思う。

だけど、これがたとえば、北朝鮮と韓国がまた戦争になって(実際はロシアとアメリカの代理戦争だろうけど)、日本も参加するとなって韓国+アメリカ側について戦って、北朝鮮軍にいいように翻弄されてボロボロになって、徹底的に虐待なんかもされて、何が大事なのか、何が常識なのか、価値観やアイデンティティみたいなものが何が何だか分からなくなって、ちょっとおかしくなって国に帰ったら、本土にぬくぬくとしていた奴に「お前なんかおかしいぞ、医者へ行け」とか言われて、奥さんには「あの人なんだかマトモじゃないの」って言われて捨てられて、病院行ったら病人扱いされて・・・って、そりゃあおかしくもなりますがな。

「なに本土にいたお前らだけ、まともヅラしてんの?」って。自分だけ正常ぶってんじゃないよ。想像してたらだんだん腹がたってきた。

こんな俺にしやがって~~~!って思っても、仕方がない。


もちろんテロ行為を称賛するわけではない。でも「ダメなものはどんな理由があろうとダメ」的にスパッと割り切れるものではない。心情的に理解して、それを繰り返さないようにする必要はあると思う。

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そしてランダーを支援するテロ組織「黒い九月」。こちらの組織は実在のパレスチナにあったテロ組織で、1972年に行われたミュンヘン・オリンピックで選手を11人殺害するなどのテロ行為をしたことで有名。

パレスチナとイスラエルの問題は、私なんかには到底語ることができないから、興味のある方は各々調べていただくことにして、雑観だけ記しておく。


70年代はまだまだ暗くて、きな臭い時代だった。オリンピックで思いだすことと言えば、ミュンヘン・オリンピックから8年後(2大会後)はモスクワ・オリンピックだったのだが、冷戦時代ということもあって日本を含むたくさんの国がボイコットした。

子供だった私だけど、モスクワ・オリンピックのマスコット「こぐまのミーシャ」のぬいぐるみを買ってもらったのを鮮明に覚えている。茶色と白のくまで、オリンピックの五輪のベルトをしてたっけ。

その次のオリンピックがロサンゼルス・オリンピックなわけだけど、スポンサーが沢山ついて、まー贅を尽くしたオリンピックとなった。宇宙飛行士が空中を飛び回る演出とか、とにかく派手で金がかかっていて、ほんとに東側の感情を逆なでしたよね。アメリカのオリンピックだけど、モスクワ・オリンピックをボイコットした西側諸国がこぞって東側に見せつけてきたように、東側の人たちは思ったことだろう。それでかどうかは知らないが、今度は東側諸国がロサンゼルス・オリンピックをボイコットした。

ほんと、もうこういうのはやめていただきたい。理由は「バカみたいだから」。きりがありません。

こういう思考方法でいろいろなことが行われていくから、テロだってなくならないんだと思う。

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映画の内容にはほとんど触れずに、思いついたままに書き進めてしまったが、こういう諸々をいろいろと考えながら本作を見たのでした。おしまい。






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