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古い映画感想ブログです。驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「サボタージュ(1936)」 ヒッチコック! 不完全燃焼!!

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題名 サボタージュ
監督 アルフレッド・ヒッチコック
原作 ジョゼフ・コンラッド 「密偵」 1907年
出演 シルヴィア・シドニー、オスカー・ホモルカ、ジョン・ローダー
上映時間 76分
制作年 1936年
制作国 イギリス
ジャンル サスペンス、モノクロ


「sabotage:大衆や企業に不安や警告を与えるため、意志を持ち、建物や機械を破壊する行為」  映画冒頭より



ヒッチコック監督の、イギリス時代でもかなり後半の作品。ヒッチコック作品は、当ブログでは他に4作品だけ記事にしているが、それらと比べると「なんかぼやっとした」印象。サスペンスとしてのハラハラドキドキヒヤヒヤとか、そういった起伏があまりない。淡々としていると思った。

私が持っているDVDのパッケージにある ”あらすじ” によれば、「破壊活動に手を染める映画館主カールは妻の弟に爆弾を運ばせるが、途中で爆発して弟は死んでしまう。弟を殺された妻は復讐に燃え、夫を殺す完全犯罪をもくろむ」みたいなことが書いてあるけど、みてみたら「そういう感じ」ではなかった(と思った)。

そもそも映画の3分の2くらいまでいかないと弟は死なない。妻がそれと知るのが4分の3くらい。だから余計に「へええ、こんなに後半になってから妻は完全犯罪をくわだてるのかあ。するとラストに向けて怒涛の展開になるってことかー。楽しみ」と思って見ていたが、別にそうはならなかった。

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****** あらすじ ******
舞台はイギリス、ロンドン。アメリカから渡ってきた映画館主ヴァーロックは若い妻と、妻の弟でまだ少年のスティービーを養っている。だがヴァーロックはただの映画館主ではなく、テロ活動に従じる一面があった。しかし映画館の隣では、すでに刑事のテッドが八百屋に扮してヴァーロックを監視していた。

まずは域内を停電させることに成功したヴァーロックは、次の計画の指示を受ける。それは市長の就任パレードに爆弾を仕掛ける計画であった。刑事の監視がついていることを知らない彼らは、ヴァーロックの映画館で次のテロの計画を練る。

計画当日、仲間の一人であり爆発物の専門家である小鳥屋の主人が用意した爆弾が、鳥かごに隠されてヴァーロックの元に届く。爆発時間は昼の1時45分。早速隠された爆弾を持って出かける準備をするが、映画館の出口では妻と八百屋のテッド(実は刑事)が何やら話し込んでいて出られない。裏には他の刑事らしき男の姿もあり、自宅から出られないヴァーロックは妻の弟スティービーを代わりに使うことにする。

何も知らないスティービーは、フィルム缶と一緒に小包をピカデリー・サーカスまで運ぶおつかいを言いつかり、目的地へ向かう。しかしパレードの人込みや出店のせいで寄り道してしまい、仕方がなく禁止されているバスに乗って急いで目的地へ向かう。しかし時間は無情にも刻々と迫り、時間通りに爆弾が爆発。スティービーは死亡し、残されたフィルム缶からヴァーロックの関与が決定的となり、捜査は大詰めに向かう。

夫がテロ集団に属していたこと、大切な弟が夫に殺されたことを知った妻は夫を刺し殺す。妻は自首しようとするが、彼女に惹かれていたテッドはそれを押しとどめる。ちょうどそのころ映画館には、足がつくことを恐れて証拠である鳥かごを回収しに来た小鳥屋の主人がいた。そこへヴァーロックを逮捕しようと警官が集まってくる。逃げられないと観念した小鳥屋は、部屋にあったヴァーロックの死体と共に自爆。ヴァーロックの遺体もふっとび、妻の犯行はうやむやとなる。
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あのDVDのパッケージにある ”あらすじ” はなんだろう。後から考えてみてもやっぱり「復讐に燃える妻」とか「完全犯罪をもくろむ」とか、そういう感じではなかったのだが。パッケージのあらすじにこだわりすぎな気もするが、やっぱり書いてある以上読んでしまうし、読んでしまえばそういう目で映画を見るわけだから、おろそかにはできない。

その夫殺害に至る演出だけど、もともと妻は弟(11~12歳くらい?)を「唯一の希望」だったかな? とかなんとか言っていて、可愛がっていたという設定はある。ところがその弟がバスの爆発で死んでしまい、夫がテロリズムに加担していてその活動の為に弟が犠牲になったことを夫の口から聞く。

そしてその時の夫の言い分というのが「本当は自分で運ぼうとしていたのに、玄関先でお前がテッド(刑事)と喋っていたから出ていけなかった。裏にも刑事がいた。もしお前がテッドと喋っていなかったら自分で運んだのだから、責任は自分にではなくテッドにある」というもので、その上で速攻で「未来に向かって生きよう、自分達の子供をつくってもいい」と発言する。その言葉を聞いた途端に妻の様子がガラッと変わる。

そして映画館の方へ入っていき、上映されているアニメーションを見る。そのアニメでは鳥がギターを抱えて歌を歌っている。すると別の鳥が弓で矢を放ち、その矢が歌う鳥の胸に刺さって鳥は死んでしまう。そのアニメを見る妻のアップ。

そして妻は台所へ戻り、夫の為に料理を取り分け始め、夫は妻の機嫌が良くなったのだと勘違いしていつも通り料理を作った家政婦の悪口を言う。妻はナイフとフォークを持って肉やじゃがいもを取り分ける。その手が震えて、妻はナイフを手から離し、スプーンを使って取り分け始める。しかしやはりナイフを手に・・・しようとするが出来ず、左薬指の結婚指輪を外すような外さないような、外したいような、そんな仕草を見せる。そのためらう妻の手を夫はじっと見つめて何かに気が付く。夫は妻のそばに寄り、妻が取ろうか取るまいか迷っていたそのナイフを手にしようとする。とっさに夫よりも早くナイフを手にする妻。驚いた夫が妻の肩に手をかけようとした途端、妻はナイフを夫の胸に突き刺す。


この、ためらう妻の手の演出は地味ながら良かった。妻の演技や表情は何を考えているのか一見分かりにくいが、直前のアニメ映画が示唆していたようなことを考えているんだろう、と私たちに思わせる。

でも、「復讐に燃える妻」とまでは、思わなかった。

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そして妻はそのあと、完全犯罪をもくろんだんだろうか。いーや、もくろんでなかった。

彼女の罪を隠そうともくろんだのはテッドの方で、毎日ヴァーロックを見張りながらもその妻である彼女に横恋慕していたテッドは「一緒に大陸へ逃げよう。家政婦が出勤してヴァーロックの死体を見つけるまでにまだ12時間もある」と言って、二人で国外へ(たぶんフランスへ)逃げようと誘っている。ところが小鳥屋の主人が証拠隠滅のために映画館に向かい、尾行をぞろぞろ連れて来てしまったためヴァーロックの死体がもうすぐにでも発見されようとしてしまう。たまたま小鳥屋がヴァーロックの死体もろとも爆死してくれたので妻の罪はうやむやになるが、やはりテッドだって、ただ逃げようとしただけで完全犯罪をもくろんではいなかった。


結局わたしは、妻は復讐を考えたとは思うが「燃えて」はいなかったと思うし、完全犯罪なんて全然もくろんでいなかったと、思う。

ちょっとこういうあおり方は、よろしくないのではないかなあ。こんな誰も読んでいないブログでも、嘘や大げさなことは書きたくないなと私は思ってやっているので、ちょっと気になってしまった。

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ところでDVDの説明書きの真偽から離れて、映画そのものはどうだったか。

ひと言でいえば、あまり面白くなかった。「ヒッチコックにしては面白くなかった」とかではなく、映画としてさほどの出来ではなかったと思う。

なぜつまらなく感じたかと言うと、その原因はたぶん、登場人物の誰にも感情移入できなかったからだと思う。とにかく登場人物たちのバックボーンが、全くと言っていいほど描かれていないのが原因だと思われる(少年スティービーは素直そうな可愛い男の子だから同情はするが、こっちは大人だから感情移入をしたりはできなかった。かわいかったけど)。


まず、夫のヴァーロックだが、彼がなぜテロリズムに加担しているのかが全くわからない。アメリカからロンドンに来た理由を、妻が「景気が悪くて」とかなんとか言っていて、ヴァーロック本人も金が欲しそうなことを言っていたが、それだけで「なーるほど、それでテロをねえ」とは思えない。

妻と夫は年の差がありそうで、娘と言っても通りそうなくらい妻は若い(弟は子供だし)。その不釣り合いさも、なにか訳ありな感じがするが、妻も別に不満を抱いているわけでもなさそうだから深く掘り下げられることもない。

刑事のテッドも、容疑者の妻を気に入ってしまったようだが、全てを投げうって殺人を犯した彼女を連れて国外へ逃げよう、とまで想っているとは思えなかった。


おまけにラストで妻が「夫はもう死んでいる」と告白したとたんに爆発が起こり、小鳥屋とヴァーロックの両方がこの爆発で死んだことになる。が、その妻の告白を聞いた刑事は「なんかへんだな、彼女がヴァーロックは死んでいると言ったのは爆発の前だったような気がするが・・・」と、おやっと思うが、「まいっか」みたいにさらっとしてしまい、そしてテッドとヴァーロックの妻は肩を寄せ合って雑踏のなかへ消えていく。

これを見て私は「ああよかったね、ふたりで幸せにね」なんて、まったく思わなかった。

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それはやっぱり、全体的に人物描写がさらっとしすぎていて、誰か一人に感情移入する所まで入り込めないからだと思う。

もし妻とかテッドに感情移入できる演出だったら、もしかしたら二人の後姿を見て「ラッキーだったね!」とか思えたのかもしれないし、ヴァーロックがテロ行為に加担するほどの壮絶な過去でも描かれていれば、二人の後姿を「人生とはなんて皮肉なんだろう」などと、また違った感情を持てたかもしれない。

でもぶっちゃけ何の感情もわかなかった。


ではあえて全ての登場人物を均等に距離感を持って描くことで何かの効果を狙っているのかといえば、別にそうでもなさそうだった。そういう作戦めいたものもぜんぜん感じられなかった。


ハラハラもドキドキもしない。ワクワクもしない。

意味ありげな題名と、その「サボタージュ」の意味をクローズアップさせた意味ありげな始まり方の割には、なぜそのサボタージュをしているのかすら分からない。

「ヒッチコック! 不完全燃焼!」と叫びたい映画でした。