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【映画】「カレル・ゼーマン作品集」ジュール・ヴェルヌを敬愛する映像の魔術師

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題名 カレル・ゼーマン作品集
監督 カレル・ゼマン
原作 ジュール・ヴェルヌ「海底二万里」1870年、「十五少年漂流記」1888年
上映時間 『水玉の幻想』10分、『盗まれた飛行船』88分
制作年 『水玉の幻想(1949)』、『盗まれた飛行船(1967)』
制作国 チェコスロバキア
ジャンル アニメーション、特撮、ファンタジー



ストップモーション・アニメやトリック・フィルムの奇才カレル・ゼマン。ゼマンは1910年にオーストリア=ハンガリー帝国時代のボスニアに生まれたチェコスロバキア人。学生時代にビジネスと広告を学び、広告業界からスタートして映画を撮るようになったお方らしい。

DVDの表題はどういうわけか「ゼーマン」と長音符がついているけど、わたしはゼマンだと思うので、ここではゼマンで押し通す。


日本でアニメといえばセル・アニメが主流だが、それ以外にも人形やねんど、切り絵など立体物を使用したストップモーション・アニメがある。近年特に有名なのは『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』などのニック・パークとか、ソ連の『チェブラーシカ』シリーズのロマン・カチャーノフなどがいる。どちらも可愛らしいキャラクターが出てきてキャッチーだし、実際かわいい。私も好きです(特にチュブラーシカが)。


そのストップモーション・アニメ系でも、今となってはクラシックになりつつあるのかもしれない20世紀半ばに活躍したのがカレル・ゼマンなのだった。ゼマンと同世代のアニメーターには『宇宙戦争(1953)』や『タイムマシン(1960)』のジョージ・パル、10歳くらい年下に『シンドバッド』シリーズなどでおなじみレイ・ハリーハウゼンがいる。

『ひつじのショーン』や『チュブラーシカ』はキャラクターの魅力によるところが大きいタイプの作品で、ジョージ・パルはSF系、レイ・ハリーハウゼンは怪獣系という感じがするけど、ゼマンはそのいずれでもない。

ゼマンの作風は、一言で言えば「アニメーションというより絵画」。映画を娯楽に振るのではなく、映画を芸術作品としてアート寄りに振っていく感じ。

そしてそのアイディアは、ひとつひとつを分解してしまえばどれもどこかで見たようなイメージだけど、それらをゼマンが組み立てると、見たこともない摩訶不思議な世界になる。

オーソドックスで、レトロな感じで懐かしくて、それなのに意外性がある。



①「水玉の幻想」★★★★

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ボヘミアン・ガラスを使用した、ガラス細工のストップモーション・アニメ。ディズニーランドなんかにもお土産で売っている、ガラス細工の人形たち。あれが動いて踊ると思ってくれればOK。


物語らしきものはあって、ガラス細工職人が作業場でイラストを描いている。しかし行き詰った様子で上手くいかない。その傍らにはバレリーナやペンギンのガラス細工が置いてある。彼は雨の降りしきる窓の外を眺める。雨のしずくが緑の葉に溜まっている。その雨のしずくの中に、ガラスの世界が広がってゆく。

水玉の中の、水の世界はガラスの世界。ガラスのイソギンチャクのまわりではガラスの熱帯魚がくるくるまわる。ガラスのバレリーナが風を切ってすべっている。彼女のまわりではガラスのペンギンや白鳥が戯れる。くるくるくるくる、すーっ。

たんぽぽの綿毛が水玉に着地する。それはピエロの姿にかわってバレリーナに憧れる。けれども二人の間にはガラスの壁が立ちはだかって、ピエロはバレリーナに求婚できない。ピエロの想いがガラスの壁を破壊する。破片に乗ってバレリーナの元へ。そこへ白馬のソリに乗った王子様が現れる。ピエロはまた壁のこちら側に取り残される。「おーいおーい」ガラスの壁をたたくピエロ。ピエロはたんぽぽの綿毛の姿に戻り、しずくは葉からこぼれ落ちる。

外はまだ雨が降っている。男は窓から離れ、ガラス細工をつくりはじめる。

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男はゼマン自身がモデルのように思われる。セリフなし、音楽のみ。

あたりまえだが、映画をキャプチャすると静止画になってしまう(カナシイ)。だから伝わりにくいと思うが、これらのガラス細工がやわらかい飴細工のように動く。


作風も繊細なら心理描写も繊細。美に憧れるたんぽぽのピエロの心の動きが・・・泣ける。

「ガオー」とか「ドーン!」「ババーン!!」「きたーw」「よっ!待ってました!」という感じのレイ・ハリーハウゼンとは対極にある作風。ハリーハウゼンが少年漫画の力強さ(おおざっぱさ?)としたら、カレル・ゼマンは線の細い、少女漫画という感じ。

わずか10分の幻想。この10分のためだけでもこのDVDは価値がある。ああいうガラス細工の置物が好きで一個でもいいから自宅に飾っているような方にはぜひ見て欲しい。見終わったら、たぶんあなたの家のガラス細工たちも踊り出すと、思う。

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②「盗まれた飛行船」★★★

ジュール・ヴェルヌを敬愛するゼマンが放った、「十五少年漂流記」に「ネモ船長ネタ」をぶっこみました、みたいな作品。

こちらの作品では絵の中で人が動いているような、絵の中に人間が住んでいるような、そんな絵と実写の融合をみせてくれる。

実写&アニメ映画と言えば、(CG以前で)ぱっと思いつくだけでも『メリー・ポピンズ(1964)』とか、ジーン・ケリーの『錨を上げて(1945)』とか、『ロジャー・ラビット(1988)』とかいろいろあるが、だいたいが実写の中にアニメのキャラクターが出てきて、実写の俳優たちと一緒に歌ったり踊ったりアクションしたりしていることが多い。

でもこの作品はそれらとは逆で、絵の中に実写の人たちがいるからだいぶ趣が違う。

たぶん基本的には絵との合成と、セット撮影なんだろうと思うんだけど、合成はともかくセットが面白い。絵のようなセットを作って、そのセットで俳優が演技をしているんだろうけど、本当に絵みたいに見える(語彙がなあ)。壁とか机とか手すりとか船とか、その陰影が絵画の手法で独特な効果を出すのに成功していた。

その絵画的な手法も、写実的な絵から、昔の小説の挿絵的なもの、水彩画ぽいもの、漫画的なアニメーションとなんでもありで、大勢の画家たちがそれぞれの味とテクニックで描いた絵を、ぜんぶ一緒くたにごちゃまぜにしました、みたいな感じ。それなのになぜか調和している。

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****** おはなし ******
ある男が開発した「不燃性ガス」を使用した飛行船に好奇心旺盛な5人の男の子が乗り込み、成り行きで空高く舞い上がってしまう。飛行船の持ち主は子供達の親を相手に裁判を起こし、新聞社は特ダネ欲しさに子供たちのことを調べ始め、軍部は「不燃性ガス」の秘密を独占しようとスパイを送り込む。

故郷の国でそんな騒ぎになっているとは知らない子供たちは、飛行船で空を飛びつづけ、ある島にたどりつく。そこは子供たちの憧れでもあるネモ船長の島だった。島やネモ船長の基地を探検する子供達の元に、近くを通りかかった海賊たちが上陸する。子供たちは知恵を絞り、海賊を翻弄し、ネモ船長の助けも得て海賊船に乗り込む。そこへ子供達や飛行船を追いかける新聞記者や軍部のスパイ、軍人たちが集結。子供たちは無事に救出され、勲章まで授与されるのであった。
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ストーリーがどうのとか、面白い映画かどうかというよりも、まず「ジュール・ヴェルヌが好きなんだなあ」と、ゼマンのヴェルヌに対する敬愛を感じる作品だった。

小説版よりも数十年後の設定みたいで、仙人みたいに真っ白な長いひげをたくわえたネモ船長がでてくる。そして昔過ぎるのかな、ネッド・ランドとかアロナックス教授の名前がすぐには出てこなくて、「うーんとなんて名前だっけ」みたいみたいになって、5人の少年のひとりであるヤコフに教えてもらってた。

それにどうやら小説版では何人いたかよく分からない乗組員がひとりもいなくなってしまったようで、「すべてをひとりでやらなくてはいけない」ってぼやいていた。補充しなかったんだね。

それになんていうのかしら、おじいちゃんだから当たり前なのだが、「枯れたな」って感じがした(笑) 

小説版ではアロナックス教授に向かって海底のことやノーチラス号について延々と饒舌に語っていたし、1954年の映画版でも目がギラギラした「復讐に燃える怒りの人、ネモ」という感じで、「冷静に怒りを燃やす暗い情熱家」といった印象だったが、 今作ではその恨みも無くなって、付き物が落ちたかのように穏やかな雰囲気を漂わせていた。

復讐、諦めたのかしら。

たったひとりで、ノーチラス号で海底と秘密基地を行ったり来たりして、皆から忘れ去られて、そしていつのまにか死んでいく、孤独な人「ネモじいさん」と化していた(ヤコフはファンだったみたいだけどね)。

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そのヤコフ。少年たちはみな可愛いけど、その中でも特にフィーチャーされていて可愛さも人一倍なのが一番ちっちゃいヤコフ。大きな目が特徴的。

ヤコフはネモ船長の島に到着してから、お家が恋しくなって手紙をビンに入れて海に流すという古典的な方法で自分の居所を知らせようとするんだけど、おバカな軍隊はそれを「暗号が隠されている」とかなんとか言ってぜんぜん読み取ってくれないの・・・隠されてないんですけどね。

ネモ船長に会えるのもたったひとりヤコフだけ。ヤコフは飛行船の残骸でつくった人力飛行機をキコキコ漕いで助けを呼びに行き、そこをノーチラス号が通りかかってネモ船長に招かれる。

そしてもう物忘れぽくなっているネモ船長の記憶を思い出すお手伝いをして、「ネッド・ランドでしょう」「アロナックス教授ですよね」みたいに教えてあげて、ネモ船長に「詳しいね」って褒められて「本が好きなんです」って、かわいい。

あこがれのネモ船長に会えて、超おいしい役どころを独り占めのヤコフなのでした。

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そのヤコフや、軍人、新聞記者、スパイ(情報部員13号と呼ばれていた)らが「空を漕ぐ」乗り物たち。

どれも古典的なアイディアで特に目新しいものではないのだけれど、それでもやっぱり見ていて楽しい。

どれに乗りたいかなあ・・・軍人が乗っていたやつは「ボートをオールで漕ぐように、腕を使って推進力を得るタイプ」だったけど、私は足で漕ぐタイプがいいな。

新聞記者が乗っていたものは、基本的には気球で浮かんでいて、さらに自転車のように足で漕いで前に進むタイプで、ヤコフが乗っていたのはグライダー的な格好で足で漕ぐタイプだった。

新聞記者タイプが楽かもしんない。漕がなくてもとりあえずは落ちないから、多少は優雅に空の散歩が楽しめそう。実現するといいな。

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というわけでこのDVDは二本立て。どちらも好きだけど、『盗まれた飛行船』は88分もあってやや冗長だったかな(60分くらいでよかったかな)。

でもどちらも世界観が独特で「これがゼマンの世界」という感じで必見。ぜひ頭の片隅に記憶していただいて、機会があったらぜひ見てみてくださいね。

じゃねー。

 

 
 

 


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