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古い映画感想ブログです。驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「廿日鼠(はつかねずみ)と人間(1939)」 人生はつまづく石だらけ。文芸映画の名作。

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題名 廿日鼠と人間
監督 ルイス・マイルストン
原作 ジョン・スタインベック「二十日鼠と人間」1937年
出演 バージェス・メレディス、ロン・チェイニー・ジュニア、ベティ・フィールド、チャールズ・ビックフォード
音楽 アーロン・コープランド
上映時間 106分 
制作年 1939年
制作国 アメリカ
ジャンル 文芸、ドラマ、モノクロ


ジョン・スタインベックの文芸小説「二十日鼠と人間」の最初の映画化作品。1992年にはゲイリー・シニーズの監督主演版があるが、今作はそれのオリジナル。

利口な男と知恵遅れの男のコンビが、雇い主にバカにされるようなその日暮らしの雇われ労働者ではなく、いつか独立して自分たちの小さな農場を手に入れ、幸せな日々を送ることを夢見ていたが、現実は容赦なく彼らから夢を奪い去る、という話。


知恵遅れのレニー役をやっているのは、あのロン・チェイニーの息子。その名もロン・チェイニー・ジュニア(まんまやん)。

彼は元々俳優を志していたが父親のロン・チェイニーに猛反対され、1930年に父親が死んだあと俳優デビューしたらしい。その後、この『廿日鼠と人間』で注目され、その後は父親と同様、怪奇映画のスターとなるが、怪奇映画というジャンル自体が廃れてしまうし、結局は俳優として父親を越えられずに失意の人生を歩んだらしい。こういう話は哀しい。

キャリアの途中から、ジュニアを外して父親と同じロン・チェイニー名義で活動していたが、結局は父親と区別をつけるために「ジュニア」つきの名前に逆戻りしたんだとか。なんかこういうエピソードも哀しい。

でも今作でのレニー役は良かった。知恵遅れで殺人を犯してしまうという難しい役を、愛情を込めて丁寧に演じていたように思う。見るこちら側が同情と愛情を持てるキャラクターに、ちゃんとなってた。

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映画は、追ってから逃れるべく森を走るジョージとレニーの姿から始まる。

二人は上手く追っ手をかわし、走る貨物列車に飛び乗り、列車の大きな扉を閉める。と、その扉に映画の説明書きがチョーク(ペンキ?)で書いてあり、それがそのまま映画のタイトルバックとなる。

この始まり方は良かった。だいたい映画の良し悪しは開始5分であらかた分かる。この演出を見ただけで「あ、期待できるな」と思った。


時代は世界恐慌が吹き荒れる1930年代。季節労働者として農場などを転々とし、日銭を稼ぐジョージとレニー。

力持ちだが頭の弱いレニーは物覚えが悪くて何でもすぐに忘れてしまうし、中でも問題なのは、レニーはふわふわしたものが大好きで、ウサギや小鳥、子犬などを可愛がるのだが、力の加減が分からないレニーが気が付くと殺してしまっていたことが何度もあるのだ。レニーはゆく先々でトラブルを起こし、二人は一か所に居つくことができない。

ジョージは「レニーがいなければなあ、町で女の子と出会ったり、酒を飲んだり、定住して金を貯めたりもできるのに」と、レニーのいない自由な生活を考えたりすることもあるのだが、それでも子供のころからずっとレニーの面倒を見てきたし、レニーの叔母さんが死に際に「レニーをよろしくね」とジョージに託したこともあって、それ以来ずっと面倒を見てきたのだった。


ウィードの町でレニーがふわふわした女のドレスに触りたくて女を怖がらせ、町を追われた二人はバスで次の農場へ向かっている。途中で降ろされ16キロも歩かなくてはならなくなった二人は野宿して、そこでレニーはいつもジョージがしてくれる「小さな農場を買ってふたりで幸せに暮らす夢」の話をするようせがみ、ジョージは「何度でも話してやるよ」と言って話して聞かせ、そして「もし今度トラブったらここへ戻ってくるんだぞ。そして俺が来るまで茂みに隠れてるんだ」と言い聞かせ、レニーも約束する。

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一日遅れで到着した次の農場では「この時代ならマシかな」というまあまあ横暴なボスと、その息子のカーリー、カーリーが最近結婚したばかりの若い妻メイがいる。

カーリーは自分が小男だから大きな男が大嫌いで、おまけにもらったばかりの若い妻メイが自分の言うことを聞かず、いつもイラ立ちを隠さない。レニーは大男だから早速目を付けられてしまうし、おまけに妻のメイも新入りの自分たちに興味をもつし、すでにトラブルの種はいくつもあってジョージはレニーが心配で気が気でない。


だいたいカーリーは自分が小男なのを気にしすぎる。ちょっとでも大きな男をみると「なめんなよ」とばかりにすぐに噛みつく。そのうえ嫉妬深くて、妻が他の男と口も利かないよう始終彼女の行動を見張っている。妻を独占したいけど、「何発くらわしてやった。右フック、左フック!」と喧嘩の話ししかできないため、妻を喜ばせることがまるでできない。そして親子で食べ方が汚い。


妻のメイは女優志望で過去にスカウトされたことがあるらしく、その思い出を後生大事に温めていて、スターになるチャンスを母親につぶされたと思ってる。もともと母親とは折り合いが悪く、母親から逃げるために結婚を決めただけでそもそもカーリーを愛していない。一緒になって2~3ヶ月経つが、カーリーは自分を監視するほど独占欲が強いくせに映画ひとつ連れて行ってくれないし、喧嘩の話しかできないし、自分を見張っていて息が詰まるし、親子でアップルパイの皿にに牛乳を注いでひたひたにして混ぜて、音を立ててすすって食べてふたり
とも汚いし、もううんざりしている。

助言してくれてもよさそうなカーリーの父親は、いつも金の計算ばかりしていてそんな息子夫婦の仲なんかには目もくれず、仲を取り持つ気などさらさらない。

おまけに農場には他に女が誰もいないから誰とも仲良くすることができず、いつも孤独を感じている。それで労働者のリーダー格のスリムを頼りにしたり、スリムに子犬をもらったりしているだけなのに、嫉妬深いカーリーに邪魔されて苛立ってしまう。

かわいそうなメイ。過去に「スカウトされたことがある」という、おそらく一回声をかけられたくらいの出来事だろうけど、それを膨らませて「あの時母親が邪魔しなければ、今頃ハリウッドできれいなドレスを着て、スターになってたかもしれないのに」と夢を見ることしかできない。

そして最後はカーリーと別れて、農場を出ていくはずだった。

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農場の他の労働者仲間もみな人生が煮詰まっている感じで、割と上手くいっていそうなのはリーダー格のスリムくらい。

スリムは実際頼りがいがあって、冷静そうだし、情にも厚そうだし、だから仲間の信頼も得ていて「こんなところにいる人じゃない」という感じ。結果的にはトラブルの種になるけど、生まれた子犬をメイやレニーにプレゼントして、おそらくジョージたちの計画がうまくいっていればキャンディーにもあげていただろうと思う。

犬が似合う、ハンサムとは違うけどいい男。


「他人に犬を撃たせるなんて。自分で撃つべきだった」
  キャンディの台詞


そのスリムから子犬をもらおうとしていた年寄りのキャンディー。左手を事故で無くし、掃除などの雑役を担当しているキャンディー。

ジョージとレニーの「小さいながらも自分たちの農場を持って、幸せに暮らす夢」の話を聞き、自分も一緒に連れて行ってくれと言うキャンディー。彼は手を怪我したときの補償金や貯金などで340ドルほど貯めていて、それをすべて差し出すというのだ。

農場は600ドル。ジョージとレニーは文無しだけど、もうすぐ給料が入る。それを無駄遣いせずに持ち寄れば、足りないけど頭金だけでも払っておけば、なんとかなるかもしれない。ジョージはキャンディーを仲間にすることにする。そして一か月後に農場を抜け出す計画を立てる。

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・・・ところでキャンディーは老犬を飼っているけど、その犬が臭いらしくて仲間たちに疎まれてしまい、そろそろ射殺するよう仲間たちに迫られていた。でもずっとずっと一緒だったから射殺するなんて出来ないし、そもそも手放したくない。それでずっと粘っていたのだが、とうとう逃げ切れなくなって同意してしまう。

でも自分ではできず、仲間に射殺してもらう。そしてしばらくたってから口にするのが上に引用した上記のセリフ。

急にカメラ目線的になって、バスト・ショットになって、一言一言区切って念を押すようにつぶやいていて、ここだけ急にかなりあざとい演出になっちゃってたけど、このセリフがあとから効いてくる。


映画も終盤、頭金も払ったし、予定の一か月も近づいてきた頃、カーリーに追い出されたメイが子犬を連れに納屋に入ってくる。するとそこには死んだ子犬を抱いて泣いているレニーの姿があった。

メイはレニーを責めることはなく、メイは女優になりたい話を、レニーは農場の話を、それぞれ勝手にしゃべっている。レニーが「ふわふわした柔らかいものが好き」と知ると、「そんなのみんなよ!」となって柔らかくて気持ちのいいものの話になり、メイは自分の髪がいかに柔らかいかを自慢してレニーに触らせてあげる。


・・・レニーはもちろんそんなつもりはないのだけれど、ちょっと髪をくしゃっとつかんだだけなのに、「セットが乱れるわ!」と怒るメイに驚いて、つい力が入ってしまう。

事態を知ったジョージは、キャンディーの老犬を撃った時に使用された銃を片手に、レニーと約束した茂みに向かう。

そう。

「他人に撃たせるのではなく、自分で撃つべき」なのだ。

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もう一人、印象的な登場人物の話。映画で唯一出てくる黒人のクルックス。彼がかなり曲者で、私は結構気に入った。

背中を痛めて体が不自由な、本が好きな黒人で、黒人であるため他の労働者の中には入れず、いつもひとりで離れて暮らしている。

これがかなりひねくれた性格で、キャンディーとレニーから「農場での夢の生活計画」を聞いたクルックスが言い放つセリフがこのセリフ。

 

「バカな冗談はよせ。こうして死ぬまで暮らすのさ。農場を渡り歩く労働者達を見てきた。皆バカな夢を見てたよ。自分の土地を夢見ても手に入れた奴はいない。天国と同じで手が届かない」 
  クルックスの台詞


いるんだよね、こういう人。水を差す人。ウチの母親とかね。

せっかく前向きに盛り上がって、楽しく夢を見ているのにさあ、訳知り顔で「俺は(私は)何でもお見通し」みたいに、いかにその夢が浅はかかを教えてくれちゃう人。「そんなの無理に決まってる」「世の中そんなに甘くない」「夢見てると痛い目に合うぞ」「人生はそういうもんだ」って、教えてくれるの。

せっかくレニーとキャンディーが「ウサギを飼うんだ!」「ウサギを育てて商売しよう!」って紙袋をくるくる回して鉛筆でなにやら書き込みながら、ウサギがどのくらい増えるかキラキラと夢中で話しているのに、「夢は夢で終わるんだよ」と。

確かに難しいことも多いと思う。本を読むような黒人だから、キャンディーとかレニーより頭はいいかもしれない。

だけど、頭がいいんなら「どうすればそれが叶えられるか」を一緒に考えてあげればいいじゃん。「ここに注意しな。それで失敗してきたやつをたくさん見てきたから気を付けな」って言って、みんながつまづきがちな小石を取り除いてあげればいいじゃん。

でもほとんどの大人はそういうことができないんだよね。私はなりたくない。多少「夢みたいな夢だな」と思ったとしても、それを叶えるためには何が必要かを調べたりして、一緒に考えられる大人になりたい。

だってキャンディーは、爺さんなのに夢が持てて、ウサギの数を計算する為に一生懸命鉛筆を削ってるんだよ! (ノД`)(ムネアツ)(レニーが言ってたよね)

夢を見て何が悪いの。


・・・とは言っても、私は未婚で子供もいないし、今は部下もいないから(前は結構いたんだけど)それを実行する機会が皆無なのが残念無念。


それにクルックスはそれだけじゃないんだよ。「資金がある」と知ったとたん「おや」となって急に態度を豹変して「背中は悪いけどいれば何かの役には立つ」とかなんとか言って取り入り始めて、あまりにも節操がなさすぎ。いま水差してたばっかりなんだよ。やだねーこういうの。

ほんとあまりにも節操がないので逆に「好き」って思っちゃったよ。

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「よく聞いてくれ。俺たちには計画があるんだ。お前がいたらダメになる。男が石につまづき転んで首の骨を折る。石は悪くないが、最初からなければ転ばない」  メイに向けてのジョージの台詞


人生には様々な「つまづく石」がそれぞれの人にあるけれど、ジョージの心配は、自分がつまづくことではなくレニーが転ぶと自分も転ぶといった感じに考えていて、そのレニーがつまづく石がカーリーの妻メイだと思ったのだった。

男にとって女というものは、場合によっては大きな大きな、人生を狂わす石になるかもしれないけど、でも女だけが石なわけじゃない。実際はレニーがジョージの石なのかもしれないんだし、もっと言えばジョージ自身が石なのかも。

だって農場を持つ夢を持っていても、その相棒は知恵遅れのレニーだし、お金を持っていたからとはいえ追加で仲間にしたのは「誰にも言うなよ」とあれだけ念を押していたにも関わらず、レニーと一緒になって浮かれてベラベラと秘密を喋ってしまうようなキャンディーで、善良かもしれないけど簡単に騙されそうだし、なんとなくトラブルの匂いがして頼りないことこの上ない。


優しいと言えばそれまでだけれど、ジョージはどうも計画が甘いんだなあ。キャンディーの100ドルを郵送していたけれど、農場だってもう人手に渡ってるかもしれないじゃん。

なんとなく、状況によってはもしかしたらクルックスも仲間に入れていたかもしれないし、下手したらメイだって連れて行っちゃったかもしれないなと思わせる。もしクルックスとメイが「ちょっとはお金を持ってる」なんてことになって、合わせて50ドルもあれば「よしみんなで行こう」なんてことを言い出しかねない男に見える。

クルックスは辛い人生だったんだろうけど、結果的に根性が腐ってて簡単に裏切りそうで信用ならないし、メイも間違いなく問題を起こすタイプ。

なのに連れて行きそうと思わせるジョージの甘さが仇になって、結局は農場経営なんて上手くいかなかったかもしれないなと、うがったことを考えてしまった。

人生はつまづく石がたくさんあって、つまづかない人は大して転ばないけど、つまづく人は頻繁につまづいて、場合によっては大けがをする。ひとつ取り除いてもまた新しい石が転がってて・・・

レニーと永遠に別れたジョージは、ようやく転ばない人生を歩めるのかなと、ちょっと思いを馳せた映画だった。


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