題名 スイミー ちいさな かしこい さかなの はなし
作者 レオ=レオニ
出版社 好学社
出版年 1963年
出版国 アメリカ
ジャンル 絵本、自己啓発
子供の頃に読んだきりでもうすっかり忘れていたが、最近名作絵本『スイミー』を読み返した。
私は独身・子なしなので、大人になってから絵本に触れる機会はほぼないのだけれど、Youtube とか、ブログとか、ツイッターとかを見ていると、「スイミーみたいな話だな」とか「スイミー的な」といった表現で何かの代名詞的に「スイミー」が使われているのを何度か見かけていた。
そしてその使われ方から推察するに、どうやら「非力な者でも、みんなで力を合わせれば大きなものに打ち勝つことができる。だから力を合わせよう」みたいな文脈で使われているようで、「そんな話だったかなあ、なんか違うような・・・」と、遥か過去に読んだおぼろげな記憶をたどっていたのだけれど、最近になって確認してみたくなって購入した
結論から言えば、「やはりスイミーはそういう話ではない」と思った。
この、薄くて文字数も極めて少ない絵本の物語を、野暮は承知でさらに簡単に説明してみれば、
「赤い小魚の兄弟たちの中で、自分だけが真っ黒なスイミー。ある日マグロがやってきて兄弟の赤い小魚たちをみんな飲み込んでしまうが、泳ぎが速いスイミーだけが生き残る。そして海をひとりで泳いでいると、同じような赤い小魚の群れと出会う。スイミーと赤い小魚たちは、みんなで群れになってマグロよりも大きな魚に見せかけて、襲ってきたマグロを追い払うことに成功する」
というようなストーリーなので、確かに「力を合わせよう」みたいな話に読めなくもないと思うのだけど、やっぱり私はぜんぜん違う話として読んだ。
☜日本語+英語版 表紙
【解釈】
この『スイミー』という魚の話は相当大人向けの物語で、レオ=レオニがいいたかったことは、「みんな力を合わせようよ。力を合わせれば大きなことが出来るよ」というような ”善人ぶった牧歌的ないい話” ではなく、「勝ち組になるには」みたいな、集団の中で埋もれて行かないための自己啓発とか、人生観とか仕事観とか、そういう哲学や思想をも含んだものだと思う。
スイミーが所属する赤い魚の集団は「没個性の象徴」であって、しかも彼らは思考を放棄している。だから彼らは搾取されつづける存在として描かれている。そのなかで周りと違うスイミーは、最後にはその赤い魚たちのリーダーとなって、彼らを導く目になっている。
確かに「力を合わせて」はいるのだけれど、あくまでも「”ボクの指導の下” に力を合わせている」というところがポイントだと思う。
では「スイミーは一体どのようにしてそれを可能にしたのか」というノウハウも、この短いうえに文字数も少なく、ひらがなでしか構成されていないシンプルな絵本にはちゃんと書かれている。それは、
① 人と違うこと(孤独)を恐れてはいけない
② 未知を恐れてはいけない
③ 挑戦を恐れてはいけない
④ 思考を放棄してはいけない
そうしなければ、没個性の赤い魚たちのように大勢の中で埋もれてしまい、しかも強力な存在の前では非力で、簡単に食い物にされてしまう。
この作品は「集団の中でリーダーシップがとれる立場になるのに必要な要素」というメッセージ、限られた集団の中であったとしても強者になることを勧めている、冷徹な世界観を持つ作品だと思う。
☜英語版 表紙
作品の流れに沿って時系列に順番に追ってみる。まず、
まずスイミーは「みんなは赤いのに、自分だけは真っ黒である」という、まわりとかなり違う個性を持った魚として登場する。けれどもスイミーは「誰よりも泳ぎが早い」という特徴も持っている。
だけど赤いのも黒いのも、「みんな たのしく くらしてた」とあるところを見ると、みんなと違うことで特にいじめられたりはしていなかったよう。
でも、足が速かったスイミー以外の、いたって普通の仲間たちはみんなマグロに襲われて食べられてしまう。
特徴のない者は敗者となった。
まわりと違うことで、スイミーは生き残る。
⇒ ① 人と違うこと(孤独)を恐れてはいけない
次にスイミーはひとりぼっちになって、広大な海をさまよう。暗くて怖くて寂しくて、悲しかったけど、今まで知らなかったことを知ったり、経験することが楽しくなっていく。
未知の恐怖から逃げ出さず冒険を続けた結果、スイミーは皆は知りえない情報を得て、誰もしていない経験を積んで成長していく。
⇒ ② 未知を恐れてはいけない
その後、昔の兄弟たちのように没個性的な赤い小魚たちが集団で暮らすところに出くわす。
スイミーは、「みんなも出てきて遊ぼう。楽しいよ」と誘うが、赤い小魚たちは「大きな魚が怖いから」と言って慣れた空間から出ようとしない。
⇒ ③ 挑戦を恐れてはいけない
隠れるだけで立ち向かおうとしない赤い小魚たちに対してスイミーは、「ずっとじっとしてるんじゃなく、問題を解決する為に考えなくちゃ」と言って、ひとりで考え始める。
それも「ちょっと考えた」のではなく、いろいろと考えて、うんと考えて、その結果「みんなが集まって大きな魚のふりをして泳げれば、大きな魚よりももっと大きくなること」を思いつく。
そしてスイミーは赤い魚たちに対してリーダーシップを取って指示を出し、最後は「ぼくがみんなの目になろう」と言ってみんなの目になる。
⇒ ④ 思考を放棄してはいけない
そしてスイミーは、みんなと違う特徴を生かした結果、彼らの社会で彼らを導く存在となることができた。
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今回読み返してみて、私は「すごく勉強になった」と思って、「これは10代や20代の若いときにしっかりと読むべきだったのでは」と思った。
私は自分の人生を決してまだ諦めてはいないので「今からでも勉強になった」と思うのだが、また「若い人には私よりもうまく生きて欲しい、私よりも幸せになって欲しい」と切に思う年齢でもあるから、もしこの記事をここまで読んでくれたなら、老若男女にぜひ読んでもらいたい。
別に下のリンクを踏まなくってもいいから、ぜひ読んで欲しい。
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ところで、絵本というものをテキストだけに注目するのは片手落ち(最近は差別語なのかな)だと思う。
もちろんレオ=レオニの手による絵も素晴らしい。私は絵画にも明るくないのでよく分からないのだが(何にも詳しくないんだな)、何かで作ったハンコみたいなのをペタペタ押しているのかな。
そしてとにかくスイミーの目がすごくかわいいと思う。
びっくりしていたり、ちょっとキリッとしていたり、マグロに追われているときは「わーやばい」って感じだし、
世界を旅して珍しいものをみているスイミーは「なんだこれ、びっくり!」とか「うひゃー、こんなのいるんだ」とか、声が聞こえてくるよう。完全にお上りさんの観光客の顔してる(笑)
そして時々は「キリッ!」として厳しい目つきをしていたりして、とても愛おしい。
それに引き換え、赤い魚たちの表情の無さはまるで規格品のよう。
しかし才能というものは本当にすごい。こんなシンプルな物語の中に、こんなに深いテーマを含ませることができるなんて・・・それも偉そうに大上段に構えて説教くらわすわけでなく、子供向けの絵本の形をとって。尊敬します。
読んで、見て、私の感想が妥当かどうかも含めて、ぜひ確認してみて欲しい。
じゃねー。