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名作から駄作まで、見た映画の感想を正直に片っ端から記事にする、古い映画感想ブログです。驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【本】ディクスン・カー「不可能犯罪捜査課」 密室殺人小説の達人、ディクスン・カーの短編集





題名 不可能犯罪捜査課
作者 ディクスン・カー
出版社 創元推理文庫
出版年 1940年
出版国 アメリカ
ジャンル 短編集、推理



密室殺人小説の達人、ディクスン・カーの短編集。あらすじと覚書。なるべくネタバレにはならないように、でも後でどんな話だったか思い出せるように。

前半の六篇の名探偵は、ロンドン警視庁に設置され、奇怪な事件ばかりを扱うD三課のマーチ大佐。肥満型の大男で、そばかすだらけの顔、青い目、赤毛の口ひげ、短いパイプ。現場に出かけてはいくのだが、D三課の部屋で被害者から話を聞いただけで犯人とトリックの当たりを付けてしまう。
 
 

『新透明人間』

気取った紳士面した男が隣人夫婦の家をのぞき見していると、そこで殺人事件が起こる。空中に手袋が浮かび、銃の引き金が引かれ老人が殺され、二発目の弾丸が自分の方へ飛んできてあやうく自分も死ぬところだった。男はさっそく隣人夫婦の家へ押しかけるが、なぜか死体は跡形もなくなっており、事件の痕跡すら見当たらない。そこで男は警察へ行き捜査を依頼する。殺人のトリックは? 殺された老人はどこへ? 犯人はどこへ行ったのか? そこで男はマーチ大佐や隣人夫婦に痛烈にやっつけられる。

口先ではそれらしく善人ぶった口調で自分は紳士だと饒舌にアピールしながら、悪びれもせずに他人の家を覗く男の描写が皮肉が効いていてユーモアたっぷり。

 
 

『空中の足跡』

氷の張った湖、スケート、降雪、山荘。主人公のドロシーは父親と従兄と一緒にスケートに来ている。向かいの家には死んだ母親の友人である老婦人が住んでいて、ドロシーは彼女を嫌っている。二人が喧嘩した晩、その老婦人が殺され(撲殺)、母の形見でもある貴金属がなくなっていた。老婦人の山荘からドロシーの山荘まで、行きと帰りの足跡二筋だけついていて、しかもその足跡は明らかにドロシーのものであったことからドロシーが疑われる。おまけにドロシーは日頃から夢遊病の気があり、その晩の記憶があいまいだった。ドロシーは自分でも自分がやったのだろうと思うが、マーチ大佐が真相を暴く。


『ホット・マネー』

銀行強盗が起り、犯人たちは大金を持って逃亡するが、行員のジョン・パリッシュの耳元で「ありがとよ。お前の分け前はあとで届ける」と耳打ちして行ったことからジョンが仲間として疑われる。犯人たちは逃走中に捕まるが、肝心の金を持っていなかった。すぐ近所にある屋敷が、犯人たちの弁護士の屋敷であることから仲間の一味として疑われる。しかもその屋敷にはジョンの許嫁であるミス・ドーソンが秘書として働いていた。彼女はその弁護士の部屋で確かに大金を見たのだが、次に警察と一緒に入ったときには金は跡形もなく消えていた。マーチ大佐は金のありかを簡単に突き止め、ジョンの無実を晴らす。

作中でも語られる、オーギュスト・デュパンの『盗まれた手紙』型の着想。



『楽屋の死』

ナイトクラブの年増の踊り子がハサミで刺されて殺される。クラブのオーナー、大金の入った男物の長財布を持った若い女、踊り子の付き人の3人が容疑者になるが、若い女以外の二人には確固たるアリバイがあり、若い女に疑いがかかる。しかしマーチ大佐は今夜の踊り子のダンスが1秒早く終わったことから真犯人を導き出す。


『銀色のカーテン』

カジノで大負けしたジェリー・ウィントンは同じテーブルにいたデイヴォスから、ある場所に今からちょうど一時間後に行くだけで一万フランになる話を持ちかけられる。その場所に約束の時間ぴったりにウィントンが向かうと、目の前でデイヴォスが背後を刺されて殺され、そばには大金の入った財布が落ちていた。容疑者となったウィントンだが、マーチ大佐が現れ真犯人を暴く。


『暁の出来事』

海辺である金持ちが突然倒れ死亡が確認される。容疑者は4人。金持ちの姪、金持ちに呼ばれて訪ねてきた新聞記者、金持ちの昔の恋人の息子、金持ちの友人である博士。状況から殺人事件と思われ、姪が容疑者として連行されるが、実際は金持ちの狂言だったことをマーチ大佐が見破る。


『もう一人の絞刑吏』

19世紀末のペンシルバニアの町で男がひとり殺される。被害者も容疑者も町の嫌われ者だったことから、容疑者はあっという間に絞首刑が決まる。しかし絞首刑当日、前日からの大雨でギロチン台の木が水を吸って膨張し、落し蓋が開かず、絞首刑は延期になる。その延期の決定が正式に下る直前に容疑者は何者かに絞殺される。しかしその犯人は「法の通りに刑を執行しただけだ」と、法の隙間を利用した完全犯罪を主張し、実際に刑をまぬかれる。


『二つの死』

事業家のトニー・マーヴェルは体調を崩し、外科医である弟の勧めに従って豪華客船で8ヶ月間ほどの療養に出ることを決める。ところが乗船すると自分そっくりの男が下船を命じていたり、自分の船室のベッドの上にピストルが乗っていたりと不可解なことが起こる。しかし予定通りの船旅を終えロンドンに戻ると、自分の死が報じられていた。驚いて自宅に向かうがその途中で毛皮の襟がついた外套の男を何度も見かける。自宅へ戻るとベッドには自分そっくりの男の死体があり、トニーの姿に驚く弟がいた。そして弟は自室に閉じ籠り拳銃自殺をするが、トニーはその直前に毛皮の襟のついた外套の男の姿をみる。トニー殺害の計画を立てていたのは弟だったのだが、弟の自殺には疑問が残る、という話。


『目に見えぬ凶器』

17世紀、裕福な家柄に生まれた娘メアリーが、広大な土地をもつ裕福な男オークリーと婚約する。二人は年齢も離れ、気性も違っていたが、お互い愛し合っていた。ところがそこへ新大陸から戻ってきたもう一人の男ヴァニングがメアリーを気に入り横恋慕する。有利な方へ嫁がせたいメアリーの両親は色々迷うが、最終的には元の通りオークリーと結婚することが決まる。するとヴァニングが屋敷を訪れ、オークリーが斬殺される。かなり大きな剣で殺されたとみられるが凶器が見つからない。ヴァニングは一旦逮捕されるが釈放され、結局メアリーを妻とする。幸せに暮らしていたと思われた二人だが、数年後ヴァニングが喉元を切られた状態で発見され、事故死として扱われる。ひとりになったメアリーは、その後ひとりで長生きをして往生する、という話。意外な凶器と隠し場所、メアリーによる復讐が読みどころ。


『めくら頭巾』

怪談風の一編。とあるクリスマス。友人に招かれた夫婦が屋敷につくと、友人ではなく得体の知れない若い女がひとりいた。その不気味な女は、夫妻が聞きもしない昔のクリスマスに起こった事件の話を一方的にしはじめる。

19世紀、この屋敷にはウェイクロスとジェインという夫妻が暮らしていたが、ある晩ウェイクロスが仕事で屋敷を留守にしている晩にジェインが焼死してしまう。屋敷はすべて鍵がかかっており、屋敷のまわりは一面雪で覆われ密室状態だった。屋敷に向かってついていた足跡はウィルクスという男の足跡で、しかもウィルクスがジェインにあてて書いたラブレターが発見される。しかしウィルクスには完ぺきなアリバイがあり、事件は迷宮入りになる。それから数年後、別の住人の手に渡ったこの屋敷で催されたクリスマス・パーティに招かれたウィルクスが不可解な死を遂げる。

この話を夫妻に語った不気味な女は、「最後まで聞いてくれてありがとう」と言って姿を消した、という話。


感想

個人的に好きだったのはマーチ大佐ものではなくて、『もう一人の絞刑吏』『二つの死』『目に見えぬ凶器』の三篇。

やはり私は論理的思考が欠けているんだろう。理詰めの数学的な内容よりも、感傷的かつロマンチックな作品が好き、ということらしい。