題名 ようこそ地球さん
作者 星新一
表紙・挿絵 真鍋博
出版社 新潮文庫
出版年 1972年
出版国 日本
ジャンル SF、ショートショート
*星新一自身によるあとがきによれば、すごく初期の単行本『人造美人』『ようこそ地球さん』の中から星新一自身が選んで文庫化したのが、先に出版されている『ボッコちゃん』。その『ボッコちゃん』に入らなかったもの+他の短編で構成されたのが、この文庫版『ようこそ地球さん』らしい。
*星新一の作品の中でもかなり昔の作品が詰まっていて、初期の名作、傑作集になっている。
*今回も挿絵は真鍋博。
全42篇。特に心に残った作品は5篇。その覚書。
『愛の鍵』(4ページ)
星新一には珍しいラブロマンスのひとつ。ドアや金庫などのあらゆる鍵が、自分が決めた「合言葉」によって開く世の中。ある男女が些細なことで喧嘩別れしてしまうが、その合言葉によって仲直りできるほっこりと可愛らしい小品。
『小さな十字架』(6ページ)
『開拓者たち』(9ページ)
人類が移住したはるか遠くの開拓星。作物などを育てるすべを失った人々は人工食料ばかりを食べて数世代が経ち、謎の病気が蔓延していた。死を防ぐ手立ては天然の食料を食べることだけ。人々は ”唯一の天然食料” を子供たちに与えて生き延びていたが、世代を重ねるごとに効果が薄まり、人々は焦っていた。そこへ地球から7人の乗組員がやってくる・・・という話。結構ブラックというかディストピア感のある、わりと絶望的な作品。
『最後の事業』(9ページ)
地球。人口が増え、あまりのうるささに嫌気がさした大企業の重役たちは、人工冬眠の技術を開発し、静かであろうと思われる未来へ向けて眠りにつく。ところがそれが事業として大成功。人々は次々と人工冬眠に入り、値段も下がり、誰もかれもが人工冬眠に入り・・・最後の一人になった時、宇宙人がやってくる。
『殉教』(21ページ)
ある男が死者と会話できる機械を発明する。呼び出された死者たちは口々に「こっちはいいところだ」と皆が言う。生きているより死んだ方がいいらしいとなった途端、人々は皆あの手この手で命を絶っていく。最後に男女二人が残る。後半までカラッとした文体で話が進むが、最後の最後でガラッと雰囲気が変わり、物悲しい感じになるところが ”わびさび” というか、「吾輩は猫である」の終わり方的なというか、チェスの後半に盤面がさみしくなっていく感じというか、とにかくさみしい感じで良かった。
*全体的に割と寂しげというか、ディストピアっぽい作品が目立った一冊だった気がする。
参考:星新一サイト
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