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古い映画を中心に、本、仕事・・・etc. 驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「最後の人 (1924)」 ~悲惨な物語は悲惨なままがいい~

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題名 最後の人
監督 F.W.ムルナウ
出演 エミール・ヤニングス、マリー・デルシャフト  
上映時間 74分
制作年 1924年
制作国 ドイツ
ジャンル サイレント、モノクロ、20's、ドラマ
 
 

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***************** あらすじ ******************
主人公はホテルで働く初老のドアマン。彼は金モールも煌びやかな制服やドアマンという仕事に誇りを持っており、妻も近所の人たちも、彼に一目置いていた。
ところがある日、「彼はもう歳だ」と判断したマネージャーに呼び出され、ドアマンからトイレ掃除係に異動させられてしまう。そんなことはないといきり立つ主人公。そばにあった大きなトランクを持ち上げようとするが、実際持ち上げることができない。誇りにしていた仕事を失っただけでなく、今日は姪の結婚式。ドアマンの制服で出席するつもりだったが、それが叶わなくなり絶望してしまう。
その晩、彼はドアマンの制服をホテルから盗み出し、それを着て結婚式に出席。楽しい思いも束の間、翌日酔いの残る足取りで出勤するが、ホテルの前の別のドアマンの姿を見て現実に引き戻される。駅のクロークに制服を預け、トイレ係として勤務するが、差し入れを持ってきた妻に自分がすでにドアマンではないことがばれてしまう。打ちひしがれるドアマン。ショックを受ける妻と姪。口差がない人々によって早速近所中に知れ渡り、興味津々で彼の帰宅を待つ近所の人々。彼は預けていた制服に着替え、ドアマンのままのふりをして帰宅するが、家族からはまるで犯罪人のように迎えられ、いたたまれなくなってホテルに制服を返しに行く。すべてを失い絶望した主人公は、ホテルのトイレに駆け込みうなだれたまま動けなくなってしまう。
・・・ここで、唯一の字幕が入る。「あまりにも可哀想なので、脚本家が粋な計らいをしました」みたいな。そこからはひょんなことから大金持ちの遺産を相続することになった主人公の得意げな成金ぶりが、皮肉たっぷりに描かれるのでした。
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最後の粋なはからいは余計。妻の献身も、近所の人々の尊敬も、ドアマンという職業と金ボタンの制服があってこそ。悲惨な物語は、それが現実であるがゆえに悲惨なままでいい。これは誰にでも起こる出来事なのだ。
 
主人公を演じたエミール・ヤニングスは当代きっての名優だったらしい。コミカルさも交えつつ、老いと、自分の人生を自分でコントロール出来ない悲しみを演じきる。
 
 

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監督のムルナウも名監督。主人公がホテルからドアマンの制服を盗んで飛び出し、罪の意識にさいなまれてホテルを振り返り、しかし姪の結婚式があるからと罪の意識を振り払って制帽をかぶり、制服を着こむシーンは、演技も演出も共に素晴らしい。まるで歌舞伎。
 
この映画は、冒頭と最後に作り手の説明とかお断りみたいな字幕は入るが、本編中に中間字幕は一切ない。しかし分かりづらいところは全然なく、字幕などなくても映像と演技のみで全てが理解できる。主人公の気持ちが強く伝わってくる。
 
もうひとつ見どころを。近所のおばちゃんたちがめちゃくちゃ上手い。人の不幸がすごく嬉しそう。「聞いて聞いて!」って、楽しくってしょうがないといった感じ。彼女たちの悪意たっぷりのおしゃべりで、瞬く間に近所中に噂が広まっていくのだ。
 

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また、当時の雰囲気が味わえるのが古い映画のいいところ。オープニングの数秒が素晴らしく美しい。始まった途端に「ふわあ~」って気分になって、映画に対する期待が膨らむ。ワクワクする。映画冒頭の字幕にもあるようにハンディカメラを使用した初めての映画らしいが、降りるエレベーターの中から撮影した流れるような映像は、ハンディカメラあってこそ。エレベーターボーイが出てくる演出も最高。必見です。 
 

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