エムログ

古い映画感想ブログです。驚くほど忘れてしまうので備忘録として。

【映画】「舞踏会の手帖(1937)」~反芻する女~

f:id:msan1971:20190303230535j:plain


題名 舞踏会の手帖
監督 ジュリアン・デヴィヴィエ
脚本 アンリ・ジャンソン
出演 マリー・ベル、フランソワーズ・ロゼー、ルイ・ジューヴェ、アリ・ボール、ピエール・ブランシャール
上映時間 130分
制作年 1937年
制作国 フランス
ジャンル オムニバス、ドラマ、モノクロ、30's


f:id:msan1971:20190512140759j:plain


オムニバスとは「乗合馬車」という意味らしい。この映画を観るまで知らなかった。この映画はそのオムニバス形式の映画の最高傑作のひとつと言われる作品とのこと。

オープニングは、キャストなどが書かれた2リングの手帳をめくっていくという洒落た出だし。
 
主人公はクリスチーヌ・マリー・ベル。彼女は今36歳。夫に先立たれ、家の中や夫の持ち物を処分している。彼女はすべてを失った気持ちで途方に暮れ、16歳の時に初めて参加した舞踏会と、その時自分に愛を囁いた数々の男たちに思いを馳せる。やがてクリスチーヌは、彼らの名前を記した手帖を手に、現在の彼らを訪ねる旅に出る。
 
 
ここからは完全ネタバレ。だけど、別にミステリーとか推理小説とかじゃないし、知ったからと言ってこの映画の魅力がなくなるわけではないと思うし、このブログは備忘録を兼ねているので記事にしてしまう。気になる人は読まないことをお勧めします(一応)。


第一話「ジョルジュ」・・・最初に訪ねたジョルジュは、クリスチーヌがほかの男と婚約したことを知って自殺しており、母親は息子が自殺したことを認められず頭がおかしくなっていた。クリスティーヌは彼が自殺した日から時の止まった部屋と母親と別れて次の旅に出る。

 

第二話「ピエール」・・・20年前にクリスチーヌに詩を贈ったロマンチストのピエールは、今では「ジョー」と名乗り犯罪に手を染め、甘さゼロの渋い現実主義者になっていた。手下に出す指示もリスクを取らず手堅くいくし、表で経営しているクラブでは有力者への気配りだけでなく、店の客全員を鋭く観察して欲しいものを的確に与え、怠けた娼婦にはお灸をすえて・・・といった一切の妥協を許さないやり手といった感じ。が、突如現れたクリスチーヌの姿に若かりし青春時代を思い出し、昔二人で口ずさんだ詩を、今また二人で口ずさみながら警察に逮捕される。詩の続きを口にしながら店を後にするクリスチーヌが物悲しい。


第三話「アラン」・・・新進の音楽家だったアランは神父となって孤児たちを養い、歌を教えていた。出家したのは信仰からではなく、突然の苦悩と失望からだと言い、20年前のクリスチーヌへの恋心と彼女がした仕打ち、クリスチーヌに向けて心を込めてピアノを弾いたが、クリスチーヌは他の男と楽しそうに笑っていて全然聴いていなかった話と、その演奏会で一心に聴いていた少年と、全く面倒を見ないまま死なせてしまった自分の息子の存在が、今のアランをつくったことを語る。厳しくも愛情深く子供たちに接するアランの姿勢がすばらしい。


第四話「エリック」・・・かつては女たらしだったエリックは、「今は世俗に興味がなくなった」とうそぶき、山に籠って隠遁生活を気取っていた。クリスチーヌは過去の自分がどうだったか色々と尋ね、下山しようというエリックを引き止め、山小屋で昔話をしながら一晩を明かし、朝日を拝もうと提案する。エリックは「山を下りて結婚しよう」とクリスチーヌを口説き始めるが、遭難者が出たことを知ると、引き止めるクリスチーヌを振り払って救助へ向かう。クリスチーヌはひとり山を去り、エリックはクリスチーヌが残した置手紙を破り捨てる。


第五話「フランソワ」・・・野心家で「国会議員になる。大統領になる。豪邸に住む」と豪語していたフランソワ。現在の彼はしがない市長であり、自分の家で働いている女中と結婚しようとしていた。フランソワは披露宴に出席したクリスチーヌに、自分が若かりし頃、クリスチーヌとの恋に敗れ投身自殺を図った話をして聞かせ、「若い頃は自殺の一回くらい・・・今はいい思い出だ」と語る。フランソワには前妻とのあいだで養子にとった息子がいるが、グレて泥棒稼業をしており、この日も結婚式だというのに金をせびりにやって来る。


第六話「ティエリー」・・・3つ年上のティエリーは片目を患い、すっかり落ちぶれてもぐりの堕胎専門の医者となり、クリスチーヌのことも忘れていた。クリスチーヌは力になると励ますが、妻も含めた三人で食事中、ティエリーは突如精神が乱れ、激しく取り乱す。彼は精神も病んでいたのだ。追い出されるようにクリスチーヌが去ったあと、ティエリーは引き出しから拳銃を取り出し、妻に銃口を向ける。


第七話「ファビアン」・・・クリスチーヌは故郷に行き、美容師となったファビアンの元を訪れる。彼は今も昔と同じトランプの手品を客に披露している。噂話のあと、昔と同じ場所で舞踏会が開かれると聞いたクリスチーヌはファビアンと共に出かけていくが、思い出の中の舞踏会と現実の舞踏会との落差にクリスチーヌは幻滅してしまう。しかもあの時「あなたを一生愛します」と囁いたのはジェラールではなくファビアンであった。16歳のときの甘い思い出は、記憶の中にしかないことに気がつく。


第八話「ジェラール」・・・思い出の中の16歳の舞踏会と、そこで出会った男たちの現実の姿に幻滅したクリスチーヌは自宅へ戻る。そこで最後の一人ジェラールの居所が分かったと知らされる。クリスチーヌは「一人くらいは思い出のまま残しておきたい」と答えるが、「過去とは完全に決別したほうがよい」と諭される。しかも15年も前からすぐ近所に住んでいたというのだ。結局会いにいくが、ジェラールは最近亡くなったばかりで、一人息子が残されていた。クリスチーヌはジェラールに生き写しの彼を引き取り、やがて初舞踏会へと送り出すのであった。

 

f:id:msan1971:20190512140914j:plain


・・・初見ではなんか微妙だと思った。全体的にしみったれてるというのか、なんか未練がましいというか、昔モテた女が、昔モテたことを確認して歩くみたいな感じがして、今ひとつ感情移入できなかった。なにがしたいのか分からなかった。

私もとても若い時、クリスチーヌには及びもつかない低レベルながら、どういうわけかこんな私を気に入って、誘ってくれたり口説いたりしてくれた男性と言うのが、人数だけはクリスチーヌと同じくらい、いることはいた(オドロキ)。ありがたいことです。若いってありがたい。そして、現在の私はクリスチーヌとは比べてどうかは分からないけど、十分幸せじゃないし、十分孤独だ。だけどなあ。そんな風に過去にこだわったりはしないけどなあ。そんなことするくらいだったら、今の自分を何とかして、未来につなげていく事を考えるけどなあ、と。

でも今回は心理的にも少し寄り添って見てみたよ。田舎の湖畔のお屋敷に、たった一人で取り残された不安や絶望と言うのは、そりゃあもう孤独だろうと思う。怖いレベル。しかもまだ36歳。これからの人生を、なんの目的も希望もなく生きるには先が長すぎる。結婚生活自体も幸せではなかった。で、過去を懐かしむ。あの時、私に愛を囁いてくれた男たち。栄光の日々、というところか。不幸だと、過去を反芻するんだね。昔たくさん獲得したトロフィーを自慢する、みたいな。

クリスチーヌはエリックに会った際、「自分は過去の男を訪ねているのではなく、過去の自分を訪ねているのだ」と語っている。「それは未来の自分を見つけることが目的」だとも言っている。これは分かる。私も自分を見失ったとき、「私って元々どうだったんだろう。みんなから見て、私ってどんな人間だったんだろう。自分では分からないから聞いてみたい」と思う時がある。特に10代の頃の自分がどうだったのか、20代の自分が周りにはどう映っていたのかを知りたいと思う。いま現在の自分のことは知りたくない(リアルだから)。大昔の自分は、もうほとんど自分じゃないから冷静に受け止められると思うし、自分を知るうえでの参考にもなると思う。

思うけど、クリスチーヌがこの映画でとった行動の動機と、私が過去の自分を知りたいと思う動機は、やっぱり違う気がする。・・・私が変わってるのか。男性から見て自分が価値のある女かということに、私は重きを置かないからなあ。違いはそこだけで、結局今後の自分の生きる道探しと言う点ではおんなじなのかな。なんかよく分からなくなってきた(ばか)。

 

f:id:msan1971:20190512141048j:plain


映画としての評価は、ひとつひとつのエピソードは、エッセンスがぎゅっと詰まってたいへんコンパクトにまとまっていて無駄がない。良作、という感じ。
2時間程度でこの時代としては長めの映画だと思うんだけど、全8話の連続ドラマみたい。

ジョルジュのかあちゃんが怖い、心理ホラー的な怖さを感じられる第一話。第二話ではフィルム・ノワール的な演出の犯罪映画、第四話では一転雪山ロケを敢行し、第五話はマイナーコードからメジャーコードに転調したみたいに急にコミカルな喜劇調になり、第六話では、傾いたカットやあおりのカットで不穏で緊迫した空気を醸し出すなど、趣向を凝らしていて飽きさせない。

ダレるあたりで持ってきた「フランソワ」のくだりがすごく面白い。嫁になるのが自分の女中なんだけど、この太った女中(嫁)と今日は結婚式だというのに大ゲンカ。でもその喧嘩も愛情に満ちていて見ていて楽しい。喧嘩しているのに微笑ましい。すごくお似合いの、仲の良い二人なのだ。また彼女が美人じゃないところがいい。さらに無能の神父をクビにして、自分の結婚式なのに自分で執り行っちゃったりとか、もうバタバタで大笑い。いいなあ、こういうカップル。息子がクズで、フランソワも決して幸せではないのだけれど、でもきっとこの二人なら仲良く支え合って乗り越えて行けそう。幸せになってね。


だけど、クリスチーヌの決断はこれでよいのかなあ。クリスチーヌが最も心を奪われていたと思われるジェラール(金髪の王子様系)。映画の最初の方で空想の中で現れ、最後に訪ねていく相手。そのジェラールに生き写しの息子を引き取って育てることにするという結末。
初恋の人の忘れ形見を育てるという・・・変態すれすれなんじゃなかろうか。ちょっと気持ち悪いと思う私ですが、なにこれ、ハッピーエンド的な感じなのかなあ。やっぱよく分からん。過去の全てを捨て去って、先に進んでほしい気もするのだがなあ。 

f:id:msan1971:20190512141134j:plain