○島尾敏夫『死の棘』読む
夕べ深夜に『黒革の手帖』を読み終わった。
上巻は主人公の元子が、女であるというだけで理不尽な扱いをしてくる男社会に復讐をする話と思って読んでいた。実際前半は ”痛快恐喝ストーリー” といった趣だった。
でも後半は ”痛快さ” はなくなっていき、結局は男たちの勝利に終わる。
読後の感想は、面白かった。でも心を奪われるとか、魂をつかまれるとか、そういう感情にはならなかった。主人公の元子に共感できなかった。復讐したくなる気持ちは分かるが、手段は全く理解できなかった。
とはいえ、相当マシになったと言っても今現在も男社会の理不尽さに不満を持っている女は、自分も含めて多いんじゃないかと思う。SNSなどで時々、食べ放題の金額だとか、マッチングアプリの会費とか、女性専用車両とか、男性陣の「女尊男卑だ!」という叫びを目にするが、女が被っている不利益、理不尽はそんなレベルじゃない。同じように仕事をしていても、給料が半分テードというのはかなり根深いものがあると思う。人生が大きく違ってくる。
松本清張の代表的な小説はまあまあ読んだので、ここらで打ち止めにする。清張は評判に違わず面白い、でも私にとって特別な作家ではないことが分かった。トリックにやや甘さアリ、偶然を多用するなどやや強引、推理小説としてというよりも社会派の雰囲気を味わうには最適、という結論。
『黒革の手帖』は主人公の元子が、金や権力を持つ男たちの弱みを握り、そのネタで強請って自分の野心を叶えようとする犯罪ものだけど、男女間の感情がもつれるドロドロした関係も特徴的だった。
それで男女間のドロドロつながりで、だいぶ質は違うけど島尾敏夫の『死の棘』を読み始めた。これは20代の頃に一回読んで、自分が若すぎてよく理解できなかった作品。50を過ぎた今の私なら、あの頃よりは理解できるだろうと期待してる。