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割と自己流で生きています

まだバートルビーのことを考えている

 

〇青山義孝『メルヴィル「代書人バートルビー」の読み方』読了

〇平野啓一郎『本の読み方 スロー・リーディング』読了

 

2025/1/6(月)曇りのち雨 

今年初出勤。するといきなりH先生が「お辞めになる」という話に。

なんと3月後半をまるっと有給申請してきて、それが退職を物語っていた。どうやら理事長に「話がある」と言ってきているらしいし、確定でしょう。

ここ数年来不満たらたらでしょっちゅう文句を言っていたし、すでにやる気を失っていて、学会出張などにかこつけてとにかく外来を休みたがる傾向にあった。金曜からの学会で名古屋なのに木曜を終日休診にしようとするとか。「夜の最終便で行け、せめて午前中だけはやっていけ」とよく怒られていた。

だから意外性は何もない。ただドクターが減ると外来が回らなくなるのが困る。

 

すっかりバートルビーに入れ込んで、別訳でも読んでみた。弱小出版社が出すデジタル本にありがちなことだけど、誤字脱字が多いのは難点。でも翻訳はこっちの方がずっといい。

変わった登場人物ばかりが出てくるこの小説で、実は語り部である ”私” も大分変っている。呑気というか、鷹揚というか、最も変人のバートルビーが本来の業務である「代書」すらしなくなり、日がな一日壁を向いて立ち続けていても「まあいいか」的に放置したり、あげくは自宅に引き取ろうとしたりするような男なのだが、その何があっても陽性な性格がよく伝わってくる翻訳になっていた。

 

それから本の後半半分は、バートルビーの考察になっているのだけれど、これが私の脳味噌が拒否るほど行間が狭くて、内容も「難しくしよう、難しく語ろう」と頑張ってるんじゃないかと疑いたくなるほど持って回った面倒な内容と文章。思いっきり飛ばしてやった。

ただ、その焦点であるバートルビーについての考察で、「バートルビーはずっと壁を向いて立っているが、彼は何を見ているのか。それは ”自分” である」という段は面白かった。

確かにバートルビーは仕事場で壁を向いて立っているのだけれど、正確に言えばビルがひしめき合うウォール街にある「職場の窓の外にある壁」を見ているのだった。

”私” が借りているオフィスは、窓の外にすぐレンガの壁がそそり立っていて、バートルビーはそれを見ている。しかも窓越しなので、窓にはガラスがはまっている。窓ガラスには自分が写るはずで、つまりバートルビーは窓ガラスに映っている自分を見ているのだ、という指摘。

こ、これは鋭い。さらに後にバートルビーは刑務所に入り、そこにある分厚い壁を向いてずっと立っているのだけれど、そこには窓ガラスはないので、この時はまさしく壁を見つめていることになる。そしてバートルビーは死ぬ。

この辺りは確かに何かを暗喩していそうだ。簡単にはわかんないけど。

この本はその辺を、おびただしい数の名作小説などを引き合いに説明しているようなのだが、教養も教育もない私にはさっぱり理解できないのだった。

 

バートルビーにはまった私は、また別の版でも一冊購入してしまった。間を置いて、次に読むときはこれを読む。

 

今日はもう一冊、昨年からぽつぽつと一章ずつ読んでいた『本の読み方 スロー・リーディング』も読み終わった。勉強になる。