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【映画まとめ】泳ぐ泳ぐ泳ぐ!! ”水着の女王” エスター・ウィリアムズ 


エスター・ウィリアムズの紹介


今回ご紹介するエスター・ウィリズムは、1940年代から1950年代にかけて活躍したハリウッド女優で、スターです。


彼女のスター性はなんと言っても「泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ!!」 これに尽きます。

スターが泳ぐといっても「可愛い女の子がぱちゃぱちゃやっている」とかいう代物ではありませんよ! エスターは元競泳選手で15歳の時には世界記録をマーク。1940年に開催予定であった東京オリンピックの候補だったのにそれを辞退。その後水泳ショーに出演していたらMGMにスカウトされて大スターの道を駆け上りました。

そして水泳選手としての実力をいかんなく発揮して、「水泳映画」という新手の、そしてフォロワーもいない独自のジャンルを編み出しました。


美人で水泳(水着)。オリンピックより水着ショー。最強です。

しかもエスターは全然馬鹿っぽくないのです。「運動選手で水着」とか言うと、うっかりすると頭空っぽと言われかねない時代にあって、エスターは空っぽっぽくないです。たぶん元々バレエの素養があって所作が大変美しいのがその理由だと私は思います。訓練された動きで、むしろ知的に見えます。


映画の内容は「明るくて、キラキラしてて、そして泳ぐ泳ぐw」ということで、無条件で楽しくなる作品が多いです。なんたって水の中でも笑顔ですから笑(すごいのよ)。見ているこちらも楽しくなります。

 
エスターはそんなにたくさんの映画には出ていないのですが、まわりは猫も杓子もミュージカルという時代。クラーク・ゲーブルだろうがジェームズ・スチュワートだろうが、とにかく誰でも歌って踊っていた時代に、彼女は踊らず「泳いでしまう」というのはやっぱり独特。

作品によってはもちろん、相手役も泳ぎます(泳がされますw)。 

そんな感じで稀有な存在なのもあって、映画史にも記憶にも残るスターになりました。

私、エスターが結構好きで、彼女の代表作は見られるものは見ているので、制作順ではなく、私のおすすめ順でご紹介したいと思います。


1位から行きます。
 



おすすめ 第1位「百萬弗の人魚 (1952)」

おすすめ度 ★★★★

原題は「Million Dollar Mermaid」。監督はマーヴィン・リロイ。共演はヴィクター・マチュア。

エスター映画としては珍しい「実話の映画化」で、1910年代に活躍した女優アネット・ケラーマンの伝記映画です。

映画のストーリーをおおざっぱに言うと、

「アネット・ケラーマン、19世紀のオーストラリアに生まれる → 小児まひで下肢装具(誤診かも)→ 水泳選手 → ロンドンのテムズ川で40kmの遠泳をして有名人に → NYに渡り水着の露出が問題視されて裁判に → 勝訴 → 水泳ショーで大スターに → 映画デビュー → パートナーの興行師サリバンと結婚」

という漫画みたいな人生です。


出てくる登場人物全員が善人で「アメリカ的良心見本市」といいたいくらい、主役から脇役までやたらといい人ばかりが出てきます。中でも、足に装具をつけた娘を見守るアネットの父親の愛情と、彼女を愛して支えるサリバン(演:ヴィクター・マチュア)がホントにいい人です。


この映画でエスターがどのくらい泳いでいるかというと、かなり泳いでいます。もうサーカス並みのアクロバティック・シンクロナイズド・スイミングとでも言いますか(私が命名しました)、滑り台を立ったまま滑ってくるわ、空中ブランコから飛び込むわ、吊り輪につかまって天井に吊り下げられて、そこからダイブしたりしています。すごいんですよ、ほんとに。

アートな演出も盛りだくさんで、水中バレエあり、「ヴィーナスの誕生」よろしく貝殻に収まって登場するわ、バースデーケーキに挿してあるみたいなバチバチの火花と一緒に水中に消えていくわで、見どころだらけ。本当にテンションあがります。

しかもエスターは「笑顔で水中から現れ、笑顔で水中へ消えていき、笑顔で水中を泳ぐ」という、ちびまるこちゃんだったら「あんた、たいしたもんだよ」って言いそうな、カメラ目線と笑顔のオンパレードです。楽しい!

ファンになること間違いなしです!

セットもすごくて、1905年から1939年までNYにあった「ヒポドローム・シアター」が圧巻。5300席もある巨大劇場で、この劇場にあった「巨大水槽」は、高さが4.3m、直径が18m、3万リットルが入る透明なガラス製の水槽があったというので驚きです。アネットはこんなところでショーをやっていたんですね。もう劇場がスペクタクル(最後は経営に失敗して潰れました)。戦前なのに信じられない豊かさです。

そして、時代ならではの水着のデザインや、その露出度にまつわる世間の反応、女性の権利向上への運動、といった時代背景も描いた映画となっています。

かなりおすすめの映画です。






ところでアネット・ケラーマンですが、彼女はちゃんと美人です。日本語版Wikipediaに載っている写真は一枚しかないしイマイチですが、英語版Wikiの方だとより詳細に、写真もたくさん載っています。私は下の方の写真が知的で好きです。彼女主演の映画は日本でも公開されたみたいだし、『神の娘(1916)』のWikipediaの記事を読むと、なんかすさまじいスペクタクルなんですよね・・・フィルムが残っていないのが本当に悔やまれます。


en.wikipedia.org


ja.wikipedia.org



☟アネット・ケラーマンの『神の娘』のスチール写真を再構成した映像。
すごくスペクタクルだったのが分かります

www.youtube.com



というわけでエスター・ウィリアムズの起用で美化されたわけじゃない!ってことも記しておいて、次は第2位です。




おすすめ 第2位「私を野球につれてって (1949)」

おすすめ度 ★★★★★

原題は「Take Me Out to the Ball Game」。監督はバスビー・バークレー。出演はジーン・ケリー、フランク・シナトラ、ジュールス・マンシン、ベティ・ギャレット。

ハリウッドのミュージカル黄金期の中でも誉れ高い傑作で、野球コメディです。

エスターの映画というよりは、スーパースターのジーン・ケリー&フランク・シナトラ主演の映画に、ぽっと出のスターであるエスターがヒロインで出ている、というのが正確。

そしてほとんど「泳ぎません」。ホテルのプールでちょっと泳ぐだけで、他の映画に見られるような豪華な水中ショーはみられません(野球映画なのです)。監督はバスビー・バークレーですが、彼の代名詞ともなっているバークレー・ショットも見られません。

そう書くと「無い無いづくしじゃないか」と思われるかもしれませんが、映画自体がとても面白い映画なんです。なのでエスター映画としては2位なんですけど、映画としては★5つけてます。


どんな映画かというと、ジーン・ケリーやフランク・シナトラが所属するプロ野球チーム「ウルブズ」に、エスターはチームの女オーナーとして登場。。「女のオーナーなんて」と思う(でも女の子大好き)ジーン・ケリーとは最初こそ反発しあっていますが、実際はお互い惹かれあってる。そこへエスターに一目惚れした生真面目なシナトラと、そんなシナトラに一目惚れしたベティ・ギャレットが絡み合って、四人の恋のさや当てが繰り広げられます。

エスターの役柄は、最初こそ「女の子ちゃん扱い」されて選手たちに馬鹿にされているけれど、実際は野球がめちゃくちゃ上手かったりして、「女だてらになかなかやるな」と株を上げまくります。ただのお飾りではない、ちゃんと野球の分かるオーナーとして認められていきます。

実際エスターのバッティング・フォームは様になっていたし、打球のさばき方も、たいしたゴロじゃなかったとはいえキャッチングからスローイングのフォームとか、プールサイドでシナトラと「きゃっきゃきゃっきゃ」と野球ごっこをしている様子からも、野球・・・やったことがあるのかも。少なくとも初めてボールを投げました、という感じではありません。


実はこの映画は元々、ジーン・ケリー、フランク・シナトラに加え、ヒロインには ”あの” ジュディ・ガーランドが予定されていましたが、ジュディは何かと問題児で、この時も薬物乱用かなにかが原因で起用できず、それでエスターにお鉢が回ってきたのです。

ぽっと出のエスターが、「主演・脚本・振り付けを担当し、おそらくは監督にも相当口を出しているであろうミュージカル映画の王様」ジーン・ケリーと、コンサートで女の子を気絶させる「超スーパー・スター」フランク・シナトラと共演するだけでもレベルが違うのに、「伝説のミュージカル・スター」ジュディ・ガーランドの「代役」ですよ。ハードルが高すぎますよ・・・

おまけにジュールス・マンシンとベティ・ギャレットという、叩き上げの職人みたいな芸人にも挟まれて・・・

さらに念入りなことに、「ジーン・ケリーはエスターを気に入らなかった(!)」という三重苦です。


私は「エスター、ちゃんとやれるかしら。ああ心配」って、オーディション合格後いきなりセンターになった新人アイドルを見守るドルヲタの心境で見てしまいました。

そういった事情をかんがみれば、エスターはよくやってましたよ。持ち味の水泳シーンがほとんどない中、ちゃんとキラキラとヒロインしてました。よくやったと思うよ! 最後の方の笑顔なんて「やけくそ」に見えたもん(きっと気のせいでしょう)。映画ラストのダンス・シーンなんて、エスターが出てきた途端ほとんど誰も踊ってないもの。歩いてるだけ。それを気がつかせないのはジーン・ケリーのおかげです(さすがです)。

ジーン・ケリーは相変わらず超楽天的で見ているだけで楽しくなるし、「可愛い男キャラ」がハマりすぎなフランク・シナトラもチャーミングだし、音楽もいい。

超おすすめです。



☟リンクはDVD。Amazon Prime Videoでは字幕版(Prime)、吹き替え版(有料)もそろってます。




おすすめ 第3位「世紀の女王 (1944)」

おすすめ度 ★★★

原題は「Bathing Beauty」。 監督はジョージ・シドニー。共演はレッド・スケルトン、ハリー・ジェイムズほか。 

最盛期のMGMスタジオが、歌って踊るミュージカルに飽き足らず「泳ぐシンクロナイズド・ミュージカル」を編み出してしまった、記念すべき第一作です。エスターのデビュー作ではないけれど(2作目)、「泳ぐ」という特技をいかんなく発揮したこの映画で彼女はスターになりました。


映画の内容は安心のラブ・コメディ。エスターの恋人スケルトンが、喧嘩したエスターと仲直りをするために彼女が働く「女子大」に、「初の男子生徒」として潜入してドタバタドタバタして、最後はハッピー・エンドになるという映画です。

スケルトンが女子大へ潜入!といってもお色気映画ではありませんよ。残念でしたね。


見どころはエスター・ウィリアムズ自身。笑顔全開&カメラ目線で泳ぎまくります。そしてエスター・ウィリアムズの水中レビューと、本物のハリー・ジェイムス楽団のジャズ演奏が堪能できます。
 
エスター・ウィリアムズのような存在に目を付けて、巨大プールを作って泳がせて、大スターにしてしまおうとする40~50年代のハリウッドの勢いみたいなものが感じられます。業界全体が調子に乗って、ノリに乗っている感じで元気が出ます。

エスター初登場シーンはもちろんプールで泳ぐシーンなのですが、すごく普通の小さなプールで、飛び込みとシンクロナイズド・スイミングを披露してくれます。新人だからなのでしょうか。登場はかなり地味です。でもラストはしっかり、巨大プールで壁の花女優をバックに、笑顔全開、カメラ目線バッチリで華やかに泳ぎまくります。

いよっ、エスター!と掛け声をかけてあげてください。

そして随所にしっかり流れるハリー・ジェイムス楽団のジャズ演奏も素晴らしく、しっかり一曲フルで演奏する豪華さ。慌てずゆったり時間を使うあたりがゴージャスな一品です。






おすすめ 第4位「水着の女王 (1949)」

おすすめ度 ★★

原題は「Neptune's Daughter」。監督はエドワード・バゼル。共演はレッド・スケルトン、リカルド・モンタルバン。

物語は、水泳選手から水着デザイナーへ華麗なる転身をとげたエスターと、ポロの南米選手で女たらしのリカルド・モンタルバン、男好きで積極的で危なっかしいエスターの妹、その妹に猛烈にプッシュされるしがないマッサージ師のレッド・スケルトンが、バタバタと恋の駆け引きを繰り広げるという、ドタバタ・コメディです。

エスターの相手役を務めたのはリカルド・モンタルバン。彼は長いまつ毛と垂れ目が特徴の、ラテン系で肉体派っていう感じです。私はこの長いまつ毛と垂れ目をどーっかで見たことがある! どこだっけな・・・「は! スタートレックのカーンだ!」という訳で、彼はスタートレック・ファンにはおなじみのカーンなのでした。彼はそれなりにスターだったようですが、時代を超えて語り継がれるほどのスターではないです。ないですが、このカーン役は伝説の役ですからね。カーン一発で映画史に名を残しました。


せっかくのエスターはあんまり泳がず、歌を歌っています。それにエスターは後半になると主役な感じがしてくるけれど、前半はあまり活躍の場が無くて、妹役の女優さんばかりがクローズアップされててちょっと割を食っている感じで、若干降格感を感じてしまいました。

でも、歌っていた曲は超有名な、「ベイビー、イッツ・コールド・アウトサイド(外は寒いよ)」なのでした。私は知らなかったのですが、この名曲はこの『水着の女王』で使用されてヒットしたらしいです。とても名曲で、大勢の名だたるスターが歌い継いでいます。私が知っているのはディーン・マーチンのヴァージョン。いい曲です。


www.youtube.com

☟映画のワンシーンはこちら。エスター&リカルド・バージョン。

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ただ、エスターの泳ぎが満喫できなくて、そういう意味では満足感の低い映画になってしまってます。コメディとしても強引にギャグを突っ込んでくる感じが痛々しくて★はふたつ。ドタバタギャグ・コメディが好きな方には合うかもしれません。

 


☟『水着の女王』はこちらのDVD-BOXに収録されています





おすすめ 第5位「闘牛の女王 (1949)」

おすすめ度 ★

原題は「Fiesta」。監督はリチャード・ソープ。共演は『水着の女王』と同じ、リカルド・モンタルバン。

こちらもエスター・ウィリアムズが全然泳がない系の映画です。ちょろっと、本当にちょろっと泳いでるくらいです。まあ彼女もちゃんとした女優にならなければいけませんからね。そう泳いでばかりもいられませんよ。


物語の舞台はメキシコ。闘牛士の家に双子の姉弟マリアとマリオが生まれます。父のアントニオはマリオを闘牛士の跡取りとして育てますが、マリオには音楽の才能があり、結局は音楽家の道を選びます。マリオは闘牛をボイコットして姿をくらましてしまい、世間からは臆病者とののしられてしまいます。そのマリオの汚名を晴らすのと、消えたマリオをおびき出す目的で、男装してマリオに成りすまして闘牛場に現れたマリアは、見事な牛さばきを見せて大成功を収めます。身に覚えのない試合に自分が立っていたことを知ったマリオは、それがマリアの仕業と気づいて闘牛場へ向かうのですが、闘牛場ではすでに試合が始まっていました。相変わらず華麗に牛をさばくマリアでしたが、最後は牛に襲われピンチを迎えてしまい、そのマリアをマリオが救います。父アントニオは、最後はマリオが音楽家の道に進むことを認め、マリアは婚約者と結婚して大団円です。


エスターがトップクレジットの映画ですが、これは明らかにリカルド・モンタルバンが主役の映画です。リカルドのハリウッド進出第一作目で、ピアノは弾くわ、ダンスも上手いわ、闘牛姿も凛々しいわで、リカルドの方は見どころがたくさん。

比べてエスターの方は、申し訳程度にちょびっとだけ水着になって泳いでいたくらいであまり見どころは無し。

強いて言えば、エスターの闘牛シーンのスタントが、女性闘牛士は探せなかったと見えてあからさまに男だった、というのが逆に見どころになってるくらいです。

ラストでエスターと婚約者がキスをして映画は終わるけど、本編での主役感が乏しかったために取ってつけたようなヒロイン風の終わり方で、ちょっと失笑。ま、いっか、という感じ。

エスターが泳ぐ!泳ぐ!!みたいな映画を期待するとすれば、肩透かしを食らうし、エスターはあんまり活躍しないので★はひとつ。リカルドが主役として見れば★ふたつ、という感じです。


☟『闘牛の女王』はこのDVD-BOXに収録されています。





補足:エスター時系列


以下はエスターが出演した映画の一覧です。時系列順になっていて、赤い部分が今回取り上げた映画です。

『ジーグフェルド・フォリーズ』と『ザッツ・エンタテイメントPART3』はDVDになっていますが、エスターの映画ではないので今回は取り上げませんでした。

他はたぶん日本ではDVD化されておらず探せなかったので、見ることが出来ていません。


アンディ・ハーディ(1942)
世紀の女王(1944)  ★★★
ジーグフェルド・フォリーズ (1946) 
闘牛の女王 (1947) ★
私を野球につれてって(1949) ★★★★★
水着の女王(1949) ★★
百萬弗の人魚(1952) ★★★★
濡れたらダメよ (1953)
狙われた女 (1956)
ビッグ・ショウ(1961)
ザッツ・エンタテイメントPART3 (1994)


こうしてみると、デビューで華々しく話題になってスターになって、トップ・クレジットで映画は作られますが、早くも『闘牛の女王』ではリカルド・モンタルバンに喰われ、『水着の女王』でも主役というほどの扱いでもないので、実質は「話題性先行型のスター」だったのかな、というのが見て取れます。

「泳ぐ」という個性が足かせにもなって女優としてはあんまり花咲かず、「デビューのインパクト」でつないだけど、ジリ貧になり、運よく『百万弗の人魚』という当たり役を引き当てますが、やはり続かず・・・という感じがします。

でもエスターは「記憶に残るスター」になりました。がんばったね。私は好きよ、エスター。


以上、エスター・ウィリアムズの映画まとめでした。