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【映画】『チャンプ(1931)』 ダメ父なんだけど、いい父親。そんな傑作。



おすすめ度 ★★★★★


題名 チャンプ(The Champ)
監督 キング・ヴィダー
制作 キング・ヴィダー
脚本 フランシス・マリオン(アカデミー原案賞)
出演 ウォーレス・ビアリー、ジャッキー・クーパー、アイリーン・リッチ、ヘイル・ハミルトン、ロスコー・エイツ
上映時間 87分
制作年 1931年
制作会社 MGM
制作国 アメリカ
ジャンル ドラマ、親子愛、ボクシング


 

解説

元世界チャンピオンの落ちぶれたボクサーと、彼を支える健気な息子の親子愛物語。息子のディンク役のジャッキー・クーパーが当たり役で、大人顔負けの演技が光る。
 
この映画はリメイクされていて、映画ファンにとっては「1979年に大ヒットした親子愛をテーマにした感動作『チャンプ(1979)』の元映画です」と言った方が早いかもしれない。チャンプ役にジョン・ヴォイト、その別れた妻役にフェイ・ダナウェイでリメイクされて、ゴールデングローブ賞やアカデミー作曲賞を受賞するなどして大ヒットした。私は子供だったので見ていないけど、80年代以降も何かと語られる作品だったから知識だけは知っていた。


でもそれだけでなく、1953年にもレッド・スケルトン主演で、ボクサーをピエロに置き換えたリメイク作品が制作されていたらしい。知らなかった。
 
残念ながらレッド・スケルトン版は日本ではDVDになっていないようで未見だけれど、あらすじから判断するとボクサーの設定がピエロになっている以外は基本的にオリジナル通りのストーリー展開のよう。1979年版も同様で、若干の設定をいじっている以外はオリジナルを踏襲している。ただし私はどちらも見ていない。

 


あらすじ(かなり詳しめ)

アンディは元ヘビー級世界チャンピオンのボクサー。でも今はすっかり落ちぶれて、酒とギャンブルで身を持ち崩す日々。せっかく試合の話が来たのに飲んで酔った姿で契約に現れたり、せっかく入った金もすべて賭け事ですってしまう。でも8歳の息子のディンクはそんなアンディを「チャンプ」と呼んで心から尊敬し、服を脱がせたり酒場に迎えに行ったり甲斐甲斐しく世話している。本当はアンディも酒とギャンブルをやめてディンクの期待に応えたい。二人の生活は一向に良くならないが、二人はなくてはならない対等なパートナーだ。

珍しく賭けで勝ったアンディが、ディンクがずっと欲しがっていた馬を手に入れる。ディンクは大喜びで「リトル・チャンプ」と名付けて競走馬としてレースに出すことにする。その初陣の日、「リトル・チャンプ」は落馬してレースには勝てなかったが、ディンクは競馬場でリンダという女性と出会う。二人は知らずにいたが、実はリンダはディンクの母親だった。

ディンクを産んでアンディと別れた後、裕福な男性トニーと結婚し娘ももうけたリンダだったが、ディンクの事を忘れたわけではなかった。ディンクが自分の息子と知ったリンダは、トニーに「ディンクを引き取って育てたい」と言い出す。リンダを愛するトニーはリンダの願いをかなえるべくアンディに接近し仲介しようとする。まずは改めて二人を引き合わせようと、トニーは「ディンクをリンダにあわせてくれるなら100ドル出す。ディンクをホテルまで連れて来たらさらに100ドル」と約束。金が必要なアンディはそれを承諾し、ディンクをリンダの元にやる。

ホテルでリンダと再会したディンクは、リンダが実の母親であることを知らされる。リンダはディンクを手元に置いて育てたいと言い出す。

その晩アンディは、ディンクをリンダに会わせることで手に入れた100ドルを賭けですってしまっただけでなく、借金のカタに「リトル・チャンプ」まで差し出してしまう。落胆するディンク。「必ず取り戻す」と約束するが、自力では取り戻せないアンディはリンダに金を無心する。金は手に入るが、リンダに「ディンクを引き取らせてほしい、学校にも通わせてあげられるわ」と説得され、アンディは「俺からディンクに話してみるよ」と約束してしまう。

リンダにもらった金で「リトル・チャンプ」を取り戻したアンディは、ディンクを連れて豪勢にレストランで食事する。そこで「学校に行くのなんか窮屈だから嫌だろ?」「やだよ」「毎日3回も風呂に入る嫌だよな」「ありえないよ!」といった具合にディンクの意志を確認し、嬉しくなるアンディ。そこへ「リトル・チャンプ」が戻ってきたことを知ったディンクが大喜びで会いに行った間に、借金を受け取りに来た友人と喧嘩になって捕まってしまう。その姿を見たディンクの悲しい顔。留置場に入れられたアンディは自分に嫌気がさし、差し入れに来たディンクにつらく当たってリンダの元へ行けと突き放す。

トニーやリンダと共にNYへ向かう列車に乗るディンクだったが、隙を見て列車から脱出しアンディの元に戻ってくる。大喜びのアンディ。さらにアンディの復帰戦も決まる。試合の相手は現世界チャンピオンだ。なんとしてでも勝って「リトル・チャンプ」を取り返し、ディンクを学校へ入れ、一緒に旅行するんだと張り切るアンディは、リングサイドで見守るディンクのために、自分がディンクにふさわしい父親であることを証明するために、勝ち目の薄い試合に臨む。

 

登場人物

アンディ・パーセル「チャンピオン」・・・ウォーレス・ビアリー
ディンク・パーセル・・・ジャッキー・クーパー
リンダ・・・アイリーン・リッチ
スポンジ(仲間)・・・ロスコー・エイツ
ティム(仲間)・・・エドワード・ブロフィ
トニー(リンダの旦那)・・・ヘイル・ハミルトン
ヨナ(黒人の少年)・・・ジェシー・スコット
メアリー・ルー(妹)・・・マルシア・メエ・ジョーンズ

 

”チャンプ” ことアンディと、それを演じたウォーレス・ビアリー

「ダメ父なんだけど、いい父親」という背反する個性を持っているのが「チャンプ」ことアンディ・パーセル。もう頭が薄くなり始めた中年の元世界チャンピオンで、アル中のギャンブル好きという典型的な「ダメ男」なんだけど、すばらしく愛嬌があって心が惹かれる人物像だった。

アンディという男は、どうやら世界チャンピオンになる頃にはもうすでにだらしがなかったことを伺わせるセリフがあったから、決して世界チャンピオンになってリンダを手に入れたけどフラれちゃって身を持ち崩した、、、つまりリンダに捨てられたせいでアル中になったというわけではなさそう。最初からだらしなくて、それでリンダに愛想を尽かされたという順番なんだろう。

けれども息子ディンクとの関係は本物。アンディはディンクを心から大切に思ってるし、生きがいでもある。ディンクを子ども扱いせず、信頼して尊敬していて、一人の人格として認めている様子が感じられる。もちろん「大人なのだからしっかりせい」という意見はあると思うけど、悪い印象はない。


だらしない父親だけど、映画のラストで現世界チャンピオンとの対戦中、3度のダウンを奪われ後がないアンディが、リングサイドのディンクに向かっていつもの願掛けをするよう頼む。

「ツキがまわるよう唾を吐け」 

負けそうなアンディが心配で、降参の合図のためのタオルを手にしているディンクが泣きながらグラブに唾をはいている時の、アンディの顔。真剣な、決死の表情。まるで命をかけているような、命がなくなっても構わないと思っているような、そんな顔。すばらしくいい顔だった。

そんなアンディを演じたウォーレス・ビアリーは、この役でアカデミー主演男優賞を受賞した。

 

👇 ウォーレス・ビアリー

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Wallace_Beery-publicity.JPG#/media/File:Wallace_Beery-publicity.JPG

 

ビアリーがジャッキー・クーパーとのコンビで出ているのは『チャンプ』と『宝島(1934)』と『バワリー(1933)』。『宝島』でビアリーはロング・ジョン・シルバーを演じている。

『バワリー(1933)』は未見。『チャンプ』や『宝島』ほどのコンビ作ではないかもしれないけれど、近々見てみるつもり。

 

リンダとトニーのこと

アンディを捨てたリンダが捕まえたトニーという男。これがまたなかなか人情味のある、いい感じの男なのだった。とてもリンダの事を愛しているようで、金持ちの余裕というやつなのかリンダの願いをかなえるためにいろいろと手を尽くしている。しかもひとつひとつの行動も表情も、控えめながら思いやり深い。かつての恋のライバルで、今は落ちぶれたアンディへのまなざしも、アンディと妻の息子であるディンクを見つめるまなざしも、差し伸べる手も、すべてが思いやり深い。いい男なのだ。本来ならアンディとも仲良く出来て、さらにディンクの継父としてもきっと仲良くやっていける男だと思う。

 

👇 トニー役のヘイル・ハミルトン(左)

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By Wisconsin Center for Film and Theater Research - http://www.wisconsinhistory.org/whi/fullRecord.asp?id=3823, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=30018929

 

でも私はリンダは好きじゃなかった。

女からすると、アンディがどんなに人間味に溢れていても、手に入ったお金が右から左に酒やギャンブルに消えていく男では人生を賭けられないのは分かる。だからリンダがアンディを捨てたのは仕方ない。一人息子を置いて出て行っちゃったのは非難されるところであろうけど、ディンクは幸せそうで楽しそうなので、ここはまあ結果オーライということで彼女を許そう。


でも2点、どうしても「なんか好きじゃないなあ」と思ったシーンがあった。理屈じゃなくて感覚的に「キライだなあ」と思っただけなので、説得力のある話ではないのだけれど、

まず1シーン目は、トニーがくれる100ドル目当てにディンクがリンダと会うシーン。この時のリンダは8歳の息子にすがりつき、メソメソ泣き、キスをせがんだりと実に女々しい。女だから女々しくてもいいのかもしれないけど、私は女だけどああいうウェットにメソメソジメジメした女は嫌いだね。生理的に嫌い。

そして2シーン目はラストもラスト、一番最後のシーン。アンディの試合が終わったあと、控室にやってきたリンダが悲しみに打ちひしがれて泣きじゃくっているディンクを抱き上げて去っていくシーン。

ディンクはあれ以上最悪な出来事はないだろうというほど最悪なことが起きて悲しみのどん底にいる。そこへ自分を取り戻したがっている実の母親が目の前に現れたら、そりゃあ駆け寄って抱き付くでしょう。それは良い。

でも、その時のリンダの態度がどーも気に入らない。リンダはディンクのことしか眼中になくて、アンディには一瞥もくれないのだ。あれはないよ。いくらなんでもそれはないな。そしてディンクを抱き上げて、アンディの元から連れ去るのだ。別にアンディに泣いて取りすがってほしいわけではない。それはそれで偽善に満ちた行動だと思って私はきっと非難するだろう。でもなあ、、、

感情でしか動かない女。理屈がない女。それがリンダという女なのだった。

ただ芝居が下手でクサいだけかもしれないけれど。

 

👇 リンダ役はアイリーン・リッチ

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By Russell Ball (1896-1942) - https://theredlist.com/wiki-2-16-601-412077-view-cinematic-2-profile-ball-elmer-russell.html#photo, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=65042528

 

ディンクと、それを演じたジャッキー・クーパーくん

ディンクは「息子が欲しいと思うなら、こういう息子がぜひ欲しい」と思えるような、理想的な男の子だった。

別に父親アンディの身の回りの世話から家事まで、妻役を徹底的にこなしているからじゃない。酔っぱらったアンディの服を脱がせ靴を脱がせ、ベッドに横にさせて布団をかけてあげ、自分の背丈よりもずっと長いホウキをつかって家の掃除までしているからじゃない。

アンディのトレーニングに付き合って一緒に何キロも走ったり、スパーリングを見守ったり、まるでトレーナーみたいだからでもないし、アンディが酒場に行かない様に見守ったり、それでも行っちゃうアンディを酒場まで迎えに行ったり、賭場までついていったり、マネージャーのように尽くしているからじゃない。

とにかくこのディンクの気の利きようといったらなくって、アンディが興行主と会う時も、酔ってるから何もないところに座ろうとするアンディのお尻に先回りして椅子を置くという神業。先の先を読み、アンディの行動をすべて把握する息子8歳。

でもそういう風に役に立つからこういう息子が欲しいのではないのです。アンディとディンクのお互いが持つ一体感、連帯感がうらやましい。

一緒に生きているんだ、お互いなくてはならない存在なんだ、二人でひとり、どっちかが欠けたら生きる甲斐がないんだ、そんな関係。どんなに貧しくてもふたり一緒なら日々が豊かになる、そんな感じ。

 

👇 ジャッキー・クーパーくん(写真は『Broadway to Hollywood(1933)』より)

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By Trailer screenshot - Broadway to Hollywood trailer, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3489243

 

このディンク役はジャッキー・クーパーくんにとっては最大の当たり役なのではないかしら。私はまだこの『チャンプ』と『宝島』、それから遥かに大人になってからの『SF火星の謎(1971)』と『スーパーマン・シリーズ』しか見ていないけれどそう思う。

だってジャッキーくんたら、わずか3年後の『宝島』の時はなんだか太っちゃったのか、やたらとお尻の大きなおばちゃん体系が一番印象に残ってるんだもん。

でも今回のクーパーくんは違います。

痩せている! 可愛い!! そして演技が上手い!!

女の子にはない男の子の魅力がぎゅっと詰まった素晴らしい役柄と演技だった。8歳の設定のようだけれど、その年頃の男の子特有のわんぱくさがあふれている。男の子って、可愛い。


そして演技が素晴らしく良かった。不自然なところ、わざとらしさ、あざとさ、ぜんぜんない。自然。口元をきゅっと結ぶのがくせみたいで、それが『宝島』の時はちょっと ”不満たれ” みたいに見えたけど、今回はなんの不満もなし。この役はクーパーくんしかいない!と思えるほど魅力的な演技を見せてくれて大満足。表情がよく動いて表現力豊かだし、セリフもばっちり、演技うまい。

名子役だったんだろうけど、実際に名子役だと思う。


近々二人が共演している『バワリー(1933)』も見る予定。この『チャンプ(1931)』と『宝島(1934)』の間に作られた作品だけど、やや『宝島』に時期が近いので、おでぶちゃんになっていないかちょっと心配。でも二人の共演は楽しみ。
 

映画全体の印象

映画は1度目よりも2度目、2度目よりも3度目の方がじわじわと良さが体に沁みてくるような、そんな映画。見れば見るほど味わいがでてくる。間を置いてまた見ると思う。

とにかく登場人物たちと、それを演ずる俳優陣にとても魅力がある(妻リンダ以外は)。どのキャラクターをとってもみなチャーミングですばらしかった(リンダ以外は)。

「親と子の絆を描いた〜」的な紹介文や、そのテーマやあらすじなどから判断すると、結構重たい作品をイメージする方も多いかもしれないが、本作はぜんぜんそういう風にはなっていない。登場人物たちも良い意味で軽くて(リンダ以外)、重くなりそうなところも重くならないように作られている。

と言うと「現実から逃げている」ように思われてしまうかもしれないが、決してそういう後ろ向きな印象ではなくて、前へ前へ進んでいくためにあえて描かない、という印象を持った。

例えばあらすじにも書いたけど、アンディがディンクの馬を取り戻したいけど資金がなくて、別れたリンダにお金を借りに(貰いに?)行くシーン。

ここなんて普通に考えたら、男がですよ、たとえ100%自分に非があってもですよ、息子を置いて他の男の元へ走った別れた女のところへ行って頭を下げて金を借りるだなんて、普通に考えたらキツいシーンですよ。男だったらこんなシチュエーションは願い下げ、こういうシチュエーションにだけはなりたくないってなもんでしょう。でもアンディは行く。で、映画はそこを深く掘り下げたりはしない。

アンディがリンダに「金貸してくれよお」みたいにお金を無心するシーンはぜんぜん描かれないから、画面上はリンダはもうお金を渡してるし、アンディはもうお金を手にしてる。それで「ディンクを引き取りたいわ。ディンクに聞いてみて」となって、金の話はぜんぜんでない。だから私にはアンディは借りたのか貰ったのかも分からない、というわけ。

実にさらっとしてる。

子供を置いて行ったとか、他の金持ち男に乗り換えたとか、あなたが飲んだくれてるから悪いんじゃないの、チャンピオンだから格好よく見えたのよ若かったわ、とか、そういういかにもドロドロしそうな話の展開にはぜんぜんならない。なりそうでならない、なるかなと思いきやならない。ならずにもう次のシーンに行ってしまう。

アンディだけでなく、今の旦那のトニーもさらっとしてる。

そんな恨みつらみの経緯とか、男女の泥沼を描く映画じゃないんだ、これは父親と息子の男の友情物語なのさ、と言わんばかり。

それ、良かったです。
 

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By trailer screenshot (MGM) - The Champ trailer, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=22819874
 
ところでアンディが留置所につかまってディンクが差し入れに行くシーンで、アンディは「俺にはディンクを幸せには出来ないんだ、リンダのところに行った方がディンクは幸せになるだろう(俺は幸せじゃなくなるけど、、、)」と思って、差し入れに来たディンクに辛く当たるのだけど、「いやだよ!チャンプと一緒にいたい!! もう付きまとったりしないからいいでしょう?」とか言ってききわけのないディンクをアンディは殴る、その殴り方が秀逸だった。

ぶっちゃけわろた。あんな殴り方あるんだ。あれは斜め上をいっていた。あまりにも意表をついたのでシリアスなシーンなのに思わず吹き出してしまったよ。

テーマの割には軽くて、温かい。そんな映画だった。


少し間をおいて、1979年の方の『チャンプ』も見てみるつもり。気が向いたら比較記事をあげようと思います。

じゃ。



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