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【本】「一九八四年」ジョージ・オーウェル/著 圧倒的世界観。 いよいよこの世界が実現する。



おすすめ度 ★★★★★


題名 一九八四年(Nineteen Eighty-Four
作者 ジョージ・オーウェル
出版社 ハヤカワepi文庫
訳者 高橋和久 
出版年 1949年
出版国 アメリカ 
ジャンル SF、近未来、ディストピア、全体主義

 

 

小説『一九ハ四年』について

ジョージ・オーウェルの近未来小説『一九八四年』は、「ディストピアといえばこれ」「全体主義といえばこれのこと」と言っても過言ではない。


内臓をえぐられるような、救いのない絶望に満ちたこの小説は、1949年にイギリスで出版されて大反響を呼び、あらゆるジャンルに多大な影響を与えた大傑作。

よく「聖書が分からないと欧米文学や欧米芸術は分からない」と言われるが、それは欧米文化のあらゆる面にキリスト教(およびユダヤ教)が影響しているからのことだけれど、このジョージ・オーウェルの『1984』も規模は当然聖書に及ばないものの、あらゆるサブカルチャーに影響を与えている。

小説の設定は1984年なので私たちにとってはすでに過去だけど、小説が書かれたのが1949年なのでこれは未来の出来事。だからこの小説は永遠の ”近未来小説” なのです。

作家名や作品名は知らなくても、「ビッグ・ブラザー」という言葉とその意味するところを知っておいても損はない。「おや」と一目置かれること請け合い(相手が知っていれば)。



ちなみに色々な出版社で翻訳出版されていて、題名も『1984』とか『1984年』とか色々あるけど、同じです。村上春樹の『1Q84』はこの『1984』が元ネタ。

以降、変換しづらいので『1984』で表記を統一しています。
 
 

小説『一九ハ四年』の世界観

近未来の1984年は第三次世界大戦後の世界で、世界は大きく3つの超大国に分かれている。

アメリカ合衆国、カナダ、南アメリカ、英国、アフリカ南部、オーストラリアなど英語圏中心のオセアニア

旧ソ連(東欧含む)が中心のユーラシア

中国や日本などのイースタシア

細かい思想の違いはあるけれど、結局はどこも一党独裁のファシズム体制で、個人の自由は全くない。

上記3か国に含まれない地域もある。そういった地域は3か国が覇権を争い征服合戦を繰り広げている。その主な理由は「労働力確保」である。

 
主人公が住むオセアニアは「ビッグ・ブラザー」と呼ばれる独裁者が支配する地域で、ビッグ・ブラザーの巨大なポスターが街中に貼られている。ただしビッグ・ブラザー自身が登場するシーンはないし、作中の登場人物たちの会話からも、観念的な存在で実在はしないと思われる。

 
国を治める機関は4つ。名称とは全く逆の施策を行っているのが特徴。
平和省(The Ministry of Peace) 平和を維持するために戦争を遂行している。
潤沢省(The Ministry of Plenty) 物資の調達と供給担当だが、つねに物資を欠乏させている。
真理省(The Ministry of Truth) 主人公が勤める省庁。プロパガンダに携わっていて、ビッグ・ブラザーの望む世界を作り上げるため、都合の悪い過去の出来事を改ざんしたり、消し去ったりしている。
愛情省(The Ministry of Love) 反乱分子の逮捕や処罰、拷問、洗脳を担当している。


一党独裁の超管理社会で至る所に監視カメラがあり、プライバシーはどこにもない。監視カメラは個人の自宅内にもあるほど徹底していて、主人公はその監視カメラから逃れるように、できるだけ死角になる位置に机を置いている。ただしここまでの監視は党員(上記四省で働いている)だけで、市民(プロークと呼ばれている)の住む地域はそこまで徹底されてはいない。


プライバシーや行動の自由がないのはもちろんだが、思考も自由ではなく、党の方針と違うことを ”考えるだけ” で罪になる。これは「思考犯罪」と呼ばれている。


国は貧しく、砂糖や酒などは手に入らず、代替品で我慢を強いられている。


プロークは党員から、ほとんど知性を持たない愚かな存在として考えられている。ぶっちゃけ全く相手にされておらず、プロークが反旗を翻すことなど全く想定されていない。そして実際反旗を翻すこともない。


人々は徹底的にお互いを監視し合っている。子供たちは監視と密告が美徳と教え込まれ、親の挙動を逐一見張り、反逆的行為が少しでもあれば党に密告している。これは親からしても誇らしい行為である。国民がある日を境に忽然といなくなることも茶飯事で、おそらくもう戻っては来ない。


オセアニアのスローガンは、
『戦争は平和である (WAR IS PEACE)』
『自由は屈従である (FREEDOM IS SLAVERY)』
『無知は力である (IGNORANCE IS STRENGTH)』
の3つ。どれも相反した言葉なのに同じ意味を持つと洗脳されている。そのため平和を維持するために永遠に戦争を続けている。これをダブルシンク(二重思考)と呼び、矛盾した思考を受け入れられるよう徹底的に洗脳されている。


ニュースピーク (Newspeak、新語法)は、言葉の数を少なくし、本来の意味が分からなくなるよう言葉の言い換えを行う法律。人々が言葉を失うことで複雑な思考ができなくなるようにし、反社会的な発想すら持てなくするのが目的。

例えば「良い(good)」と「悪い(bad)」であれば、「良い」だけにして「悪い」は無くす。「悪い」を表す際には「良くない(ungood)」を使う。「素晴らしい、最上の、最高の」といった言葉は「より良い(plusgood)」を経て「超良い(double plusgood)」になり、「悪い」は「より良くない(plus ungood)」「超良くない(doubleplus ungood)」になるという具合。あらゆる言葉でこういった操作をし、2050年を目指して、人々から複雑な思考を奪っていく予定である。


「憎悪週間」と呼ばれる祭のような催しが定期的に行われ、この時は反逆者ゴールドスタインとその一味を徹底的に罵ることになっている。国民にとっての一種の気晴らし、ストレス解消、娯楽と化している。

党は徹底的に過去の改ざんを行っている。例えば元々ユーラシアと戦争をしていたが、ある日を境にイースタシアと戦争状態に入った場合、ユーラシアと戦争していたことが書かれるあらゆる情報が消され、イースタシアとずっと戦争状態だったと書き換えられる。それは徹底したもので漏れは許されない。そして人々はユーラシアと戦争していたことなど一瞬で忘れてしまい、何年も前からイースタシアと闘っていたと信じ込む。
 
 

小説『一九ハ四年』の登場人物

ウィンストン・スミス・・・主人公で39歳の男性。党員で、真理省記録局に勤務。ネズミが苦手だが理由は不明。妻とは別居中。自宅にあるテレスクリーンから死角になった机で日記を付けはじめ、思考犯罪を犯し始める。プロークたちのコミュニティに足を踏み入れることが多くなり、彼らを見るにつけ党を倒し革命を起こせるのは彼らなのではないかと思い始める。
 
ジュリア・・・26歳の女性。ウィンストンと同じ真理省で働くが別部署。党に忠誠を誓っているふりをしているが、実は相当反逆的。しかしウィンストンと比べるとかなり形而下的思考の持ち主で、自分の幸せや欲望に忠実に生きている。二人の関係は彼女主導で始まる。

オブライエン・・・真理省の高級官僚。ウィンストンから見て、彼は他の幹部と違う雰囲気を感じさせる人物。反逆者ゴールドスタインと通じているらしく、彼が記したと言われる稀少な書物をウィンストンに貸し出す。

トム・パーソンズ・・・ウィンストンの隣人。熱心かつ従順な党員で、子供たちを党に忠誠を誓うよう育てている。妻の方はいつ自分が子供たちに密告されるか分からず怯えている。

チャリントン・・・63歳の男性。プロークの下町で骨董屋を営み、ウィンストンに日記帳や琥珀の置物を売ったり、2階をジュリアとの逢引き用に貸したりしてくれる。

ビッグ・ブラザー・・・オセアニアの指導者。ポスターでしか見たことがない。原作では黒ひげをたくわえた風貌。

ゴールドスタイン・・・ビッグ・ビラザー同様ほとんど伝説的人物で、「ブラザー同盟」と呼ばれる反政府地下組織を指揮していると言われているが、実在するかは不明。
 
 

小説『一九ハ四年』のあらすじ

党員のウィンストンは、4つある省のひとつである真理省で下級役人として働いていて、主に過去の改ざんを行っている。自由にものを考えたり、ましてや口にする自由などないためウィンストンは誰にも言えないが、党に疑いを持っており、頭に浮かんだ様々な疑問をプロークの住む地域で密かに手に入れた ”日記帳” に書きつけている。例えば党では「2+2=5」だと教えているが、自分は4だと思う、といった具合。これは「思考犯罪」にあたり、見つかったらで反逆とみなされ、全てを失う。

ある日の仕事中、党に抹殺された3人の人物が載る新聞記事を手に入れ、ウィンストンの党への疑いが決定的になる。そしていつか噂で耳にするゴールドスタイン率いる反政府地下組織に合流し、世界を正したいと思いはじめる。ウィンストンには自分と同じような考えを持つ者を探すすべがないが、内心では党幹部の一人オブライエンは自分と同じ人種だとあたりをつけている。

ある日、職場の食堂でウィンストンと同じ真理省で働く女性、ジュリアから「愛してるわ」と書かれたメモ書きを貰う。そのことでウィンストンの人生が一変する。密会を重ねて二人は愛し合うようになり、日記帳を買った古物商の店の二階を借りて、さらに密会を重ねる。ここには監視カメラがないのだ。

ある時ウィンストンはとうとうオブライエンと接触することができ、党への疑いがある事を告白する。オブライエンはやはり反政府地下組織の一員だった。いよいよゴールドスタインと接触し、革命を起こす手伝いができる。そうウィンストンは思ったのだが、簡単に事は進まない。
 
 

感想という名の警戒心

圧倒的世界観。言語を絶する作品で、読むと絶望すること請け合い。なんの希望もない。

徹底した管理&監視社会で、自由な行動など許されない。それどころか「考えていいことといけないこと」が厳格に決まっていて、わずかでも外れたことを考えるともう罪に問われて当局に逮捕されてしまう。そして殺されるか、拷問に次ぐ拷問で再洗脳されるか。

いや、言葉を尽くせばわかってくれるはず。だって同じ人間だもん。理路整然と論理的に誤りを指摘すれば、必ず議論に勝てる。だって正義はこっちにあるんだし、あいつらどう考えてもおかしいし。

そんなことを思っても、彼らは独特に無理やり通した筋を振りかざしてくる。そして彼らは社会の隅々まで手を伸ばして、その無茶な論理を徹底的に植えつけている。変なことは沢山あるけど、誰もそれを変だと思わない社会が出来上がっている。それを個人の力でひとつひとつ、一人一人論破していくなんて、そんなの無理無理。

洗脳やマインド・コントロールという言葉が優しく聞こえる。ここはそんな甘っちょろい世界ではないのだった。



今年はつくづく「オーウェルの世界みたいになってきた。嫌だなあ」「いよいよ実現してきた。嫌だなあ」って思ったのでまた読み直してみたんだけど、かつては傑作SFとして教養のために読もうみたいな他人事、絵空事っぽい感じで読んだけど、今回はもっと身に迫って読めた。

いやいや、あのさあ、「この世界が実現する」かのように書いてるけど、実現なんてしないよって?

してるよ。

オーストラリアとかニュージーランドとか、カナダとか、ドイツとかオーストリアとかベルギーとか、着々と進んでるよ。

オセアニアを100だとすれば、10か20くらい進んでるよ。

① ”マ”で顔を隠し、2m離れようとかアクリル板立てるとかしてみんなでお互い距離を置き、疑わしきは隔離して仲良く出来ない仕組みを作ってるし、

② 国単位をはるかに超えた世界規模で「接種者と未接種者」で分けて分断を起こして、未接種者を弾圧して排除しようとしてるし、

③ つい2年前まで人類が、星の数ほどのウイルスや細菌と共存してきたことなんてケロッと忘れているように見えるし、

④ 強迫神経症のように手指を何度も消毒して、あっちもこっちもアルコールで拭いて歩き、富岳のシミュレーションを見て「みんなが汚いから”マ”なしの会話とか食事なんてしたくない、汚い怖い、怖い汚い」って、人間が動物であることを否定しようとしているように見えるし、

⑤ ゴム手袋をしてレジを打つ人を見ても「つけっぱなしということは、つけていないのと同じなのでは」なんて疑問にすら思わないみたいだし、「夜寝る時以外は”マ”しましょう」ってコロナも夜寝てるの?ずいぶん優しいじゃん、とか思わないらしいし、

⑥ たとえ疑問を持ったとしても決して口にはせず、「いや、ルールが変わったのだから」とそれを当たり前として自分の中で消化したり、今までの常識を上書きして信じ込むことができる能力があるらしいし、

⑦ それどころか「当然だもっとやれ、ロックダウンしろ、自粛しろ、延長しろ、”マ”外すな、商品触るな、近づくな、飲みに行くな、集まるな」って、
 
もういい感じに実現してるじゃん。

 
でも小説のウィンストンの方には絶望の中にひとつだけ救いがあった。いや、ほんの一筋の光が見えるか見えないか、一瞬見えたように思っても消えてしまうかもしれないけど、ウィンストンは遠くにうっすらと見えそうな光を感じていた。

それは作中で「無能」扱いされている、プロークの存在。ウィンストン含む党の人間はそのプロークたちのことを全く顧みることがないので、物語を読んでいてもいくらも出てこないし大して描写されない。まるで相手にされていない。

でもウィンストンは彼らの姿を見ていくうちに徐々に変化していく。ジュリアと骨董屋の二階で逢引を重ねるうちに、窓の外でいつもいつも流行歌を歌いながら膨大な量の洗濯をしている女を「美しい」と思うようになる。

太った、中年の、何人も子供を産んでいそうな逞しい女。いつまでもいつまでも洗濯をしつづけている尻の大きな女に、ウィンストンは人類の未来の明るい希望を見る。自分ではなく、いつか彼らのようなプロークたちこそがこの世界をぶっつぶし、人類に自由をもたらしてくれるのではないか、と。


私はウィンストン側でこの作品を読むので、読んでいる間私はプロークじゃなかった。

私たちの世界のプロークたち、この世界をぶっつぶして、光をもたらしてくれるかなあ。

今のところ私にはあんまりそういう気がしない。オーウェルの方が大衆を信じてるんかなあ。


 

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