おすすめ度 ★★★★
題名 フォーリング・ダウン(Falling Down)
監督 ジョエル・シューマッカー
脚本 エブ・ロー・スミス
出演 マイケル・ダグラス、ロバート・デュヴァル、バーバラ・ハーシー、レイチェル・ティコティン、チューズデイ・ウェルド
上映時間 118分
制作年 1993年
制作国 アメリカ
ジャンル サイコ、バイオレンス
うだるような暑い夏の日。主人公が乗る車はエアコンが壊れていて、道は渋滞している。周りでは子供たちが騒ぎ、男たちは車載電話で怒りをぶちまけている。主人公の乗る車には蠅がいる。目の前の車の子供はじっと主人公を見つめている。子供、子供、子供のぬいぐるみ、子供。年増の女は唇に真っ赤な口紅を塗りたくっている。クラクション、怒声、暑いのにエアコンは壊れている。耐えきれなくなった男はスーツケース片手に妻子が待つ自宅へ帰ろうとする。
バットがバタフライナイフになり、マシンガンになり、バズーカになり、、、、
これはサイコ野郎のわらしべ長者。マイケル・ダグラス演ずる主人公の、すごくまともなところとキレ飛んだサイコぶりの振り幅が怖い。
そしてアメリカ社会が病みまくっている。やべーのは主人公だけではないのだった。
あらすじ(詳しめ)
ある灼熱の夏の一日。車に乗った主人公は渋滞に巻き込まれてしまい、いつまで経っても動きそうにない。エアコンは壊れているし、周りは騒々しい。主人公は家に帰る途中であり、苛立って車を捨て家へ向かって歩きはじめる。
自宅に電話をしようとするが小銭がない。雑貨店に入った主人公は両替を頼むが店の主人に断られ、仕方なくコーラを買おうとするがおつりが中途半端でこれでは電話がかけられない。不親切な店主に腹を立てた主人公は店をめちゃくちゃにし、店主が護身用に持っていたバットを握りしめ店を後にする。雑貨店の主人が警察に強盗が入ったと通報したため、定年間際の刑事が主人公を追いはじめる。
スラムの住宅街に差し掛かり、買ったコーラを飲みつつ休憩していると、スラムのギャングに絡まれ持っていたスーツケースを奪われそうになる。撃退した主人公はバットを投げ捨て、ギャングが持っていたバタフライ・ナイフを手に入れる。
公衆電話を見つけて自宅に電話をしていると、先ほどのギャングたちが仕返しにやってきて主人公に向けてマシンガンをぶっぱなす。弾は主人公をかすめる事もなく彼らを撃退し、彼らが持っていたカバン一杯の銃火器を手に入れる。
靴底に穴が開いていた主人公は丈夫な靴を購入しようとミリタリー・ショップに立ち寄る。すると警察無線を盗聴していた店の主人が、主人公が手配者ではないかとあたりをつけ、刑事から主人公を匿う。しかし店の主人は差別主義者のイカレ野郎で、身の危険を感じた主人公は店主をぶちのめす。そして店主が差し出したバズーカ砲を手に入れる。
主人公が向かう自宅では、別れた妻が怯えて警察に相談するが、あまり真剣には対応してもらえない。一方、じわじわと自宅に近づいていく主人公を初老の刑事が追っていく。
Wikipediaの内容に物申したい
Wikipediaに文句を言っても仕方がないが、ちょっとあまりにも・・・と思ったので、今回はこれをきっかけに展開したい。でも「お前編集しろ」とかは言わないでほしい。
Wikipediaの『フォーリング・ダウン』のページを見ると、概要として実に簡潔な一文でこのように書いてある。
引用:「平凡な中年男性が、些細なきっかけと偶然の積み重ねの不幸からストレスを爆発させ暴走する様を描く。」
と。👇 こちら
いやー、これはそんな映画ではないよー。見たら絶対にそういう映画だとは思わないと思う。
まず文章の冒頭からで恐縮だけど、まずもって決して「平凡」ではない。
主人公の名前はフォスター。妻と娘がいたけれど離婚して、妻子とは接触禁止令が出ている。
フォスターは自宅へ向かう途中で妻に何度も何度も電話をかけ、そのたびに「来ないで」「禁止されているのよ」「警察を呼ぶわよ」と拒否されながらも、「娘に会いたいだけなんだ。誕生日のプレゼントを渡したいだけだ」とその一点にこだわり、確実に自宅に迫ってくる。
なぜ彼は妻と離婚し愛する娘と離ればならなくてはいけなかったのか。
それはフォスターに怯える妻の様子、刑事が訪ねるフォスターの実家での母親とのやり取り、そして最後に流れる家族ビデオを見ればわかる。
フォスターはそういう男だから、「平凡」に続く「些細なきっかけと偶然の積み重ねの不幸からストレスを爆発させ暴走する」の方は、まあ合っているのだけれど文章から受ける印象が全く違う。
「些細なきっかけと偶然の積み重ね」は確かにそうなんだけど、お前だからこんな目に合うんであって、本当に平凡な男だったら最初の雑貨店で違うの買うもん。スラムのギャングたちに絡まれたらスーツケースを差し出すもん。
「些細と偶然の積み重ねによるストレス」というよりも、そもそもフォスター自身に大きな問題があって、子供の頃から超扱いにくいヤツだったんじゃないかという気がして仕方がない。
私なりの解説
この映画の見どころは、うっかりするとフォスターのサイコぶりに目を奪われてしまい、ついフォスターばっかり見てしまうかもしれないけれど、フォスターだけがイカレてるわけじゃない。
実はフォスター以外の人達も相当ヤバくて、ヤバいのはアメリカ社会そのものなのだ、という作品になっている。
最初に出てくる雑貨屋のおやじからしてもうヤバい。差別的だし、侮蔑的だし、フォスターの方がよほど紳士的だ。
スラムのギャングたちも当然イカレてて、ただ休憩しているだけのフォスターに絡んで金目のものを奪おうとするけど、その態度が「腐りきっています」って感じだし、あげくは車の中からマシンガンを街中ぶっ放すし、ここはファベーラですかと問いたい。
ミリタリー・ショップの店主が一番最悪で、差別主義で暴力主義、女性差別も甚だしく、マチズモ主義でヒトラー賛美のサド野郎という最悪のマッチョ右翼。
それだけではない。ほんの通りすがりの登場人物までもがフォスターに金をせびり、渡さないフォスターを口汚く罵る、どこまでも乞食根性が沁みついた男だった。物語には大して意味をなさないこいつが一番、腐敗臭がしたほど。
「アメリカって一体、どういうところなの? これで文明国と言えるの?絶対住みたくない」と思った。
この映画の主題はフォスターのサイコっぷりではなく、アメリカ社会の病みっぷりの方なのではないかと思う(娯楽映画だからデフォルメされてるだろうけど)。
フォスターを演じたマイケル・ダグラスについて
元々やばいサイコ野郎なりに頑張って抑えて抑えて紳士的に振舞おうとしたのに、周りがあまりにも理不尽な奴らばかりなために耐え切れず、元々あったサイコっぷりがフル発動してしまうフォスター。
我慢に我慢を重たあげく「堪忍袋の緒が切れました」ばりにキレたおすフォスターを演じたのが、強欲そうにアゴが割れたマイケル・ダグラス。
👇 マイケル・ダグラス
By Georges Biard, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=9071744
大ヒット作をたくさん抱え、しかもハズレなしといったお方で、好き嫌いはともかく大した大スターなのだった。
実際大したもんなので、もう好きとか嫌いとかを軽く超越した存在だと思う。
個人的には好きなタイプではないけれど、俳優としては「強欲そうで、ギラギラしてて野心的な役がぴったりで、好き・・・かもしんない(俳優としては)」と思っている。俳優をやっていなくても絶対に出世する人だと思う。
そんなことはどうでもいいが今回のフォスター役もはまり役で、本当はもう相当怒っているのにそれを自分の体力を総動員して押さえつけ、サイコな本性が出ないように、キレないようにキレないように抑えているという、ジリジリした感じがすごく伝わってくる。
あえて少しゆっくりめの演技をしていることで「我慢しています」という雰囲気を与えつつ、キレる時はいきなりキレる。だからそのゆっくりさが怖い。
今回もぴったりの配役で、安定のマイケル・ダグラスだった。
ロバート・デュバルが演じた、フォスターを追うプレンダガスト刑事
一方、そんなキレたサイコ野郎フォスターを追うプレンダガスト刑事はフォスターとは真逆の性格。
フォスターが怒りを爆発させて生きてきたのに対し、プレンダガストはひたすら感情を抑えて生きてきた男らしい。
有能な刑事だったようだけど、妻のヒステリーに悩まされ、ちょっとでも危ない仕事だとすぐに癇癪を起す妻をなだめる為に現場から遠のき、事務屋として机に張り付いている。
彼はどうやら ”今日で退職” なのだけど、そのプレンダガストを送り出そうとする刑事仲間というか部下というか、職場の若き同僚たちの態度を見ていると、プレンダガストがすっかり甘く見られて馬鹿にもされていて、それなのにヘラヘラしていて、、、デスクにしがみついている刑事というのはもう刑事ではないのだなと思わせる。
ほんと憎たらしいのだ。
でも、その ”今日で退職” する理由というのが、
「自分は本当はまだ刑事を続けたいし、本当だったら事務屋ではなく現場の刑事として活躍したいんだけど、妻がヒステリーを起こすし、田舎暮らしを希望しているから、その妻の希望をかなえてやるために仕方なく今日で辞める」
といったもので、その憎たらしい若き同僚氏に言わせれば、「男じゃないぜ、おやっさん!」といったところだろう。
実際そのヒステリーな妻は、夫であるプレンダガストをすっかり甘く見ていて、職場に何度も何度も電話をかけてきては、
「あなた何時に帰るの!私は家で一人で待っているのよ!!どうしてすぐに帰ってこないの!」
「もう今日でお終いなんだから、すぐに帰ってくればいいのよ! ついでに〇〇買ってきて」
みたいなことをギャーギャーギャーギャーまくしたて、挙句の果てには「愛してるよ」と言わせるという、とんでもない妻だ。プレンダガストはぜんぜん仕事にならないのである。
そういう妻を持ってしまい、優しさから捨てることもできず、言うことを聞いてしまって幾星霜、といった感じ。
👇 プレンダガストを演じたロバート・デュバル。名優です。
By John Mathew Smith & www.celebrity-photos.com - https://www.flickr.com/photos/kingkongphoto/47327455231/, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=77278731
そんなプレンダガストに「奥さんをそういう風にしたのはあなたでもあるのよ。ガツンと言ってやりなさいよ」とやんわりとけしかけるのが、若き女性刑事サンドラ。
プレンダガストが最後に刑事らしい活躍をするべくフォスターを追う、その相棒を務めたサンドラとのやり取りの中で、自分がずっと言いたくて言えなかったことをとうとう妻に言うことに成功する。
それはやみくもにただ「感情を爆発させただけ」で破滅していくフォスターとは違って、優しさに満ち、相手のことを思いやり、それがゆえに周りの言うなりになっていたプレンダガストは、最終的に「きちんと感情を発露させる」ことに成功する。
この作品はそういう、自分の感情の出し方、取り扱い方に失敗してきた二人の男が、片やさらに盛大に失敗し、片やとうとう成功する男の物語でもあるのだった。
というわけで、ありがちなセンセーショナルなハリウッド娯楽作に見せておいて、ところがどっこい、結構しっかりとした映画だった、という作品。
おすすめです。
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