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【映画】「謎の要人悠々逃亡!(1960)」 ラストで ”ほっこり” させられる、脱走映画の佳作

 
おすすめ度 ★★★

題名 謎の要人悠々逃亡!(Very Important Person)
監督 ケン・アナキン
出演 ジェームス・ロバートソン・ジャスティス、スタンリー・バクスター、レスリー・フィリップス、エリック・サイクス
上映時間 94分
制作年 1961年
制作国 イギリス
ジャンル コメディ、戦争、脱走、モノクロ
 
 
 
捕虜収容所からの脱走ものだけど、ありがちなトンネルを掘って脱走 ”ではない” ところがミソ。なんと収容所の正面玄関から堂々と脱走してしまう。
 
一応コメディ作品だけど、爆笑に次ぐ爆笑!とかではなくて、「くすっ」「にやっ」「ふふ」くらいの軽めのコメディで、最後は「ほっこり」という展開が珍しい。
 
 

おおまかなプロット

映画の構成は入れ子構造になっていて、映画の中で科学者アーネスト・ピース卿の功績をたたえるTV番組が放送され、番組にはピース卿自身が登場し、懐かしい映像や再現フィルムを見ながら過去を回想する。家族や友人らと共に彼の生い立ちや人生を振り返るなかで、捕虜収容所からの脱走劇も回想するという作り。
 
戦時中、ピース卿は英国軍からなにかの任務を仰せつかって「ファーロー中尉」のコードネームを与えられドイツ領へ飛び立つが、なんと爆撃機から放り出されてドイツ軍の捕虜になってしまう。そこでピース卿は収容所からの脱出を計画する。

その計画は半年ごとに行われるスイス委員会の査察の際、任務を終えて帰る委員と一緒に正面ゲートから収容所を出て行こうという大胆なプランだった。
 
 
 
 
 

主人公ファーロー中尉の魅力

主人公のファーロー中尉を演じたのは、でっぷり巨漢でひげモジャのジェームズ・ロバートソン・ジャスティス。

あの『ジェームズ・ボンド・シリーズ』の原作者イアン・フレミングとお友達で、10数か国語を操り、職を転々としていて、俳優としては『白鯨(1956)』『ナヴァロンの要塞(1961)』などが代表作らしい。

私こういうクマさんみたいな男の人好き。
 
 
👇 ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス

By Ross-Stillman Productions, Inc. - Internet Archive, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=115998120
 
 
 
彼が今回演じたピース卿はいつも仏頂面で愛想がなくて、それなのに実はチャーミングという、背反する面を持つ人物。TV番組のゲストに親とか学生時代の同級生とかが出てきても、全然嬉しそうじゃないし笑わないし、むしろすごく迷惑そう。

もちろん捕虜収容所でも終始、厳格かつ横柄なお人柄だった。”超”横柄と言ってもいいくらい。何様!みたいな。


なのに脱走して帰国した彼がさっそく取り掛かったのが、収容所の仲間たちに雑誌とかクロスワード・パズルとか裁縫セットとかを差し入れする準備だった。みなが欲しがりそうなものをいそいそと準備するの。

TV番組収録中も、親や友人との再会でさえ全然笑わなかった ”あの” ピース卿が、脱走仲間たちが現れた途端満面の笑みを浮かべて、嬉しそうに握手したりなんかして。

どうやらピース卿にとって、彼らは親や友人らよりも ”繋がった存在” になっていたらしい。任務があるから愛想悪くしていたけど、内心はわちゃわちゃしたかったのかも。

おまけに捕虜収容所の所長(敵です)までが登場して握手して、みんな仲良さそうにじゃれあって、映画は楽しそうに大団円。んなわけネーダロって感じ(笑)
 
 

捕虜収容所の仲間たち

その脱走仲間たちの「戦後の」人生も面白い。
 
まず、収容所時代に女装してラインダンスをやっていて「ブラジャーがきつい」と文句を言っていたベインズは、補正下着のトップ・デザイナーになっていたり、

女好き全開だったクーパーは、なぜか女と最も縁遠い(はずの)「宣教師」になっていて、

トンネル堀りに一番情熱を傾けていたエベレットは葬儀屋になって、今でも穴を掘っている(笑)、というオチ。


戦争ものなのに軽く楽しめる佳作という感じだった。
 
ちなみにトンネル大好きのエベレットと収容所の所長は、スタンリー・バクスターの二役。最初気づかなかったよ。
 
 
 
 
 
 

映画内の捕虜収容所について

この手の捕虜収容所が舞台の映画ってだいたい結構楽しそうなことが多いけど、実際は一体どうなんだろう。

最近見た『第十七捕虜収容所(1953)』も今作と同じ、ドイツの捕虜収容所に囚われた連合国側の兵士が脱走しようとする話だったけど、ネズミ競馬で賭け事はするわ、じゃがいもの皮を蒸留して酒をつくるわ、望遠鏡を作って女性捕虜たちを覗こうとするわ、ラジオで音楽を聞くわ、結構やりたい放題。

こっちは収容所に関してはシロートだから、もの凄く厳格で自由ゼロなのではないかと思ってるから、こういうシーンを見ると「なんか楽しそうでいいなあ」と思ってしまう。


そして今作の収容所もやはりかなり緩い。
 
ファーロー中尉が割り当てられた7号室はカーテンがついていないからナチス兵から丸見えなのに、脱走したことになっているファーロー中尉はちょくちょく穴から出てきてくつろいでる。

普通にベッドで横になっていたり、靴下の穴を繕っていたりして、なんかすぐバレそうw
 
収容所には劇場とかもあって、同じ7号室の脱走仲間のクーパーとべインズは最初は漫才コンビとして登場し、続いてラインダンスのメンバーになって女装して踊ったりなんかしてる。

楽しそう。
 
映画内でも「ジュネーブ条約がどうの」というシーンが何か所かあるけど、きっとジュネーブ条約には捕虜の扱いに関しての決まりがきめ細かくあって、「人間的、文化的、衛生的な捕虜生活を保障せよ」みたいな条項があるんだろう。

それが守られているかを査察する為に来たのが、スイス委員なのだ。
 
 

今作の偽造テク

脱走の段取りをするなかでお約束なのが身分証明書の偽造だけど、今作では靴底のかかとの部分に彫刻を施してハンコ代わりにしている様子が描かれていた。

あと民間人用の服を仕立てるテーラーが、壁の板を取り外しできるようにして仕立て中の服をしまうクローゼットを作っていたりして楽しい。
 
偽造と言えば平時は100%犯罪だけど、こういう戦争時だと途端にポジティブな印象になる。頼もしくて、かっこいい。
 
 

 
 

感想

脱走映画の面白いところは、人間はどんな環境下であっても希望を持ち続ける人たちは、平時では思いつかないような飛躍的なアイディアを思いつき、それを実行する鉄の意志を持てるのだなあと思えるところ。

最近は世界的な社会不安の中で生きて行かなくちゃいけない時代になったけど、そんなときに思い出すのは、今上天皇がお生まれになった際、平成天皇がマスコミに「どのような人物に育ってほしいか」と問われ、「幸せになってもらいたい、というよりは、どんな状況下でも幸せを見つけられる人物になってもらいたい」とおっしゃった、という話。

ソースが無いし、私の勘違いで平成天皇のお言葉じゃないのかもしれないけれど、それでもこの言葉を私はすごく大切にしてる。高校生くらいの時にこの言葉を知って、私の座右の銘となった。

「幸せになりたいというより、どんな状況下でも幸せを見つけられる人間になる」

私も今後の人生の中で、たとえ収容所に放り込まれることがあったとしても、小さくていいから幸せを見つけて生きていくんだ。
 
 
 

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