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【映画】「ディーバ(1981)」〜最高に美しいオタク映画〜

 

おすすめ度 ★★★★

題名 ディーバ(DIVA)
監督 ジャン=ジャック・ベネックス
制作 セルジュ・シルベルマン
出演 ウィルヘルメニア・フェルナンデス、フレデリック・アンドレイ、リシャール・ボーランジェ、チュイ・アン・リュー
音楽 ウラディミール・コスマ、アルフレード・カタラーニ 「ラ・ワリー」
上映時間 118分
制作年 1981年
制作国 フランス
ジャンル 青春、サスペンス、アクション
 
 
引用:
ジュール「オペラ座?」
アルバ「お尻よ」 
  ジュールとアルバの台詞より
 

冒頭いきなり流れる「ラ・ワリー」の導入から一気に映画に引き込まれる、80年代青春映画の傑作。

観終わった後も映画の ”青” がいつまでも脳裏に残るこの印象的な映画を撮ったのは、『ベティ・ブルー(1986)』も衝撃的だったジャン=ジャック・ベネックス監督。

ヌーヴェル・ヴァーグ以降、久しく元気のなかったフランス映画を盛り上げ、続けてデビューしたリュック・ベッソンやレオス・カラックスなど新世代の監督たちと共に80年代のフランス映画ブームをつくった、そのきっかけとなった作品。

映画はいくつかのストーリーが交錯する話になっているけれど、別に難解というわけではない。

むしろスタイリッシュな映像とアイディアあふれるガジェットの使い方を楽しむ、たいへんおしゃれな映画です。
 
 

 

 

あらすじ

郵便配達夫の主人公ジュールは熱烈な歌劇マニアで、自宅のロフトはオープンリールのデッキやステレオが所せましと並んでいる。ジュールが心酔するのは黒人のソプラノ歌手シンシア・ホーキンス。ジュールはこっそりナグラのオープンリールデッキを持ち込んで彼女の歌の隠し録りに成功し、彼女の衣装も盗んでしまう。

パリでは売春行為を取り仕切る犯罪組織が娼婦たちを拉致監禁して、無理やり働かせていた。その組織の黒幕の名を録音したテープを持った娼婦の一人が脱出を試みるが、二人組の殺し屋に殺されてしまう。

ところがその娼婦は殺される直前、目の前に停めてあったジュールのバイクにそのテープを隠したことから、ジュールは犯罪組織の殺し屋に狙われる身になってしまう。さらにはシンシア・ホーキンスの歌を録音したテープを狙ったマフィアにまで狙われるはめになる。
 
 
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ストーリーのポイント

ポイントは、「アジアン・マフィアが追うカセットテープと、警察と犯罪組織が追うカセットテープの両方を持ってしまった主人公ジュールが、彼らに命を狙われてしまう」というところ。

ひとつめのテープは、正確にはオープンリールの録音テープなのだけれど、これは「決して自分の歌を録音しない歌姫シンシア・ホーキンスのリサイタルを録音したテープ」で、彼女に心酔するジュール自身が、彼女のリサイタルでこっそり録音した盗聴テープ。
 
もうひとつは「売春など人身売買に手を染める犯罪組織 ”カリブ海” の黒幕の名前が吹き込まれた、売春婦による内部告発のカセットテープ」で、これは全く偶然ジュールのバイクにすべりこんできたテープ。
 
この「シンシアの盗聴テープ」の方を海賊盤目当ての中国マフィアが、「内部告発テープ」の方を犯罪組織 ”カリブ海” の殺し屋が追う。そのため両方を持っているジュール自身が必然的に追われる身となってしまう。そしてそこには警察も絡んでくる。

その危機を、レコード・ショップで万引きしていたベトナム系少女アルバと、アルバをペットの様に可愛がっている謎の男ゴロディシュに助けられながら、途中でちゃっかり歌姫シンシアとの交流を深めたりなんかもしつつ、プロの追っ手から逃げ惑うというストーリー。
 

主人公ジュールのオタクぶり

ストーリーもちゃんと面白いのだけど、この映画はガジェット好きにはたまらないサブカル臭満載のオタク映画で、登場人物が使用しているモノが隅々まで厳選されていて、そういう「モノ」を効果的に使うことによって、主人公たちのキャラクターを演出している。

なんだか不思議で、すみからすみまでどこまでも「スタイリッシュ」な「おしゃれ」な映画だけど、しゃらくさくはない。
 
「おしゃれでしょう、スタイリッシュでしょう、かっこいいでしょう」みたいに作り手の自意識が迫ってくると、「うるさいな。はいはい、おしゃれおしゃれ」と思うけど、今作は何度見てもそう思わない。
 
しかし「おしゃれ」「スタイリッシュ」といったものを文章で表現するのはとても難しい。
 
うまく伝わるといいんだけど。
 
バイクがすごい
まずは主人公ジュール。彼はただの郵便配達員で、内向的そうな普通の青年。郵便配達員だからお金などないだろうと思われるのに、身のまわりはアート感あふれるモノにあふれている。

まずは彼が乗っている郵便配達のバイク。映画の中では「モビレット」と言っているが、要はスーパーカブ的な原付バイクなのだけど、その前輪の泥除けにロールスロイスのシンボル「フライング・レディ(スピリット・オブ・エクスタシー)」がついている!
 
👇 「フライング・レディ(スピリット・オブ・エクスタシー)」

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By User:Jed - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2500414


一説には盗もうとすると引っ込むとも言われているフライング・レディが、なぜジュールのスーパーカブに。 このシンボルだけでも百万円とも二百万円とも言われる超高級品が、なぜスーパーカブに?

それはジュールが住んでいる家に関係があるのだけれど、彼の家の玄関?の周りには、やたらと廃車がころがっていて、その中のロールスから取ったもののよう。

このアイディアがセンス良くて、10代20代のころ「実に真似したい」と思わせた格好良さなのだった(一生無理だけど)。
 
 
自宅がスゴイ
そのジュールの自宅がまたすごくて、どういうところに住んでいるのかちょっとよくわからない。

まず自宅が、何階かは分からないが建物の上の方にあるのだけど、そこへ行くのに普通のエレベーターではなくて、なんと ”業務用リフト” でバイクごと「ぐおおおーん」と上がっていく。

だだっ広いフロアに到着すると廃車が何台も転がっている。近くに自宅の入り口があるけれどドアがついていなくて、光を通す程度の磨りガラスみたいな、半透明のプラスチックの黄色い板が2枚ついているだけ。で、それが観音開きにゆーらゆーらと開閉するの。風とか冷気とかなんて全然防げそうもない。

中はだだっ広いロフトで、床や壁中に前の住人が描いたらしい、ちょっと怖いタッチの車や人物のアートがたくさん描かれている。車の絵なんてヘッドライトが点いたりして芸が細かい。床にはラクエル・ウェルチらしいヌードの絵も。

想像するに、雑居ビルみたいな業務用の建物で、この階には車の修理工場があったと私は見た。リフトで廃車をあげて、中で修理していたのではないかしら。すると部屋の中が車の絵だらけというのも自然だ。

こういう倉庫を改造して住む「ロフト」って、80年代に流行ったんですよ。あこがれたなあ。
 
 
オーディオ機器がスゴイ
さらにジュールがシンシア・ホーキンスのリサイタルに持っていく録音機材がすごい。

NAGRA(ナグラ)のポータブルのオープンリール・デッキという、今買ったら中古でも100万円くらいはしそうなシロモノ。ポータブルと言ってもかなりデカい。
 
👇 こんなやつ

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By Hens Zimmerman from Zeist, The Netherlands - A Nagra-Kudelski 1/4" recorderUploaded by shoulder-synth, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7613641


この超高級デッキで、当然普及版の廉価なカセットテープなどではなくオープンリールで、そして録音する場所も最高の席で、という完璧な録音だったがゆえに海賊盤を出したい中国マフィアに追われてしまうのだ。

オタクのこだわりが、命を脅かす。けれど本物のオタクのこだわりにはその価値がある。

自宅には他にもオーディオ機器が並んでいるし、部屋を荒らされたあとの様子を見れば、かなりの量の音楽テープがあったと思われる。マニアの鏡。

それがあんなにめちゃくちゃにされちゃって、私がジュールだったら生きる希望がなくなって鬱になるかも。
 
 

ベトナム系少女アルバのお尻

次に、レコード・ショップで知り合うベトナム系少女アルバ。幼そうでいて大人びていて、いくつなのか全く分からない。 

レコード・ショップでLPを盗む、その大胆な手法。自分のヌード写真を持ち歩くなんて、いやー、これは意表をついて見逃してあげるのも無理はない。

そして彼女がはいている、オペラ座がプリントしてある、大胆なデザインのタイト・スカート! これが冒頭の引用につながる。

彼女は後述する「大人すぎる男」ゴロディシュにペットのように飼われているけれど、彼女はかなり優秀で、ジュールが危険にさらされた時の冷静な対応が頭の良さを物語っている。

万引きの常習犯みたいだし、若いのにいくつもの修羅場をくぐってきたかのような落ち着きっぷり。全も悪も、世の中のすべてを知る少女。かっこいい。
 
 

謎しかない男ゴロディシュ

その少女アルバをペットのように愛でる男ゴロディシュ。

悟りの境地にいる男。波を止める夢をみる男。乗っている車はシトロエン11CV。
 
👇 どんぴしゃではないけど、こういうの

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Charles01 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3419500による
 
 
そして水中眼鏡をかけてバケット・サンドを作りながら、こんなことを言う男でもある。
 
引用:「温度が大切だ。バケット。ナイフは薄すぎず、厚すぎず。パンの中身は新しすぎず、古すぎず。芸術だよ。それがフランス人の趣味のよさだ。いいか。バターを塗る。接着剤や洗剤でハイになる奴もいるが、おれの ”悟り” はこれだ。バターを塗る瞬間の禅の境地。いいかい、もはやナイフもパンもバターも存在せず、運動だけ。空間。無だ。」
 
何言ってるのか全然わからない(笑) キャビアのサンドイッチを作りながら、悟りと禅を語るのだ。


このゴロディシュも広い広いロフトに住んでいて、広ーい部屋にぽつんとバスタブが置かれていて、葉巻を吸いながらバスタブに浸かるゴロディシュの周りをアルバがローラースケートでくるくる回っていたり、部屋の真ん中で哲学者のような顔をして大きなジグソーパズルをやっていたり。それも北斎風の波のジグソーパズルを。

ジュールが危機に陥った時は、これ以上ないくらいタイミングよく現れてジュールを救うし、その活躍は「神のごとくすべてを見通している男」といった具合。そのご都合主義ぶりすらも格好いい。

このゴロディシュをやっているのが、私の好きなリシャール・ボーランジェなのだが、彼はピーター・グリーナウェイの『コックと泥棒、その妻と愛人(1989)』でも、やはり「すべてを把握している男」をやっていた。
 
👇 リシャール・ボーランジェ

Par Georges Biard, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8945598
 
 

ジュールとディーバの心のふれあい

そして最後に軽く触れるのは、 ”ディーバ” シンシア・ホーキンスと、彼女に心酔する歌劇オタクのジュール。

ディーバを演じたのは、本物の黒人オペラ歌手ウィルヘルメニア・フェルナンデス。アフリカ系で、とても美しい。
 
👇 ウィルヘルメニア・フェルナンデス

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Di FGarg - Screenshot autoprodotto, Copyrighted, https://it.wikipedia.org/w/index.php?curid=7952219
 

そして繊細なジュールを演じたのは、この映画に出たあとはイマイチ何をしているのかよく分からなかったフレデリック・アンドレイ。

90年代までは情報が今ほどなくて、彼はこの『ディーバ』だけで、そのあとは裏方に回っているらしい、という情報止まりだった。

でも今Wikipediaのフランス版ページを見ると、俳優業を続けながら、小説を書いたりプロデューサー業に回ったりしているよう。



このシンシア・ホーキンスとジュールの「心の通い合い」も、この映画の見所。

恋・・・とは違う。歌手と良き理解者という、立場は違えど歌を愛する者同士にしか分からない、歌の琴線に触れることができる者同士の感応っていうんでしょうか。


それにしても衣装まで盗まれたのに気に入られちゃうww 

まあ、ジュールは美貌でかわいいですからね(笑) これが不細工だったら確実に事案です。ジュールは盗んだ衣装を体に巻いて歌を聞いたりして、やってること結構変態。

不細工だと変態。イケメンなら「そういうところもかわいい」と。美は正義だということです。仕方ない。
 
 

音楽

この映画は音楽も良くて、映画冒頭の「ラ・ワリー」から見るものを圧倒。

そして ”動” の「ラ・ワリー」から ”静” の「アベ・マリア」。

それに加えて現代的なウラディミール・コスマの音楽。

これらが収録されたサントラがまたいいんです。映画のシーンが脳内を駆け巡る。おすすめです。



 

👇 DVD

 

 

👇 サントラ盤

 

 

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