題名 周遊する蒸気船(Steamboat Round the Bend)
監督 ジョン・フォード
出演 ウィル・ロジャース、アン・シャーリー、ジョン・マクガイア、フランシス・フォード、ステピン・フェチット
制作会社 20世紀FOX
上映時間 81分
制作年 1935年
制作国 アメリカ
ジャンル コメディ、モノクロ、レース
あらすじ
👇 こんな感じの蒸気船が抜きつ抜かれつのレースを繰り広げます。
By Unknown author - This image is available from the United States Library of Congress's Prints and Photographs divisionunder the digital ID cph.3d02054.This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3662610
主演のウィル・ロジャースについて
1879年生まれのウィル・ロジャースはカウボーイのイメージが強いけれど、どうやら生まれつきのカウボーイという訳ではなさそう。両親ともにチェロキー族(インディアン)の血を引いていて、父親はチェロキー族の代議士だった。家は裕福だったようで、要は当時のアメリカなりの「いいとこの子」だったのでしょう。
じゃあなぜにカウボーイになったのかというと、勉強はできなかったけどカウボーイに憧れてロープの使い方や投げ縄などを習得し始め、そのまま牧場で働きはじめたらしい。
その後アルゼンチンに行って南アに行って、サーカスの仕事もするようになってショービジネスの世界に足を踏み入れた。そしてオーストラリアに行って相変わらずサーカスで投げ縄芸などを披露していたけれど、1904年にアメリカに戻っていよいよ本格的にショービジネスのキャリアをスタートさせる。
NYのマジソン・スクエア・ガーデンでカウボーイ芸を披露していたら人気を取って、いよいよジーグフェルド・フォーリーズに登場。最初はメインの出し物と出し物の間の ”つなぎ役” だったけれど、そのうちロジャース自身が大スターになった。
1919年ごろにはハリウッドに移住して映画に出演するようになり、サイレントからトーキーへと変化していく時代にあって上手く移行できずに没落するスターも多い中、ロジャースはずっと大スターのままだった。いくらかは分からないが、当時のハリウッドで一番高いギャラをもらっていたらしい。
👇 ウィル・ロジャース
By Melbourne Spurr - Internet Archive, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=28010417
👇 ウィル・ロジャース 若い頃 かっこいいなー。By 19th century photo, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2851152
ヒロインのアン・シャーリーが可愛い
当時17歳くらい。大根だけど可愛い。まだ演技に慣れていなくて、右も左も分からず言われたまんまやっているような、ひたむきな感じが愛らしい。ほんとに可愛い。大根だけど。
👇 アン・シャーリーさんこの写真より映画での方がずっとずっと可愛い。By Unknown author - http://www.doctormacro.com/Movie%20Star%20Pages/Shirley,%20Anne-Annex.htm, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=19958955
子役時代はドーン・オデイという名で活躍していて、1934年に制作された『赤毛のアン』でアン役をやった際、その赤毛のアンの名前であるアン・シャーリーをそのまま芸名にしたそう。
その後『ステラ・ダラス(1937)』という映画ではアカデミー助演女優賞にノミネートされているようだから、演技派なのかも・・・そうは見えなかったけど・・・・
もし演技派なのであれば、今作では「右も左も分からない、田舎のおぼこい女の子」を、しっかり演じていたということになる。
失礼なことを書いてしまっているのかもしれない。これはDVDを探して、『ステラ・ダラス(1937)』くらいは観なきゃいかんな。
その他の見所(蒸気船レース、脇役、ジョン・フォード)
あんなに大きな蒸気船が何隻も何隻も、煙をもくもくさせて外輪をぐるぐるぐるぐる。それだけでも見たことのない映像が楽しめる。
その上コメディとしてのドタバタぶりもいい感じで、登場人物たちのキャラが立ってるし、テンポも良いからぐんぐん引き込まれる。
👇 イメージ画像です
By Detroit Publishing Co. - This image is available from the United States Library of Congress's Prints and Photographs divisionunder the digital ID det.4a13374.This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16688856
その脇役たちがみな面白くて実に味わいがある。
きっとキリスト教系というかユダヤ系というか、とにかく聖書系の宗教家であることは間違いないと思うけど、勝手に「ニュー・モーセ」なんて名乗っていいんでしょうか。違う名前ならともかく、「ニュー・モーセ」ですよ。私が「ニュー・キリスト」とか「ニュー・ブッダ」とか言って布教活動しているのと変わらない。とんでもない厚かましさ。不敬にならないのかしら。
彼は「酒とレースは悪魔の所業」と言って布教活動している最中、レース中のドクに投げ縄で捕獲されてしまうのだけれど、次のシーンではもう斧を手にして船を解体し薪をくべているばかりか、みんなにキビキビと指示出までして、一番ノリノリ。ほんと笑わせる。なまくら坊主っていいなって思った。
👇 ニュー・モーセを演じたバートン・チャーチルBy film screenshot (Chesterfield Motion Pictures Corporation) - https://archive.org/details/the_dark_hour, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16278549
👇 フランシス・フォード(いい写真が見つからなかった)
By Unknown author - Motion Picture News Studio Directory, p. 248., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=46136249
私は『ショウ・ボート(1929)』と『プリースト判事(1934)』『陽気な街(1937)』『太陽は光輝く(1953』くらいしか彼を見たことが無いけれど(っていうか結構見てるな)、いっつも同じ、こういう役(見ると分かる)。
こういう役ばかりをやっている彼を見ると複雑な心境にもなるけれど、こういう役で彼はアメリカ初(ということは世界初)の黒人スターになった。ギャラもたくさんもらって、有名人になった。
そしてその後の黒人スターの礎になった。だから彼は黒人が白人社会で正当な扱いを獲得していくための第一歩でもあるのだった。
👇 ステピン・フェチット
By Minneapolis Star - eBayfrontback, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=32268156
終わり方が大好き
前半はゆったりほっこり、終盤からラストにかけてぐんぐんスピードがアップしていく。
最後の終わり方が大好き。描きすぎないところがいい。ドクがレースに勝ってからデュークを救うくだりなんてもう光速ですよ。無駄がないというより、状況を説明する気がない。
ドクが知事になにやら訴えているけど何を言っているかはわからない。アップにもしないし声も聞こえない。でもちゃんと分かる。わーっと行ってわーっとなって、わーっと中止にして、わーわーわーという感じ。で、もう次の場面では蒸気船の上。若いふたりは仲睦まじく蒸気船を操縦し、ドクはゆったりと川を見ながら座っているだけ。いい終わり方だった。
たぶん何を言ってるのか分からないと思うので、ぜひ見てほしい逸品です。
👇 DVD