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【映画】「周遊する蒸気船 (1935)」~蒸気船レースが超レアなドタバタ・コメディ~

 
おすすめ度 ★★★★

題名 周遊する蒸気船(Steamboat Round the Bend)
監督 ジョン・フォード
出演 ウィル・ロジャース、アン・シャーリー、ジョン・マクガイア、フランシス・フォード、ステピン・フェチット
制作会社 20世紀FOX
上映時間 81分
制作年 1935年
制作国 アメリカ
ジャンル コメディ、モノクロ、レース
 
 
 
いえーい。ハイテンション・ドタバタ・コメディとでも言おうか、見終わった後「わーい、パチパチパチ」と拍手したくなること請け合い。
 
日本でご存知の方は少ないでしょうが、当時のアメリカの国民的大スター、ウィル・ロジャース主演の蒸気船レース映画です。
 
レース映画は数あれど、蒸気船でレースするというのが極めてレアで、その壮大さと馬鹿馬鹿しさで爆笑することをお約束します。
 
ウィル・ロジャースっていいですよね。「古き良きアメリカの良心」っていう感じで。アメリカ人でもなんでもない私でも安心感があってほっこりします。
 
 
 

あらすじ

舞台は1890年代のミシシッピ州。蒸気船クレアモア・クイーン号の船長ドクは、流暢な話術でお酒の「ポカホンタス」を薬と称して売りつける、インチキ薬売りをして暮らしていた。
 
ある日ドクは、日ごろのライバルである蒸気船プライド・オブ・バドゥーカ号のイーライ船長といつもの軽口を叩き合ううちに、恒例の夏の蒸気船レースでお互いの船を賭けることになってしまう。おまけに一緒に暮らしている甥っ子のデュークが女の子を連れて帰ってくるが、彼女を巡ってトラブルになり男を一人死なせてしまったというのだ。
 
正当防衛なのだから自首すべきだと主張するドクと、自首したら絞首刑にされると反対する娘フリーティ・ベル。だがドクはデュークを連れて保安官のところへ行き、案の定デュークは牢屋に拘束され、フリーティ・ベルの言った通り絞首刑が決まってしまう。
 
ドクとフリーティ・ベルはデュークを救うためもっといい弁護士を雇おうと、船で蝋人形館を催してお金を稼ぎながら、事件の唯一の目撃者である聖職者ニュー・モーセを探す。
 
デュークの絞首刑が明日に迫る。あとはもう知事に嘆願するしかない。いよいよ後が無くなったドクが知事に会いに行く道すがら、すっかり忘れていた蒸気船レースのスタート地点を通りかかる。レースに出る暇などないドクだが、結局イーライ船長の挑発に乗ってレースに参加することになってしまう。
 
でもどうせ知事はレースのゴール地点で1位の船を待っているし、そこではデュークの絞首刑も行われる。ニュー・モーセを探しながら、ついでにレースにも参加して、知事とデュークの元へ駆けつける一石二鳥の算段だ。
 
レース開始は5分後。燃料の薪を積む時間もなく、ドクはレースに挑むことになる。
 
 
👇 こんな感じの蒸気船が抜きつ抜かれつのレースを繰り広げます。

By Unknown author - This image is available from the United States Library of Congress's Prints and Photographs divisionunder the digital ID cph.3d02054.This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3662610

 

主演のウィル・ロジャースについて

1879年生まれのウィル・ロジャースはカウボーイのイメージが強いけれど、どうやら生まれつきのカウボーイという訳ではなさそう。両親ともにチェロキー族(インディアン)の血を引いていて、父親はチェロキー族の代議士だった。家は裕福だったようで、要は当時のアメリカなりの「いいとこの子」だったのでしょう。

じゃあなぜにカウボーイになったのかというと、勉強はできなかったけどカウボーイに憧れてロープの使い方や投げ縄などを習得し始め、そのまま牧場で働きはじめたらしい。

その後アルゼンチンに行って南アに行って、サーカスの仕事もするようになってショービジネスの世界に足を踏み入れた。そしてオーストラリアに行って相変わらずサーカスで投げ縄芸などを披露していたけれど、1904年にアメリカに戻っていよいよ本格的にショービジネスのキャリアをスタートさせる。

NYのマジソン・スクエア・ガーデンでカウボーイ芸を披露していたら人気を取って、いよいよジーグフェルド・フォーリーズに登場。最初はメインの出し物と出し物の間の ”つなぎ役” だったけれど、そのうちロジャース自身が大スターになった。

1919年ごろにはハリウッドに移住して映画に出演するようになり、サイレントからトーキーへと変化していく時代にあって上手く移行できずに没落するスターも多い中、ロジャースはずっと大スターのままだった。いくらかは分からないが、当時のハリウッドで一番高いギャラをもらっていたらしい。

 

👇 ウィル・ロジャース

By Melbourne Spurr - Internet Archive, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=28010417

 
 
この映画の役どころはとっても優しい叔父さんで、甥っ子とそのフィアンセのためにむちゃくちゃをする蒸気船の船長ドク役。
 
優しくてシャイなルックスと表情、しぐさなどが善良を絵に描いたみたい。お酒を薬と偽って売っていたり、そこそこ詐欺まがいのこともして稼いでいるけど、そこは牧歌的な古き良き時代ということでご愛嬌。
 
この映画の頃はもう70歳くらいの初老って感じだけれど、実はまだ55歳くらい。人類の進化(?)を感じますね。
 
Wikiに載っている若い頃の写真がホント格好いい。若い頃の映画も観たいけど、全然円盤化されてないみたいで残念。
 
👇 ウィル・ロジャース 若い頃 かっこいいなー。

By 19th century photo, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2851152
 
 

ヒロインのアン・シャーリーが可愛い

もう一人の主演が、女優のアン・シャーリー。

当時17歳くらい。大根だけど可愛い。まだ演技に慣れていなくて、右も左も分からず言われたまんまやっているような、ひたむきな感じが愛らしい。ほんとに可愛い。大根だけど。
 
 
👇 アン・シャーリーさん 
この写真より映画での方がずっとずっと可愛い。
 
 
・・・なんて思って見ていたが、なんと彼女は元々子役でキャリアが長く、ぜんぜんベテランなのだった。

子役時代はドーン・オデイという名で活躍していて、1934年に制作された『赤毛のアン』でアン役をやった際、その赤毛のアンの名前であるアン・シャーリーをそのまま芸名にしたそう。

その後『ステラ・ダラス(1937)』という映画ではアカデミー助演女優賞にノミネートされているようだから、演技派なのかも・・・そうは見えなかったけど・・・・

もし演技派なのであれば、今作では「右も左も分からない、田舎のおぼこい女の子」を、しっかり演じていたということになる。

失礼なことを書いてしまっているのかもしれない。これはDVDを探して、『ステラ・ダラス(1937)』くらいは観なきゃいかんな。
 
 

その他の見所(蒸気船レース、脇役、ジョン・フォード)

映画の最大の見所はなんと言ってもやっぱり蒸気船レースで、トム・ソーヤに出てくるような蒸気船がミシシッピー河を抜きつ抜かれつの猛レースを繰り広げる。

あんなに大きな蒸気船が何隻も何隻も、煙をもくもくさせて外輪をぐるぐるぐるぐる。それだけでも見たことのない映像が楽しめる。

その上コメディとしてのドタバタぶりもいい感じで、登場人物たちのキャラが立ってるし、テンポも良いからぐんぐん引き込まれる。
 
 

👇 イメージ画像です

By Detroit Publishing Co. - This image is available from the United States Library of Congress's Prints and Photographs divisionunder the digital ID det.4a13374.This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16688856

 


その脇役たちがみな面白くて実に味わいがある。

アル中の年寄り機関士のエフェイ、悪魔の飲み物と言って禁酒を説いて回る聖職者ニュー・モーセ、ちょっと頭の弱そうな黒人奴隷ヨナ、超いい加減な保安官、ライバルのイーライ船長などなど。


私が一番気に入ったのはニュー・モーセ。

きっとキリスト教系というかユダヤ系というか、とにかく聖書系の宗教家であることは間違いないと思うけど、勝手に「ニュー・モーセ」なんて名乗っていいんでしょうか。違う名前ならともかく、「ニュー・モーセ」ですよ。私が「ニュー・キリスト」とか「ニュー・ブッダ」とか言って布教活動しているのと変わらない。とんでもない厚かましさ。不敬にならないのかしら。

彼は「酒とレースは悪魔の所業」と言って布教活動している最中、レース中のドクに投げ縄で捕獲されてしまうのだけれど、次のシーンではもう斧を手にして船を解体し薪をくべているばかりか、みんなにキビキビと指示出までして、一番ノリノリ。ほんと笑わせる。なまくら坊主っていいなって思った。
 
 
👇 ニュー・モーセを演じたバートン・チャーチル

By film screenshot (Chesterfield Motion Pictures Corporation) - https://archive.org/details/the_dark_hour, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16278549

 

 
アル中のエフェイ役を演じたのはフランシス・フォード。彼は監督のジョン・フォードの兄で、弟ジョン・フォードの映画に小さめの役で猛烈に出ている。私は数本しか見たことないけれど、見るたびにアル中の役なんだよね・・・。もしかすると十八番なのかもしれない(分からない)。
 
👇 フランシス・フォード(いい写真が見つからなかった)

By Unknown author - Motion Picture News Studio Directory, p. 248., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=46136249

 

 
そしてちょっと頭の弱そうな黒人奴隷ヨナ役は、ステピン・フェチット。

私は『ショウ・ボート(1929)』と『プリースト判事(1934)』『陽気な街(1937)』『太陽は光輝く(1953』くらいしか彼を見たことが無いけれど(っていうか結構見てるな)、いっつも同じ、こういう役(見ると分かる)。

こういう役ばかりをやっている彼を見ると複雑な心境にもなるけれど、こういう役で彼はアメリカ初(ということは世界初)の黒人スターになった。ギャラもたくさんもらって、有名人になった。

そしてその後の黒人スターの礎になった。だから彼は黒人が白人社会で正当な扱いを獲得していくための第一歩でもあるのだった。
 

👇 ステピン・フェチット

By Minneapolis Star - eBayfrontback, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=32268156

 

 

終わり方が大好き

個の映画みたいな、これといった意味のない娯楽作ってほんとうに尊いと思う。
 
監督は名監督との呼び名の高いジョン・フォード。

前半はゆったりほっこり、終盤からラストにかけてぐんぐんスピードがアップしていく。

最後の終わり方が大好き。描きすぎないところがいい。ドクがレースに勝ってからデュークを救うくだりなんてもう光速ですよ。無駄がないというより、状況を説明する気がない。

ドクが知事になにやら訴えているけど何を言っているかはわからない。アップにもしないし声も聞こえない。でもちゃんと分かる。わーっと行ってわーっとなって、わーっと中止にして、わーわーわーという感じ。で、もう次の場面では蒸気船の上。若いふたりは仲睦まじく蒸気船を操縦し、ドクはゆったりと川を見ながら座っているだけ。いい終わり方だった。

たぶん何を言ってるのか分からないと思うので、ぜひ見てほしい逸品です。


一個だけ文句。映画の面白さには関係ないけど、字幕の預言者の字が間違ってて「予言者」になってる。・・・予言と預言は違くてですね・・・ぶつぶつ。
 
 
 

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