題名 アラバマ物語(To Kill a Mockingbird)
監督 ロバート・マリガン
制作 アラン・J・パクラ
脚本 ホートン・フート
原作 ハーパー・リー「アラバマ物語」1960年
出演 グレゴリー・ペック、メアリー・バダム、フィリップ・アルフォード、ジョン・メグナ、ブロック・ピーターズ、ロバート・デュバル
音楽 エルマー・バーンスタイン
上映時間 129分
制作年 1962年
制作国 アメリカ
ジャンル ドラマ、モノクロ、社会派、法廷もの、
受賞 アカデミー脚色賞、アカデミー主演男優賞
テーマは重いが難しい物語ではないし、構成がうまくできていて南部の町や大人たちの様子が「子供たちの目線」で描かれているためスムーズに世界に入り込める。
原作は1960年代のベストセラーであり、この映画も名作の誉れ高い。
これで主演のグレゴリー・ペックがアカデミー主演男優賞を取り、脚本がアカデミー脚色賞を取った。
さらにスカウト役を演じた女の子メアリー・バダムがアカデミー助演女優賞にノミネートされたが、これは当時史上最年少ノミネート(10歳)だった(このノミネートは妥当)。
黒人差別の問題について本を読んだりするのはエネルギーがいるし敷居が高いが、本作はアメリカの黒人差別の歴史の一端を知る入門としてうってつけだと思う。
あらすじ
そんな毎日の中、白人女性が暴行を受ける事件が起こる。容疑者である黒人トムの弁護を引き受けることになったアティカスだが、それが原因で近所と軋轢が生じてしまう。ある晩などは被害者の父親ユーエルさんを筆頭に、町の白人男性たちが徒党を組んで黒人トムの自宅を襲おうとする。アティカスが説得するが、暴徒を阻止したのはスカウトの存在だった。
裁判の日。被害者の父ユーエルさんはトムが犯人で間違いないと激しく主張。しかしアティカスの反対尋問によって、ユーエルの証言の矛盾点が明らかになっていく。
そしてトムが証言台に立ち、自分は無罪であると主張。アティカスの最終弁論のあと、陪審員たちは審議に入る。しかし下った判決は「有罪」。アティカスはトムに「希望を失わないよう」話す。しかしトムは護送車から逃亡し、射殺されてしまう。
ジェムとスカウトは学校のハロウィン・パーティに参加する。その帰り道、二人は何者かに襲われれる。スカウトを守ろうとしたジェムは気絶するが、そこへ男が現れ二人は救われる。襲ってきたのはユーエルさんで、救ったのはブーだった。
ユーエルはナイフで腹部を刺されて死んでしまうが、ブーの正当防衛は明白だ。しかし家から出ずに生活する ”ビッグ・シャイ” なブーを裁判に引きずりだし、世間の好奇の目にさらすのは反対だと保安官は主張し、スカウトもそれに同調。アティカスも同意するのだった。
Di Moni3 - Transfered from en:Image:Atticus_and_Tom_Robinson_in_court.gif,version of 00:45, 14 February 2008, Pubblico dominio, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3560213
暴力シーンの演出について
この作品には暴力的な黒人差別の描写というのは非常に少ない。
なんなら喧嘩っ早いスカウトが一番暴力的だったくらい。
この作品はそういった、単純で直接的な暴力ではなく、不公平さや理不尽さといった精神的な暴力に焦点をあてているところが特徴なのだろうと思う。
その理不尽さは、後半の裁判シーンに凝縮されている。
黒人差別と映画での描き方について
彼らの証言は矛盾に満ちているし、被害者が嘘を言っていることなど明白。だからアティカスに矛盾点を突き付けられると取り乱してヒステリックに叫びだす始末。
そんな体たらくなのに12人の陪審員たちは2時間の協議の末、トムの有罪を選択する。
はずがないけど、そういう理不尽に長年さらされてきたのがアメリカの黒人たちなのだった。
アティカスの家にやってきた少年は、無邪気にも「牛肉なんて久しぶりだよ。いつもウサギや鳥を銃で撃って食べてるんだ」と言い、さらに「シロップが欲しい」と言って、キャルが運んできたシロップを、肉や付け合わせ、パンなど食事全体に大量にかける。それをスカウトは「信じられない」という顔で眺め、「それじゃ食事が台無しよ」と言う。
これらの例でも分かるように、この映画は黒人差別をテーマにしているが、映画からは黒人差別を感じなかった。
Di Totorosan1 - screenshot catturato da Totorosan1 dal blu-ray., Copyrighted, https://it.wikipedia.org/w/index.php?curid=5154324
アティカスの人間性について
根強い黒人差別が渦巻く南部で、アティカスは夜になるとキャルを家まで車で送っていったり、子供たちに危険が及びそうなときは泊まってもらったりしている。
そしてそれを申し出るアティカスはいたって紳士な態度だし、キャルの方も卑屈さがなく、対等に振る舞っているように見える。
ジェムから「フットボールの試合に一緒に出てほしい」とお願いされても年齢を理由に断り、おまけにジェムにもフットボールでのタックルを許可しない。徹底的に暴力を否定するアティカスなのだ。
アティカスはそういう風に、自分の能力をひけらかすことがない男でもある。
でも私には、アティカスの聖人君主ぶりがちょっと引っ掛かるのだった。
アティカスの人間性が引っ掛かる
非常にモヤモヤして、自分の中で上手く整理できない。やや長いがそのセリフを引用してみる。
引用:「彼女の行動を動機付けた要因を私は罪と言った。彼女は犯罪を犯してはいない。世間にある戒律を破ったに過ぎないのだ。これを破った者は社会から疎まれ追い出される。彼女にはその証拠を消す必要があった。その証拠とは何であるか・・・トムという人間である。彼女にはトムを消し去る必要があった。トムが生きている限り過去を思い出してしまう。過去とは何か? 白人であるのに黒人を誘惑した。この社会では口にもできぬ汚れた行為。黒人との接吻。しかも老人でなく強く若い黒人男性だ。気にも留めなかった戒律が彼女を苦しめ始めた。」アティカス最終弁論より
私は極めて差別的だと思った。表面は善人ぶって人格者ぶっているけれど、極めて差別的じゃないか。「こいつ何言い出してんの?」って思っちゃった。
でもアティカスは自分が差別主義的であると自覚していないと思う。自覚しているようには描かれていないと思う。まさか自分が差別主義的だなんて、夢にも思っていないのではないかしら。
それなのにこの作品が「反差別主義の名作」みたいに扱われて、アティカスが一種の理想のアメリカ人みたいに扱われていることが、私にはなにやらモヤモヤして納得できないのだった。
ブーについて思うこと
私にはブーが一番やばいヤツで、アメリカの田舎の狂気を秘めているように感じられて、映画では描かれない後日譚を想像すると「ああこわい」と思う(演じたのはロバート・デュバル)。
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