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【映画】「陽気な街(1937)」 恋をするって、美しいのね

 

おすすめ度 ★★★★★ 

題名 陽気な街(ON THE AVENUE)
監督 ロイ・デル・ルース
制作 ダリル・F・ザナック
出演 ディック・パウエル、マデリーン・キャロル、アリス・フェイ、アル・リッツ、ジミー・リッツ、ハリー・リッツ、ステピン・フェチット
上映時間 89分
制作年 1937年
制作会社 20世紀フォックス
制作国 アメリカ
ジャンル ミュージカル、コメディ、ラブロマンス、モノクロ

 

 

映画の概要

ミュージカル映画の始まりは、映画がトーキー化された後の『ブロードウェイ・メロディー(1929)』が最初で(未見)、その後40年代から50年代にかけて全盛期を迎え、60年代の半ばにはほぼ死ぬ。

なので、この1937年公開の『陽気な街』は、割と最初の方の作品ということになる。

そのせいかどうかは分からないが、この『陽気な街』は、その後のミュージカル映画の王道ともいえる「ド派手で大掛かりで豪華絢爛で荒唐無稽」な内容ではなく、割かし地味目なラブ・コメだった。


主役のディック・パウエルはミュージカル・スターのはしりみたいな方らしいが、歌はうまいが見た目はわりと普通。

物語も普通、演出も普通、出てくるスターも男女ともに普通、全部普通。モノクロだから余計に地味に見えるし。コメディとしても大爆笑!というよりは、見ていて楽しくなってくる、という感じ。

でも普通だなと思いきや、見終わった後もずっと胸のあたりがあったかいような、後で思い出しても胸があったかくなるような、個人的には胸アツの作品。


「m的映画ベスト10」とかやったら間違いなく候補に挙げます。

 

👇 だいたいこの映画の頃のディック・パウエルさん


By Photographer uncredited - https://archive.org/stream/radiostars5619univ#page/n269/mode/2up, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=44852920

 

 

あらすじ

ニューヨークのブロードウェイでは、ミュージカル『オン・ジ・アヴェニュー』が、まだ初日を迎えていないのにも関わらず ”笑える” と大評判で、高いチケットも完売するほど。

初日の最前列には大富豪キャラウェイ父娘も見に来ていたが、その内容が自分達を小馬鹿にした演出だったのでキャラウェイ氏は大激怒。すぐに席を立って帰ってしまう。

娘のミミの方はというと、上演をやめさせようと舞台裏で大騒ぎ。主演で脚本家のゲイリー・ブレイクにくってかかるが、軽く追い払われてしまう。おまけに舞台をやめさせようと騒いだことまで新聞に載り、恥の上塗りだ。

怒り心頭のキャラウェイ氏はゲイリーらを訴えようとする。舞台をなんとかやめさせたいミミは冷静に話し合おうとゲイリーを呼び出すが、二人はお互い惹かれあい、ミミが自宅へ帰る頃には二人ともすっかり恋に落ちていた。

ミミに恋したゲイリーは、ミミのために舞台の風刺シーンを大幅に書き直し、彼女の期待に応えようとする。ところがゲイリーに惚れている共演者のモナは言うことを聞かず、ますますキャラウェイ家を馬鹿にした内容にエスカレート。書き直してくれると期待していたミミを怒らせてしまう。

期待を裏切られたミミは財力を使って舞台を買い取り、自分の思い通りに書き換えるが、何も知らずに舞台に立ったゲイリーは、自分の大事な舞台が書き換えられたことに大激怒。ふたりの仲はこじれてしまい、ミミは探検家との結婚を決めてしまう。

はたして二人の関係はいかに。

 

👇 ミミ役のマデリーン・キャロルさん

By Walter Wanger Productions. Photo by Donald Biddle Keyes - eBayfrontback, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=58422225

 

 

今でいうところのパリス・ヒルトン的な

大富豪のキャロウェイや娘のミミは、今風に言うとヒルトン一族みたいなイメージ。パリスよりはミミの方が遥かにマシだから、ミミに「一緒にしないで!」って怒られそうだけど、でもヒルトン家っぽい。

ゲイリーがつくった舞台上でのキャロウェイ家の風刺シーンは、

ヨットが大好きで葉巻がトレードマークのキャロウェイ氏は、めちゃくちゃ巨大な葉巻を口に咥え、子供みたいに帆船のおもちゃをコロコロ引きながら登場。

犬が大好きなミミは20匹くらいの犬と共に、大階段を堂々と登場。


この二人の食事シーンでは、貴族とかにありがちな長ーいテーブルの端と端で食事して、会話するのに電話を使うというありさま。おまけにその電話もイチイチ召使がいったん出て、お互いに取り次ぐというバカバカしさ。

こういうパロディ、アメリカ人好きそう。私も好きだった。

 

 

でもパリスと違って、ミミは好きになれる

ゲイリーとミミのデート・シーンがとても楽しくて、大衆食堂での他の客や店主とのやりとりもテンポが良くて楽しかったし、特にお祭りの射的のシーンではやたらノリの良いお嬢様っていう感じで、ミミの好感度アップの場面。

まずはゲイリーが撃って的をパンパン落としてミミに交代。するとミミも受けてたって、的をパンパン落とす。

するとゲイリーは背面撃ちを披露。的に背中を向けて鏡を使って的を落としてミミに交代。するとミミも同じように背面撃ちをしてみせる。

「やるな」となったゲイリーが次は仰向けになって銃を構えて的を落とす。ミミも同じように受けて立つ!という具合。

丁々発止、お高く留まらず、ちょっと勝ち気でノリのいい、チャーミングないい女。ここでミミを好きになれる。

 

 

ミミの叔母さんもチャーミング

他の出演者では、ミミの叔母であるフリッツおばさんも可愛い。

いいとこ一族に一人はいるタイプで (m調べ)、ユーモアがあって話の分かる叔母さんで、名誉と体裁をやたらと守りたがるキャロウェイを小馬鹿にしていて、そしてミミを大切に愛している。

自分たちがバカにされている舞台を見ても大笑い。「あれあなたよ!」爆笑、「あれ私よ!」大爆笑、といった具合。かわいい。

こういう、「自分を取り巻く環境の常識」ってやつに捕らわれない自由な精神を、私も持っていたいもんだ。

 

 

恋をするって、美しいのね

コメディ部分も楽しめたが、舞台でゲイリーが、ガゼット誌の表紙を飾る女の子に恋する歌を歌う一連のシーンが美しくてとても良かった。


ガゼット誌の表紙の女の子に恋をした主人公は、彼女を絶対に見つけ出すぞと決意してあちこちを探してまわる。床屋→馬車の停車場→海辺のリゾート→舞台のポスターで彼女を発見→花屋で花を買い→劇場へ会いに行く。

劇中劇のような演出で、歌に合わせて舞台がまわって、場面がすべるようにくるくる変わるので、テンポがよくて気持ちがいい。

舞台美術やセットなど演劇の良いところと、アップにしたりできる映画技術のいいとこ取りという感じ。

 

ロマンチックで、よかった。 曲もすばらしくて録音が欲しいと思った。

最後は劇場で彼女に会えて、写真をくださいと言って写真をもらって、不覚にも失礼なことを言っちゃって、彼女に嫌われるというオチ。

 

60年代以降の、やたらとカメラが動き回ったり、カットがガチャガチャと切り替わったり、アップになったり引きになったりと、やたらと世話しない現代映画とちがって、

この時代はカメラが大きくて動き回われないから、定点カメラでじっくりゆっくり映像を撮影していて品がいい。

 

 美しくて、素晴らしかった。これから見る方にこの良さが伝わるといいんだけど。

 

 

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