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【映画】「タイタニックの最期(1953)」 上流階級の美学が光る、大人のタイタニック

おすすめ度 ★★★★ 

題名 タイタニックの最期(Titanic)
監督 ジーン・ネグレスコ
制作 チャールズ・ブラケット
脚本 チャールズ・ブラケット ほか
出演 クリフトン・ウェッブ、バーバラ・スタンウィック、ロバート・ワグナー、セルマ・リッター
上映時間 98分 
制作年 1953年
制作会社 20世紀フォックス
制作国 アメリカ
ジャンル 歴史、モノクロ、パニック映画、アカデミー脚本賞

 


素晴らしかった。感動した。やはりどうしてもあの大ヒット作、ジェームズ・キャメロン版『タイタニック(1997)』と比較してしまうが、全く引けを取らない名作だと思った。

特に主人公スタージェスの人物像がいい。頑固で傲慢な上流階級の男として登場するが、ラストに向けてグイグイ男を上げていく。

上流階級に属する人間の「美学」「責任」を感じたよね。

 

あらすじ

主人公スタージェスはヨーロッパの上流階級の男。妻はアメリカ人で、娘と息子がいる。夫婦仲は冷めきっていて、妻は二人の子供を連れて生まれ故郷のアメリカへ渡ろうと、タイタニック号に乗船していた。

スタージェスは三人を追ってタイタニック号に乗ろうとするがチケットがなくて乗船できない。そこでスペイン系の労働者から大金でチケットを強引に購入し、なんとか乗船する。

家族と合流したスタージェスは妻と話し合うが、ヨーロッパの上流階級で子供たちを育てたいスタージェスに対して、妻は生まれ故郷のアメリカで育てると言って譲らない。

そんな夫婦喧嘩をよそに、娘のアネットはアメリカの大学生ギフと出会って猛烈なアプローチを受ける。

そんな人間ドラマをよそに、彼らが乗るタイタニック号に世紀の悲劇が訪れる。

 


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まず、あの有名なキャメロン版『タイタニック(1997)』のこと

『タイタニック』と聞けば、まず思い出すのはジェームズ・キャメロン版『タイタニック』なのだけれど、私は別に嫌いじゃなくて、タイタニック号が主役として見れば名作だと思う。

“タイタニックの” 物語は迫力あるし、何よりお金がかかっていて、特撮映画としても見どころ十分。

でもレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットのラブ・ストーリー映画としては全然評価しない。二人のラブ・ストーリーは私にとってはどうでもいい。あくまでもタイタニック号が主役として見る。

たぶんキャメロンにとってもどうでもよくて、大きくて広いタイタニック号を隅々まで見せるために二人を設定しただけだと思う。

下層階級のレオと上流階級のケイトが出会い、恋に落ちて、あの広いタイタニック号を二人でやたらと走り回り、「はい、ここが一等客室でーす!こちらが三等でーす。全然違いますねー、行き来もできないんですねえ!」「ここがボイラー室で~す。労働者が炭だらけになって石炭をくべていまーす」「こちらが上流階級の方々用の食堂でーす」という感じに見えて、「ああ、二人はガイド役なんだな」と思った。

今作『タイタニックの最期』も、キャメロン版ほどあからさまではないが、そういった構成は基本的には同じ。

キャメロン版でキャシー・ベイツがやっていたモリー・ブラウンに相当する成金女性もモード・ヤングという名前で出てくるし、

ビリー・ゼインが演じた(ローズの婚約者役)みたいに、いつの間にかボートにしれっと乗ってる卑劣な男もちゃんとでてくる。

というか、キャメロン版『タイタニック』が今作と同じ構成なのだけど。もっと言えば事実がベースだから同じになるのは当たり前。


という訳でやっぱり今作も、上流階級、労働者階級、若者の恋愛模様がそろって、タイタニック号の中をあちこち見せてくれる。物語に沿ってタイタニック号の中を見られるから自然で効果的だった。

 


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こちらを推したい

新旧タイタニック映画を見て、個人的にはこちらの旧版『タイタニックの最期』に軍配を上げたい。

なぜならキャメロン版はガキのラブ・ストーリー仕立てだけど、こちらは夫婦のドラマが中心になっているから大人のドラマ仕立てなのですよ。

ヨーロッパの上流階級に属するスタージェスとヤンキー育ちの妻との身分違いの結婚の結末とか、階級社会に属するスタージェスとリベラルな妻の文化的な違いとか、そこからくる子育て方針の違いとか、はたまた若者である子供達との世代間ギャップとか、悩みの内容も大人向け。

子供の観客を全然想定していない作りになっているところが好感。


モブキャラたちもいい役割をしている。特に最後の方、老夫婦の婆さんが「私は年寄りだし、夫と離れられません」と言って救命ボートに乗り込むのを断る、その真後ろにもう一組老夫婦がいて、そっちの婆さんはボートに乗っていた(笑) 後ろの爺さんの心境やいかに。

 

 

主人公スタージェスの美学が光る

主人公スタージェスは上流階級の男で、避暑地から避暑地へヨーロッパ中を渡ってホテル暮らしをしていて、そういう生活に自信と満足を感じている。華やかな、貴族的な、資産階級の男だ。

逆にそういう生活に嫌気がさしている妻とは折り合いが悪くて、もうすっかり冷めきっている。虚飾というか、遊んで暮らすような、ホテル暮らしの根無し草というか、そういう生活を子供たちにさせるのは嫌だと。彼女はアメリカ出身らしく、手に掴めるような、実態のある生活がいいというわけ。

でも自分に絶対の自信があるスタージェスは、妻に自分から歩み寄る気は全くない。なかなかに高慢ちきな男だ。

ところが、タイタニック号が氷山にぶつかって、家族の生命の危機と悟ったとたんに、頼りがいのある責任感の強い男ぶりを発揮し始める。

船長から「女と子供を優先する。男の分の救命ボートはない」と聞かされたスタージェスは、すぐに覚悟を決めて、家族やほかの女子供のためにテキパキと動き始める。

まず家族を安心させるようあえて落ち着いた素振りをみせ、「たいしたことじゃない。ただの宣伝のための予行練習だろう」と嘘をつくところが男前。そして家族3人の救助の段取りをつけると、すぐに3等客室に向かい、自分にチケットを譲ってくれたスペイン系の家族を救いに行く。

その即断ぶりに感激した。

なんていうのかなあ。上流階級に属する男の責任を感じたよね。エリートの自覚、美学を感じた。


私は常日頃から、エリートは優秀だからエリートなのであって、そしてその能力は凡百の我々から搾取するためではなく、守るためのものであってほしいと思っている。能力があるということは、そうでない人間を守る責任があるし、持てる者の美学を持ってほしいとつくづく思っている。

だから、私にとってスタージェスはその鏡みたいな男だ。かっこよかった。思えばチケットを譲ってくれた男の家族には最初から優しかった。

最後は沈没するタイタニックと運命を共にする。

ハッピーエンドじゃないけど、いい映画だった。アカデミー脚本賞を取ったらしいけど、納得。

 

 

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