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仲間選びは慎重に。【映画】『現金に体を張れ(1956)』キューブリックの監督デビュー作

おすすめ度 ★★★ 

題名 現金に体を張れ
監督 スタンリー・キューブリック(The Killing)
脚本 スタンリー・キューブリック
出演 スターリング・ヘイドン、エリシャ・クック、マリー・ウィンザー、ヴィンセント・エドワーズ、ジェイ・C・フリッペン、テッド・デ・コルシア、コーラ・クワリアーニ
上映時間 85分
制作年 1956年
制作国 アメリカ
ジャンル 犯罪、フィルム・ノワール、モノクロ



ドライな演出が光る作品。後半に行くにしたがってグイグイとスリルを上げていく。派手なアクションは無く、プロットと演出で緊張感を出すタイプの映画。

登場人物の誰にも感情移入しない冷徹な目線が、キューブリックは最初からキューブリックだったんだなと思わせる。

キューブリックが写真家から映画監督に転向して、自主制作映画のような低予算映画を数本撮ったあと、ハリウッド映画監督デビュー作となったのがこの作品。

”現金”と書いて”げんなま”と読む。

 

 

あらすじ

5年間の刑務所暮らしから出所してきたジョニーは、競馬場の売上200万ドルを強奪する計画を立て、仲間を募る。しかしその中の一人、ジョージの妻が計画を聞き出し、愛人を使って横取りしようと画策。計画にほころびが出始める。それでもジョニーは予定通り計画を実行し、うまく200万ドルの強奪に成功したのだが・・・

 

 

主役はだあれ?

とにかく目立つのは、割と堅実そうで面白みのない主人公ジョニーよりも、冴えない男ジョージとその妻シェリー。

欠点しかない夫婦。


ジョージは競馬場の窓口係。絶対に成功なんてしなさそうなパッとしない小男で小心、妻のシェリーにベタ惚れで完全に牛耳られている。

どうやらシェリーを口説く際、「俺はBIGになる。良い家に住まわせて贅沢させてやる」みたいなことを言って、結婚に漕ぎつけた経緯があるらしい。

でも競馬場の切符売りだから、もちろん贅沢には程遠い。


👇ジョージ役のエリシャ・クック


By trailer screenshot (King Brothers Productions - Monogram Pictures) - Dillinger trailer, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=112044405

 


一方、妻のシェリーは強欲で残酷。

完全にジョージには見切りをつけているが、それでも一応一緒にいて、下男のように見下して、残酷な言葉で傷つけて楽しんでいる。ジョージが話しかけても目も合わさず、食事も作らず、悪びれず、そろそろ見切りをつけて愛人に乗り換えようかというところ。

このシェリーって女、嘘をつく気もないみたい。愛している素振りなんて全然みせないし、金目当てなことを隠そうともしない。

とにかく「私を愛してるなら証拠(お金)を見せて。約束を守って」ということらしい。


👇 シェリー役のマリー・ウィンザー


By Studio Publicity - [1], Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=82208107



途中でジョニーに「お前は性悪で頭のいい女だ。金を横取りして、奴には葉巻くらいしか与えないんだろう」みたいなことを言われた彼女は、

「あなた私のことが分かってないわ。葉巻一本だって使わせないわよ」

と言っていた。気持ちのいいくらいの悪女ぶり。



ところがどういうわけか、そのうだつの上がらないジョージが大金を手に入れるチャンスを掴んだらしい。だからシェリーはその金を、愛人と一緒になって横取りしてしまおうと考える。

で、その愛人のバルというのがイタリア系っぽい垂れ目の、いかにも女にモテそうなチンピラで、恋愛をゲームのように楽しむようなタイプの男。

バルはジョージの取り分だけでなく200万ドル全部を横取りしようと言い出す。頭は悪そうだから必ずどこかで失敗するだろうけど、ジョージと違って野心と実行力はあるみたい。

要するに男らしい。


👇 バル役のヴィンセント・エドワーズ


By ABC Television-photo by Leigh Wiener - eBay itemphoto frontphoto back, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=23336130

 



バルはシェリーを本気で相手してはいないと思うけど、シェリーにとってはバルの方がお似合いなんだよね。なんでジョージみたいな男とくっついちゃったかな。

バルが相手だったら、まあ幸せにはならないと思うけど、毎日楽しいよね、シェリーにとっては。だって一緒に悪事を企めるし、ジョージよりは多少長めに夢を見せてくれるかもしれないし。

それにシェリーじゃなくても、女はジョージみたいな、「私にベタ惚れで、私の為ならなんでもしてくれる男」なんて、絶対にそのうち見下すよね。

バルの方は「私のためにではなく、自分の欲望の為になんでもする男」だから、うっかりすると捨てられちゃう。

だからもし捨てられたくなければ、こっちが媚びる必要もでてくるってわけ。

 

 

シェリーの悲哀が光る

バルに対してはなんの感想もないけれど、ダメ男ジョージと悪女シェリーの最期のシーンは結構見せ場だった。

私はシェリーに同情した。

傷だらけで家に帰ってきたジョージを「あなたってどこまでバカなの。撃たれるなんて。歩けるうちに出てった方がいいわ」と言い、救急車を呼んでほしいと言うジョージに「車を拾ってよ」と言うシェリーの、悲しげな表情。

愛なんかないけど、5年間一緒に暮らした男が死にゆくとなれば、多少の同情心はでてくる。

でも最後まで悪女に徹したその態度に「悪の美学」みたいなものを感じて、感動した。

「悪は悪に徹するのよ」 そうでなっちゃ。


このシェリー役のマリー・ウィンザー初めて見たけど、ほんと見せ場だったよ。いい演技してた。

 

 

教訓

最終的には「仲間選びは慎重に」ということと、「トランクはケチらず、もう少しマシなものを買いましょう」ということかな。


ところでこのダメ男ジョージ役、どっかで見たことがある・・・

は!( ゚Д゚) 『幻の女(1944)』の、ドラマーだ!! 

 

 

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