mlog

割と自己流で生きています

【本】星新一著「天国からの道」(新51) 星新一の処女作と、SFラブ・ストーリー『火星航路』に注目



題名 天国からの道
作者 星新一
表紙 後藤貴志
出版社 新潮文庫
出版年 2005年
出版国 日本
ジャンル SF、ショートショート


これはかなり最近の方の星新一短編集。

表紙は、私のような40年近い星新一ファンからするとまるで馴染みのない、後藤貴志氏というお方。

(-_-;)うーん、メルヘンだなあ。ファンシーだなあ。星新一ではないなあ。SFじゃないなあ。(~_~)ウムム




全21篇。特に印象に残ったのが以下の二編。『火星航路』と『狐のためいき』の備忘録。


『火星航路』

星新一にしてはめずらしい、SFラブ・ストーリー。

恋愛といえば、これほど感情的な行為もなさそうなものだが、星新一はいつもの感情を廃した乾いた文体で淡々と語っていく。

登場人物は若く優秀な男女6人だが、そのうちの2人が主人公。二人とも若く美しいが、恋愛というものに飽きているというか、恋愛感情自体に懐疑的な二人で、そう簡単に恋になど落ちないと思っている。火星へ向かう宇宙船で出会うが、暇つぶしとしてお互いラブレターを交換し合う遊びを思いつく。そもそも相手への恋心がないため、いろいろと頭をひねりながら「ラブレターというものはこんな感じかな」と淡々と書いて送りあうが、そのうちに第三者が「面白そうね、私も参加したい」と参加してくるなどの変化もあり、徐々に本当の恋愛のような気分になっていく、というストーリー。


私に恋愛を語る能力はないが、映画やドラマなどのフィクションの世界では、恋愛とは「落ちるもの」、意図せず相手に惹かれて燃え上がってしまうもの、とされているように思う。

でもわたしの乏しい経験から言って、恋愛は「自己陶酔能力(自分に酔うナルシズム)」がないと出来ないと思う。私のように自分の中に湧き上がる感情を「これは一体なんだろう」とか思っていろいろ考えて、「なるほど、こうこうこういう理由で今このような気持になっているのだな」などと分析するタイプは恋に落ちることは出来ない。恋とは落ちるものではなく、自分で恋愛を”する”もの、積極的に飛び込んでいくもので、相当能動的な強い意志がないと出来ないと思ってる。

でもこの作品での二人はその真逆を行っていて、自分や相手、その行為を冷静に分析しているうちに恋愛に陥ってしまう。

一言で言えば「恋愛シミュレーション」なのだと思った。

考えさせられる秀作という感じで★★★★



『狐のためいき』

星新一の処女作。主人公の狐は人間との混血であるため、人間の気持ちが分かりすぎてどうしても人間を騙すことができず色々と思い煩う、という童話的な作品。

作品としては特に熱く語るほどではないが、この作品の価値は、あの星新一の処女作であるというところ。




他の作品もハズレじゃないけど、この2篇だけでも読む価値あり。

 

星新一サイト
https://www.hoshishinichi.com/

 

 

 

 

【関連記事】 おすすめ星新一短編集